鳳凰たずねて冥界三千里ぴよ、の巻 (前振り)

 枯れた花が茶色く散らばったままの処女宮の裏庭の真ん中には、死体が転がっていた。

 何日か経っているものらしく、腐り始めて蝿がたかっている。これでは、隣の獅子宮から文句が出ても仕方があるまい。だいたい、このド糞暑い夏に死体なんか放っておいたら直ぐに腐るって分りきった事だ。シャカは、死体がぷかぷか流れてる川だの、腐ってるのがゴロゴロ転がってる年中熱波、脳味噌も常夏の発展途上国人だから気にならないのだろうが・・・お隣の魔鈴に同情しちゃうっぴ。

「で、なんで、こいつがおだっぷー(注:お陀仏の事らしい)してるんだ?」

「私が殺したに決まっている」

シャカは妙に威張った調子で傲慢に言った。
「お前、こいつのこと随分気に入ってたのに、いきなり殺すって一体なんなんだ?可愛さ余って憎さマンモスっての?」

 元曼珠紗華畑で転がっているのは、紛れも無くあの鳳凰座のやさぐれたガキの死体だった。

「神に等しい私は、ただの感情に任せて殺傷をするなどという非論理的な行動は取らぬ」
感情だけで生きてる癖によくいうよ....俺様が呆れていると、シャカはすっかりナルシィ・モードに突入して、事の次第を言い訳し始めた。

 だが、まず状況を説明しておく必要があるだろう。


 いつもは昼前に階段を登って俺様の煎れる絶妙アイスティーを物乞いに来る乞食坊主、もといシャカが、夕方また今度は階段を降りてきた。
「貴卿に仕事を持ってきてやった。貴卿でも時には役に立つと分って有難いだろう。感激の気持ちは尤もだが、今は歓びの涙に咽て私の足に口付けている場合ではない。来たまえ」
あのな〜.....
「お前、若しかして俺様に頼みたい事でもあんのか?だったら、それなりの頼み方ってのがあるだろ」
シャカは憮然としたが、俺様の言う事はもっともなので(当然っぴ!)ぶつくさ何事かを口の中で呟いたが、転法輪印なんぞと大層な名前を付けた屁理屈をおっぱじめはしなかった。結構急を要する頼みなのかも。焦らしてやったら面白いかな?
「・・・デスマスク・・・頼みがあるから一緒に来てくれたまえ」
「来てくれたまえ、じゃなくって来てください、っぴ」
「・・・・」
おーっと、ちょっと瞼がピクピクしてるぞ。目を開けるつもりかな??
「あの・・・君に任せたものの、君が省みなかったばかりに、敢え無くはかない命を散らした哀れな花達の事なのだが(注:「その4お花の世話」参照の事)」
どきっ!
「だから、責任とってわざわざ待合室まで苗を取りに行ってきただろ!」
「あの苗は育たなかった」
「だいたい、あの世のものをこっちに連れて来るってぇのが無理なんだっぴ」
「あの花達は幸せに咲き誇っていたのだ。多くを求める事すらせず、ただ一日に一回与えられる水だけを拠り所に・・・だがその、ささやかな拠り所すら叶えられる事無く死んで行ったのだ・・余りにも無情・・・」
シャカはちりーんと手に持った鈴を鳴らした。

「・・・例の、青銅のこわっぱどもと連れ立って女神を助けに行く件は当然ながら、契約不履行につき破棄だな・・いや・・・君は私の信頼をも裏切ったのだ。これは、私の順番に君が替りに女神救出任務に付合わねばならぬ程の罪であろうな」
げー!!冗談じゃないぜ!
「ここの所、随分と静かなようだが・・・次は・・そうだな・・来年・・
ワールド・カップ開催時辺りに何かが起こると、私の第7感は告げている・・」
ワールド・カップを観ないで、あのしょっ中、神仲間とケンカしてはとっ捕まってる女神の救出に、ガキどもとつるんで行くのなんて俺様、ぜーったいイヤだっぴ!!
「ほお、貴卿には何かその時期、都合の悪い事でもあるのかな?勿論、我々、女神の聖闘士にとって、聖なる方の救出以上に大切な事などあろう筈はなかろうが・・」
アホ!!神だ、仏だって、4年に一度の祭典以上に大切な事なんぞ無いって事も知らんのか??嘘だと思ったらアルデバラン(注:彼は某つばさ君も留学したブラジルの出身である)にも聞いてみろ!
「だが・・まぁ・・私はこの間も先陣切って女神の為に死んで来たばかりではあるが・・・他ならぬ貴卿の頼みとあらば・・・今回の花の事はなかったこととして・・」
わーった!わーったよ!!!連いて行きゃいいんだろ!だーもー、俺様ってばホント、友情に厚くって困っちゃうっぴよ.....
俺様は仕方なくシャカの後ろについて、よこっら階段を登っていったのだった。


前振り長すぎて、本編に続く