野苺


初夏の頃になるとさぁ、野原一面に苺がなんの。摘まんで口の中に入れると、ちょっと酸っぱくてさ.....

自分の一歩後ろを歩いている相方は、相も変らず自分の故郷の話をまくしたてている。別にこっちが聞いていようがいまいが、この男が気にかけている素振りをみせたことすら無い。喋りたいから勝手に喋っているだけだ。

噛むと、こう、ぷちっと弾けてさ。じわっと甘さが広がるっつーか.....美味かったなぁ.....

自分で勝手に故郷の事を思い出しては、勝手に喋りたてる。そんなに故郷が恋しいなら、とっとと帰っちまえ。

でもさ、中には赤くっても目茶苦茶酸っぱいのもあって、こいつを見分けるのが至難の技なんだ。どれでも口に放り込んでると突然ハズレ!

苺に当り外れがあるなんぞ、それ迄は考えもしなかった。ハウスで管理栽培される果実は、全てが品質を同一化する為に基準に沿って生育される。市場に出て消費者の元に送られる商品に外れがある事などはありえない。

酸っぱさがツーンときてさ、涙出そうになる。だから、じっくり見分けなきゃなんないんだ。俺ってさ、苺の見分けにはちょっと自信あんの。

そらまた始まった。いつもの自慢話。とうもろこし畑の隠れ鬼に、滝壷の魚取り --- 何でもお前が一番だったと言いたいんだろう?当たり前ではないか。生まれついて抜きんで居ていないなら、そこいらの餓鬼と同程度ならファーストにまで昇れやしない。

ピザで売ってるハウスで赤くなったプラスティックみたいなのとは、ちょっと違うんだぜ。香りが違う、甘さが違う。歯ごたえだって全然違う。たっぷりと太陽を含んだ果物ってのはさ、見た目は不揃いでも中は栄養がたっぷりなんだ。あはっ!俺みたいじゃん!

何だ、結局それが言いたかったのか?

違うよ!あんたにさ、食べさしてやりたいって思ってさ....一番甘いのを俺が選んでやる。最高に上手いヤツをさ

だったら、今すぐ地面に這いつくばって甘いのとやらを探し始めればどうだ?
足元に一面野苺の群生。歩を踏み出す度に、ぐちゃりぐちゃりと潰れて鬱陶しい。だが --- その度に立ち昇る香りは、甘い。「食欲」をそそるほどの、むせ返るような芳香。

俺に食べさせたいのだろう、そう言ってセフィロスは常に半歩自分の右斜め後ろにいるはずの相方を振返る。そこには、何が嬉しいんだか、何時もヘラヘラ笑いを浮かべた彼の、それこそ太陽を一身に取り込んだような妙に屈託無い笑顔が

あるはずだった。


--- そうだったな ---

ああ、お前は、もういない........



振返ったセフィロスの背後に、メテオの丸く大きな影が野原を覆い尽くしている。



華南さんと二人で一緒に踏んでしまったカウンター1515(いちごいちご)番記念に、苺を踏む話を書いてみました。しかし、ヘルシンキとテキサスで何で同じカウンター番号が出るのだ、Geoさん???

このアイコンは華南さんとこから借りました