「貴卿も知っての通り、私の可愛い一輝は不死鳥の星の下に在る男だ」
お前に可愛いなんて思われたのが運の尽きっぴ。
「死んでも必ず蘇る不屈の星座の聖闘士だ」
だからって、ホイホイ殺すなよ...
「そして、フェニックスが死の淵から舞い戻る際には、艶やかな炎が燃えたつ」
はいはい、再生の炎ってやつね。それくらい知ってるっつーぴ!
「その炎は、死に絶えたものをすら蘇らせる。動物しかり、冥界に咲く華麗な花々しかり」
なんか読めてきたぞ。そういや、サガが不死鳥の小宇宙を利用して枯れた花を蘇らせるとか、何とか言ってたっけっぴ....
「で、ついでに再生の炎で、お前の枯れた畑に花を咲かせようって魂胆か?」
「ついでではない。元来の目的として再生の炎を利用するのだ。間違えるな」
そんなこと偉そばるなよ....
「だが、死んで3日目になるというのに、一輝はまだ帰ってこない。だから貴卿が黄泉平坂に行って連れて来るのだ」
「そんなモン、自分で呼び戻しに行け!ついでに、トリと一緒に六道巡ってきたらいいっぴ。きっとトリも喜ぶっぴよ。折角の夏休みなんだしさ」
「そうしたいのは山々だが、私は多忙の身ゆえ冥界を楽しむ余裕は無い。楽を絶ち苦を甘んじる。それが私に課せられた定めゆえ」
「何すかしてるぴー。だったら、お前が毎晩双児宮でやってるアレは何なんだ?単に、殺してごめん、帰ってきてくれ、って謝るのが嫌なんだろうが」
シャカは図星を突かれて黙りこくった。
「.....そもそも、この花が全て枯れたのは.....」
「ぴ?聞っこえないっぴよーん!」
「・・・・ワールドカップ・・・」
「あー判った、判った!行きゃいいんだろ、行きゃ!!」
どろ どろ どろ どろ〜ん
シャカは簡単に言ってくれるが、冥界ってのは結構広いのだ。ここを、あのトリ探して歩き回るなんて面倒っぴ....やれやれ、と溜息を吐きながら、そこらをうろついていたら、暗黒ペガサスに突き当たった。
「よお、黒い方のペガサス!元気か?」
「あっ、蟹の旦那!御無沙汰してます。今日は何の用っすか?また花の苗でも探しに?俺、手伝うっすよ」
暗黒ペガサスはぺこりと頭を下げた。相変わらず愛想の良いガキだ。なにしろ、もう一人の元気者、アイオロスはずっと化けっぱなしで留守っぴから、こいつが、文句無くあの世一の元気者だろう。
「いや、確かに俺様はまた探し物に来たんだが、今度は花じゃないっぴよ」
「・・・もしかして一輝様っすか?」
ペガサスは突然真剣な顔になって、ひそひそ声で囁いた。
「蟹の旦那が来てくれて良かったっす。俺達じゃ、どうにもなんなくて・・・てぇへんなんっすよ・・・俺達って、いつもは、ここで静かに慎ましく暮らしてるじゃないっすか・・」
「一輝に平和を乱されるってのか?」
「いえ、いえ!一輝様の顔を見れるのは嬉しいっすよ!でも、どうも、見えられると色々と・・ねぇ・・」
をい、をい....俺様、面倒な家庭の事情に巻き込まれるのはヤだっぴよ.....
「とにかく!早く来てください」
有無を言わさず腕を引っ張る黒天馬と一緒に黄泉の国の奥の方に行くと、穴に飛び込もうとしているフェニックスを暗黒聖闘士どもが引き留めているところだった。
「おい、トリ!何やってんだ?シャカが待ってっぞ」
そう言うと奴は、遮二無二、無理にでも穴に飛び込もうとした。鳳翼天翔の連発で、冥界の空は色とりどりの光が舞い、あちこちで「たまやー!」の声がわいている。だが、飛び込まれると、俺様でも引き戻せないので、俺様も暗黒どもと一緒にフェニックスを穴からは離れた所に引きずってきた。フェニックスは、どっぷり落ち込んで蹲っている。そりゃシャカの所に帰るのが嫌なのは分るけど、俺様だって使命を帯びているっぴ。何がなんでも、こいつを連れ帰らなければならないっぴよ。俺様は、この明快なる頭脳と、爽やかな弁舌、そして暖かな人柄で持って説得に当ることにした。
「ただでさえ、他のみんなより一週間も早く日本を出てきたのに、今度は冥界に引き篭もりっきりなんて、瞬ぴーはきっと連れ戻そうとペットの鎖を送ってくるっぴね」
「あいつには兄は死んだと言ってくれ」
「まぁ、あの鎖とはいえども、そう簡単には冥界に潜り込む事はできないっぴけど」
「兄に頼らず一人で生きていけと・・・あいつには、それだけの力がある筈だ」
「でも瞬ぴーは、夏休み聖域修行キャンプ中はアフロディーテんとこに下宿するんだよな・・アフロディーテに頼まれちゃったら、俺様ってやさぴーから積尸気冥界波しちゃうかも・・」
「俺は初めから、この世にはいなかったものと・・」
「それに瞬ぴーってハーデスのお気に入りだから、ペットの鎖も冥界フリーパスだったりして・・」
「俺の事は忘れろと・・・」
「瞬ぴー、この事を知ったら心配するだろうから絶対、鎖に探しにこさせるっぴ」
「星矢や紫龍達と力を合わせれば、俺など居なくても大丈夫だ。あの毛唐野郎は気に入らんが・・ぶつぶつ・・」
「瞬ぴー、多分怒るだろうな」
「・・・」
「マンモス怒るだろうな」
「・・・・」
「今度は、一足先に聖域に来た時みたいに、面倒を見るって約束したシャカも、今度は瞬ぴーを宥めてはくれない事、請け合いっぴね・・・」
「・・・・」
「瞬ぴーの怒る顔が目に浮かぶようだっぴ」
「うわあああああ!!!」
ぱっと目の前からフェニックスが姿を消し、暗黒聖闘士達は一斉にほっとした表情を浮かべた。
「どうも、お世話になりました。かたじけのうございます」
「だんなぁ、また遊びに来て下さいっすねぇ!」
なんぞと言いながら頭を下げている暗黒ども(どうでもいいけど、こいつら時代劇の見過ぎじゃないか)に、さりげなく手を一振り、俺様も帰る事にした。
ああ、また(あの)世直し、人助けしちまったっぴ....俺様ってば...ホントその気はなくてもヒーロー体質っていうか、なんていうか.....うふっ
アフロディーテェ!見てたかーい??
ともかく.... 処女宮の裏庭に帰ってみると、一足先に帰ってきたらしい一輝が、好むと好まざるに関わらず不可抗力で蘇らせた花畑は、月明かりの下で見事に満開だった。匂いを嗅がないよう鼻をつまんで宮に入って行くと、蓮の台座に座ったシャカが嬉しそうに
「ご苦労だったな。今、弟子に夕飯を作らせているから、有り難く頂いていくがよい」
と偉そうに言った。どうせ、またカレーなんだろ?帰り道に獅子宮で魔鈴の日本料理を食わしてもらう方がよっぽどいいっぴ。隣の粗大生ゴミを始末してやったんだから、それくらい馳走になるのは当然の権利っぴ。しかし ---
「ところでシャカ、肝心の一輝の姿が見えんが・・・どうしたっぴ?」
「あやつは地下に繋いである。今回の行動は多少我侭が過ぎたゆえ、ホンの少し灸をすえてやる必要があるのでな。なに、案ずるでない。可愛いからこその愛の鞭だ」
にたりと壮絶にシャカが微笑んだ。俺様は、ちょっと一輝が可哀相かな、と思ったが、取敢えず、ここを早々に退散するが賢明と感じたので、シャカに挨拶もそこそこ、魔鈴の日本料理目指して階段を駆け降りた。
くわばら、くわばら・・・