カノンとでっぴーのカノン、の巻

 サガは、洗い終わった夕食の茶碗をふきんで拭いていた。

「サガ、今日は君のために特別なデザートを用意しておいた」
シャカがにっこりと微笑む。
「特別なデザート?」
サガの期待が高まる。シャカのメレンゲ乗っけ?シャカのトコロテンかけかもしれない。それとも、シャカの口移しデザートワイン??

 感動のあまり、床をゴロゴロ転がりまくって、ついでに五老峰までテレポートして老師を滝壺にけり落としたくなってしまうサガだったったが、 うろたえてるな、ぢぶんっ!!と、ぐっと抑えるのだった。


 シャカはもじもじと迷っている様子だ。
ううっ・・・・可愛い!カワイすぎるぞ、シャカ!

 暫く恥らっていたシャカは、意を決したように、壁の4次元ポケットから何やら小さな箱を取り出した。

「これ!」
「これって・・・シャカ・・・?!」
シャカから差し出された、ピンクのリボンがセロハンテープでくっつけられた箱を受け取り、サガは感無量といった表情で、贈り主を見詰めた。
「もしかして・・・」
「その、もしか、だ」
シャカが嬉しそうに微笑む。

なんてカワイイんだっ!!!

思わず掌をぐっと握り締め、「シャカ、かわいー!」と大声で叫んで、ついでに教皇宮まで、小宇宙を飛ばしたくなってしまうサガなのであった。


シャカは、サガの反応を注意深く観察している。サガは、手渡された箱に視線を落とす。

「これは・・・」
思わず言葉に詰まって、ごくりを生唾を飲み込む。


「これは・・・ 熟成こくまろカレー、ブーケガルニ入り・激辛・・・

パッケージを棒読みするサガの声を聞くシャカは、もー嬉しくって、嬉しくってぇ!という小宇宙が体内には収まりきらず、肩の辺りから燃え立っては、陽炎のように揺らいでいる。


「シャカ、これって・・・」
「バレンタインだから・・・」
恥らったように、ふと頬を染めて視線を逸らす様が、えもいわれず愛らしい。
しかし、これは・・・

「あ・・・ありがとう、シャカ」
思わず硬直してしまうサガだった。

「遠慮をする必要はない。君のために、この私が厳選したのだ。さぁ、食べたまえ!」
シャカがそう言いきったところで、興奮のあまり彼の小宇宙がぱっちーんとスパークし、 ビッグバンが起こった。

 サガは、そーっと指先で箱を開けてみた。途端、つーんと刺激臭が漂う。普段、視界を閉ざしているぶん、他の感覚が鋭敏なシャカは、その匂いを深く胸に吸い込むと、うっとりと恍惚にも似た表情を浮かべた。
 サガの胸を、小さな嫉妬にも似た感情が、ちくりと刺す。シャカにそんな表情をさせることが出来るのは、自分だけでなければならないはずなのに・・・っていうか、本当に勝手にやってろ、この大馬鹿ップルとは、正にこのことである。



 ぱっきんと、ルーを半分に割る。

 ぱっきん、ぱっきんと、8分の一の大きさにする。

 ぱっきん、ぱっきん、ぱっきんと、16分の1で32分の1で64分の1で・・・もういいや。

 シャカは、身を乗り出して、サガが自分の選んだプレゼントを口に運ぶのを、今か今かと待っている。あんまり期待しすぎて、小宇宙が拡大膨張し始めている。


 指先でつまんで、あーんと口開いて、目を瞑って、息も止めて・・・・



きっく〜!!!!!!!

さすが激辛・・・・(涙)

「おいしい?」
シャカは、サガの首根っこにぶらさがると、顔を覗き込むようにして尋ねた。
「うん・・・おいしい・・・」
涙を零して感動しているサガに、 一生懸命選んで良かったvvと、幸せ気分満載のシャカだった。

「さ!遠慮は無用。好きなだけ食べてもいいのだぞ?」
「折角のお前からのプレゼントだ。一度に食べてしまっては勿体無いだろう?」
かろうじて、笑顔を作ってみせるサガだった。 「それより・・」
「なに?」
「おかえし、だ」

 軽く添えた手を心持ち引き寄せるだけで、吸い寄せられる様に華奢な身体が寄り添う。微かに黄金の髪が揺れて、甘い香りが匂い立つ。金褐色の睫が震えているのが分るほどに間近にある。サガは、朱をさしたように鮮やかな唇に、そっと自分のそれを重ねた。(お好みのラブソングをBGMとして流して下さい)

 サガとシャカの小宇宙が交じり合ってスパークを散らす。黄金製闘士ともなると、ただのキスも交換した互いの小宇宙を重ね合い、溶かし合い、一つに融合する・・・そんな大いなる過程の手段の一つ。
 サガとシャカから、異次元系の小宇宙が沸きあがり、背後では、さっきのビッグバンで生まれたブラックホールが口をあけ、空間がよじれて、砕けた星は混り合った六道にアステロイドとして降り注ぎ、ブルース・ウィルスが大型隕石破壊の使命を帯びて旅立ったが、本人たちはすっかり二人だけの世界なので、全く気が付いていない。

「んん・・・・」

 先に離れたのは、シャカのほう。つ・・と、唾液が後を引く。シャカはうっとりとした表情でサガを見詰めている。

そう ----------
見詰めているのだ。
お目目ぱっちり開けて、見詰めているのだ。

 二人の愛の世界はよいとして、彼らの周りではちょっとした天地変動が起り始めて、唯でさえ歪んだ双児宮の空間が、捻れ始めていた。


 永劫とも思える見詰め合いの末、シャカの濡れた薄紅の唇がゆっくりと開く。
「サガ・・・」
サガもまた、自分を映す澄んだ目をぼーぜんと見返す。シャカが微かに微笑を浮かべる。

「今日のサガのキス・・・」
「ん?」
「カレーの味がして、おいしいっ!!

がば!と、シャカはサガに抱きつき、パンパンに膨らんだシャカの小宇宙が弾けた。


ちゅっど−ん!!!










と、いうのが、双児宮での小宇宙大爆発のとばっちりで吹っ飛ばされ、パンツ一丁で台所の屋根の穴から俺様ん宮に降ってきたカノンの言い訳だ。

「すまないな、デスマスク、急に邪魔して」
「まぁ、そういう事情なら仕方ないし、いいっぴけどさ・・・で、どうするっぴか?今夜は双児宮には帰れないだろ?」
俺様は、窓から見える、階段下の双児宮を見下ろした。カノンもまた、その方向に、ぼんやりと目を向ける。双児宮は桜色の小宇宙に包まれ、蜃気楼のように揺らいでいた。

「そうだなぁ・・・」
独り言のようにカノンが呟く。
「ミロん宮でも行って、ゲームすっかな。どうせミロはシベリア行って、今夜はあそこは無人だし」
カノンは、はぁ〜っと暗く、溜息をついた。

「そりゃいいけどさ、どうやって、あそこまで行くつもりっぴか?」
「どうやってって・・・歩いて」
 全く、物事を判ってない男だなぁ・・・ちっちっち!と、俺様は、カノンの鼻先で立てた指を振った。

「途中、獅子宮を通り抜けないと、魔蠍宮までは行けないぜ。きっと今頃、リアと奥さんも仲良し中だろう。邪魔したら、魔鈴、マンモス怒るッぴよ・・・去年はロスに邪魔されたとかで、今年はパンドラと共謀して、ロスのことエリシオンに鎖で繋いでるってシャイナが言ってたぞ。オンナどもが協力すると、ほんっとこわいっぴ」
「そぉかぁ・・・魔鈴かぁ・・・」
俺様の含蓄ある言葉を聞いたカノンは、再び、ふかーい溜息を落とした。

「せめてロマンティックな映画でも見るか・・・デスマスク、何がある?」
俺様、別にカノンとロマンティックな映画なんて見たくもないっぴけど・・まぁ、いいや・・・ちょとは慰めてやろう。俺様、優しいv

 俺様は、DVDコレクションのロマンス・セクションを、端からタイトルを読んでいった。
「リング、リング2、OUT、ゴーストシップ・・・・古典ロマンスでオーメンに・・・エクゾシスト!いじわる神父に無理矢理引き裂かれる悪魔と少女の悲恋が泣かせるんっぴよね・・・はぁ〜・・・すてぴ(はぁと)」
俺様の後ろで、カノンがまた長く重〜い溜息を漏らした。ほんっと、落ち込んでるっぴね・・・

 それじゃ今夜は、徹夜でロマンチック・ムービー見あかしちゃおう!かわいいデスマスク達っ、カノンを励ますための、ドルビー音響効果は準備おっけいっぴか?!

はいっ、一斉に

あ〜、う〜♪



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