「なんだ、これはー!!!」
神に最も近い男、シャカの小宇宙が爆発した。聖域中に震度7の波紋が広がる。慌てて駆けつけた最高位の聖闘士達は、何やら薄汚い茶色の畑の中央に、インド土産のカレーの鍋を抱えたシャカが、目をカッと見開き仁王立ち、背景は極彩色のマントラ、天使付き...という恐ろしい光景を目にしたのだった。
その足元では、事態を理解していないらしきミロとカノン、そして、どうやらシャカ様ご推薦六道特別ツアーにお出掛け中らしいデスマスクの抜け殻.....
「一体、何事なのだ!?」
と一喝したのは元教皇シオンの幽霊である。半分透けている前教皇に良い所を取られた現教皇サガは、すっかり不機嫌になった。不機嫌になったついでに、サガは自分と同じ顔で呆けている弟に八つ当たりを決め込んだ。
「目を覚ませ、この不肖者めが!ギャラクシアン・エクスプロージョォォォンッ!!!ついでに幻朧魔皇拳スペシャル!受け取れ、兄の愛!!!」
カノンは空高く飛んで行き、地上では既にミロが氷の棺の中で凍っていた。
「まあ、まあ、皆さん、落ち着いて」
と微笑んだのは、{出せー!これが師に対する態度か!!}などと妙な物音を立てているランプを手にしたアリエスのムウである。
「ところで、シャカ。この裏庭には実は私は初めて足を踏み入れたのですが、ここには、あなたのご自慢の花壇があるそうですね。折角来たのだから、是非とも拝見したいものです。皆さんも、そう思われませんか?我々がここで争っていても仕方有りません。美しい花々を見て、心を易めようではありませんか」
にこやかなムウの横では、アルデバランが感極まった表情で肯き、ランプは{出さないと化けて出るぞー!!}と物音を立てている。
「........ここが、その花畑だ」
「おや!するとこれが、現世の記憶を全て忘れさせると言う花ですか?私はもっと綺麗なものだと思っていました」
「この世では存在しえぬ美しさだったのを、このタワケ者どもが枯らしてしまったのだ!」
シャカが喚くと、ついでに魑魅魍魎が湧いて出た。
「で、なんで、そんなモンが聖域に咲いてるんだ?」
と、素朴な疑問が、その場に居合わせた黄金聖闘士達の脳裏を駆け巡り、共鳴したテレパシーは、聖域周辺20kmに住まう全ての生物に偏頭痛を引き起こした。
ともあれ、好奇心を満足させた黄金聖闘士達が、なーんだ、そんな事だったのか、ここまで走ってきて損した、いやいや、結構おもしろかった、そろそろ晩飯時だな、丁度いい腹ごなしだ、などと言い合いながらそれぞれの宮へ帰って行こうとしたその時、デスマスクが降ってきた。
「ぷはー!やっと息が出来るっぴ.....ほら、待合室界の花の苗!匂い嗅がないように6界回るの大変だったんだぜ」
「で.....何だ、その左手のは?」
「ぴ?これ?ああ、途中に落ちてたから拾ってきた。うちのデスマスク達の遊び相手にさ。マンモスかわぴーだろ?」
彼は、頭は痩せこけ目玉の垂れ落ちた人間、身体は毛の抜け落ちた犬、前足は鳥類、後足は緋虫類という物体を抱えていた。
「それは餓鬼界の番犬だ!さっさと返してこーい!!」
「あじゃぱー!!!」
デスマスクは再びさすらいの旅に出、後にマントラの欠片だの、魑魅魍魎だの、天使の羽だのが散らばり、カレーと一緒にインドから付いて来たシャカの弟子達は、来たばっかりなのに、いきなり掃除かよ.....と顔を見合わせては、溜息をつき合った。
ムウの手中のランプは、なにやら色が変り始め、その熱で溶けかかったミロは、「カミュウ
やっぱりボクに会いに来てくれ ---- 」とまで言った所で、オーロラ・エクスキュージョンをくらった。
その時、
「いい加減になさい!
試験勉強中なのに煩くて
集中出来ないでしょ!!」
突然に彼らの頭上から声が降ってきた。同時に、日本から地中海に至る全域において海水温度が一時沸騰点に達するという異状現象が観察された。この現象はエル・ドーニャと命名された。
閑話休題
星矢「エッ..エル、何だって?」
氷河「エル・マーマ?」
紫龍「エル・どうじゃ、だ、氷河」
星矢「エル・ドンニャン?時事問題だか何だか、期末試験直前になって、こんな面倒臭いのを引き起こさないで欲しいよな。覚えるの大変じゃん。俺、唯でさえ英語苦手なのに」
瞬「これ、多分スペイン語だよ、星矢.....」
星矢「ほら!なんでスペイン語なんか覚えなきゃなんないのさ!そんなの高校教科じゃないのにさ!俺だってギリシア語なら得意なのに・・・なんで高校教科にギリシア語が入ってないんだろう」
氷河「その様な使用人口の少ないマイナー言語、覚えたって仕方なかろう。その点、ロシア語は国連公用語だ」
紫龍「それを言うならば、中国語は国連公用語のみならず地球上において2番目に使用人口の多い言語である」
一輝「デスクイーン語は...人口865人のデスクイーン島においてのみ使用されている.......うわーっ!!!(泣)」
瞬「兄さん!待ってください、兄さん!!この試験を落としたら、また留年ですよ!行け!ネビュラ・チェーン!!!」
閑話休題その2
テティス「きゃーっ!!!ジュリアン様が....ジュリアン様が....茹ってしまわれた!!(TT)」
ジュリアン「ふっ...アテナ...君の熱い想い、確かに受け取ったよ......(倒)」
「サガ....私の花が枯れてしまった....」
「また植えれば良いではないか。丁度良い事に日本から、あのトリの青銅小僧の小宇宙がこちらに向かっている。彼をおだてて不死鳥の小宇宙を上手く利用すれば、一度枯れた花も蘇るやも知れぬ。それにシャカはあのトリが気に入っていただろう?」
「........」
「おぬしが不在の聖域では、花も傷心の余り死んでしまうのだ」
「........」
ここで、その場に居合わせた輝かしき最高位の聖闘士達は、砂を吐きながら去って行った。
「カレー食べような」
大事そうに鍋を抱えたシャカは、サガに促されて処女宮へと入って行った。後には
「ねえ?俺は??俺の晩御飯は??」
と騒いでいるカノンと、凍ったままの黄金聖闘士約1名、そして箒と塵取りを携えた弟子達が残されたのだった。
ちりーん(諸行無常の鐘)