白耳義

Jun.24.99

白耳義【Belgie フラマン語・Belgique ワロン語】


ベルギーは、私にとっては身近な国です。

車で、45分くらい南下すると、国境を突き抜けてベルギーに、入ってしまう。

かつては、オランダの一部で、北部のアントワープあたりは、フランドルと呼ばれ、大産業都市として栄えていた。

19世紀に、独立国として成立したが、国内で、オランダ系のフラマン語族と、フランス系のワロン語族の対立構造が、いまだに政治的に問題となっていて、何度も分離しようという議論はあったが、いまでも一つの国として存続している。

今回、卵や鶏肉のダイオキシン汚染や、コカコーラの食中毒症状の事件で、散々な目にあっている。

数年前には、少女誘拐殺人連続犯を野放しにした事件で、周辺諸国から非難轟々で、このところいい話が無い国。


今週、ニワトリの飼料に、有害物質が混入した原因を作った、と思われる、廃油業者が逮捕されたが、ベルギー産の食品産業のダメージは、非常に大きい。

さて、今回のダイオキシン/PCB騒ぎでは、食品の「ベルギー製」は、ことごとく消費者から、ソッポを向かれ、「オランダ製」は、安全というイメージが、オランダでは定着してしまった。


実は、この「ベルギー」と「オランダ」の区別が、ぐちゃぐちゃになっていて、判別が難しい街がある。

ベルギーは、横にベターっと長い形状の国で、北側は、ずっとオランダと国境を接している。

EU/ECの統合以前から、ベルギー・オランダ・ルクセンブルグの三国は、ベネルクス関税同盟を組織して、国境には殆ど検問所もなく、車で国境地帯を走っていると、知らない間に、国境を越えてしまったりして、道路標識を見て、ようやく気が付いたりする。


Baarleという、国境の街がある。

正式には、オランダ側を、Baarle-Nassauと呼び、ベルギー側は、Baarle-Hertogという名前がついている。

遥か昔の、12世紀にオランダ側のブレダと、ベルギー側のHertog公爵との間に結ばれた協定で、相互の領土に沢山の、飛び地を残したまま、国境を確定してしまったまま、現在に至る。

これほど、奇妙な国境の確定は、おそらく世界でも例をみないのではないかと、思う。

国境から5kmくらい離れた場所まで、飛び地が入り乱れており、オランダ側のBaarle-Nassauには、ベルギー領が23箇所あり、反対のベルギー側には、オランダ領が7箇所ある。

通りを挟んだ向かいの家や、同じ通りの、お隣りさんが別の国だったりするので、区別しやすいように、それぞれの家に、国旗が建ててある。

極端な場合は、玄関がオランダで、庭はベルギーという住宅まである。

この街には、警察も、消防も、税務署も、全部二つ混在している。

オランダの警察官は、ベルギー領では、活動できないので、玄関で、警察官をぶん殴ると、その瞬間は、公務執行妨害で逮捕されるが、国境を越えて、ベルギー領の、庭に逃げ込めば、逮捕できない。

買物の支払いも、当然オランダギルダーと、ベルギーフランの両方が流通していて、どちらでも払える。

統一通貨ユーロの導入を、誰よりも歓迎しているのは、この街の住民だろう。

オランダと、ベルギーでは、税制が違うから、オランダ領にある売店なら、隣にあるベルギー領の自販機よりも、煙草が安く買え、ベルギー側のスタンドに行けば、オランダ側よりも、ガソリンが安く買える。

こんな状況なので、古くから密輸業者の巣くつともいわれたが、両国から、その特異性に目をつけた近隣都市の住民が、買物におしよせて、何時行っても賑わっている街だ。


今回のダイオキシン/PCB騒ぎでは、ベルギー産の鶏が、危険視されているが、豚に関して、数年前に笑い話のような、本当の話があった。

この地区では、養豚業が盛んだが、豚の疫病が流行し、オランダ側の衛生当局は、蔓延を予防するために、オランダの養豚業者に、豚を移動させる事を禁止した。

ところが、ベルギーの当局は、何も対策を取らず、お隣りの、ベルギー地区の養豚業者は、何も規制されなかった。

かくして、結局疫病は、町中の豚に、どんどん伝染してしまったという。

このころから、ベルギーの食品衛生管理行政は、オランダに比べて、緩かったようだ。

今回の事件は、そうしたベルギーの行政体質に、ツケがまわってきた、皮肉な結果ともいえるだろう。