「アルデバラン、今ジャミールから帰ってきたので、お土産を・・・アルデバラン?アルデバラン〜!!!」
留守中、新聞・郵便を取り込んでくれていた隣人の宮を訪ねたムウは、金牛宮に床にぽつねんと転がる頭蓋骨と対面した。
「あのぉ・・・ムウさま、それはアレデ・・」
なんてモゴモゴ言ってる貴鬼に肘鉄食らわして、馬の首星雲の辺りまで吹っ飛ばし、
「ムウよ、修行が足らぬな、その骨は・・」
と言いかけたシオンの幽霊を壷の蓋を閉めて封印したムウは、
「一体何と言う事です・・・・でも、ご心配には及びません。必ずや、必ずや。この牡羊座のムウが、あなたを蘇らせてご覧にいれます!!!!」
と叫ぶや、角の長い頭蓋骨を抱きしめ、瞳の中に真っ赤な炎を燃やしたのだった。
さて、その飛び火した炎で、隣宮の住人が丁度都合が良いとBBQをしたり、すっかり12宮入口の番人と化した矢座のトレミー(別名サジッタ)が消化器を振り回す、和やかな聖域の午後の日。喧騒も届かぬ静かな巨蟹宮では、シャカが壁の死仮面達にマジックで落書きをしていた。
「して、デスマスクよ・・・」
「な・・・なんだっぴ?」
デスマスクは、びくりと肩を震わせ、そろそろと振返った。先日、デスマスクが一時の怒りに任せてデスクイーン島を破壊してしまって以来、シャカはふらりと巨蟹宮に現れては
「心の故郷を失った私の可愛い一輝が、密やかにむせび泣く声が処女宮にまで届いては、紗華の葉を揺らす。哀れなものよ」
だとか、
「私の可愛い一輝が、思い出の宿る地を破壊され憤怒に燃えている。怒りの炎に城戸邸が消失したら、矢張り、その原因は元を正してデスクイーン島を破壊したものに在るのであろうな」
だとかと言い残しては去っていくという事を 一時間に数回繰り返していた。
またイヤミかよ、と半ば悟りの境地でデスマスクがシャカを見やってみれば、シャカは、苦悶表情ナンバー1死仮面にぶっとい眉と眉間の傷をかきこんで満悦の様子である。デスマスクは、小さな安堵の溜息を漏らして、再び居間の死仮面の並び替え作業へと戻ったのであった。
「何をしているのかね?」
「んぴ?ちょっとさぁ、壁の真ん中にスペース作ったら、どうも全体のバランスが崩れちゃったっぴよ・・・ちょっと、こいつを動かすかな・・こら!噛み付くな、あほ!!冥界送んぞ!あ・・そういや、もう死んでるんだったっぴね。でっぴーってば、お茶目さん!
ふはははは!」
「言葉と悪人笑いが全く一致しておらぬが・・まぁよい・・・して、それは、くだんのデスクイーン島の土産の為のスペースかね」
「大当たりぃ。あの頭蓋骨を壊さないようにテレポートすんの、タイヘンだったぴよ。教皇の間に気軽なウェスタンな雰囲気を添える、恰好の小道具だと思ったのにさ」
「しかし、貴卿がスペースを作っているところから察するに、あの牛は貴卿の元に帰ってくるのであろうな」
「そうなんだっぴ!教皇いらないって言うから、アルデバランにやるって言ったんだけど・・・でっぴーってばマンモス親切・・・牛の骨なら沢山あるから要らないって断られたっぴよ。きっと、あの立派な角にじぇらぴーしてるっぴね」
「ならば・・私が引取ってやってもよいが」
「シャカ、あの骨欲しいっぴか」
「欲しいと言うわけではない。だが、貴卿が苦労している姿を見るには忍びない」
「あそ!だったら別にいらないっぴね」
「いらぬとは言ってはおらぬ!」
「欲しいなら欲しいって、はっきり言えよ」
「私が欲しいワケではなく、悲嘆に暮れる私の可愛い一輝が、今は無い思い出の地の名残を愛ずるやもしれぬか、と・・・」
「要は欲しいんだろ」
「一輝が聖域に翼を休める時には、かの地をしのぶよすがを与えるも良しかとと案じただけだ」
「ふぅん・・・だったら聖域の中の俺様ん宮にあるんだから、それでいいじゃん」
「私の可愛い一輝は、この様な場所に置けぬ!」
「(むか!)そのこの様な場所で、随分とお前はくつろいでるっぴね。そんじゃ、ちっとはその様な場所を感じ良くする為に、牛の骨でも飾るっぴか。な、デスマスク達!」
デスマスクの声に反応して、宮中の死仮面達が一斉に唸り声を上げる。いつもならば、微笑ましい事だと表情を和らげるシャカは、低い唸り声に囲まれて、ひくりと瞼を動かした。
「・・・ここ聖域には、ちゃんと私の可愛い一輝の為にしつらえらえた部屋がある、と言いたかったのだ。わざわざ貴卿の手をわずらわずまでもない」
「部屋って・・・あの処女宮地下の座敷牢?(汗)」
「私が、可愛い一輝の為に、ショージを巡らせ、日本情緒溢れるべくしつらえた部屋だ」
「障子って・・・普通、鉄じゃなくて木の枠じゃないっぴか?」
「そこにデスクイーン島をしのぶ、牛の骨の置物・・・これぞ、心の故郷を無くした哀れな小鳥への、私の慈悲の心というもの(じーん)」
(自分で言って感動してるっぴ・・・をいをい、いくら感動してるからって、背景にキラキラ天使まで飛ばさなくってっもいいのに・・・あーあ、讃美歌まで歌い出したっぴよ。しかし、こいつの宗派って一体??)
「それで、あれは今どこにあるのだ?」
「え?金牛宮に置いてきたぴよ」
「いや・・・金牛宮には気配が感じられぬ」
「お前って、牛の頭蓋骨の気配まで感知してんの・・・いいけどさ、べつに・・・おーい、アルデバラン〜!あの骨、シャカに渡してくれ〜」
流石のシャカも、まさか牛の頭蓋骨が、ムウの結界に守られたジャミールの聖衣修理作業所にあるとは、予想だにもしなかったのであった。デスマスクのテレパシーを受け取ったアルデバランは、白羊宮の留守番テレパシーに伝言を残し、遠隔操作でその伝言を受け取ったムウは、
「おや、シャカがこれを引取るのですか?ふむ・・・まぁ、よろしい。楽しみにしておられるシャカを待たせては申し訳有りません。48時間経つ前に処女宮に届けてくださいね」
爽やかに微笑んで、牛の頭蓋骨を貴鬼にことづけたのであった。