心優しき漢たち!!友情に泣いたデスマスク!の巻


とぼとぼと階段を降りていると、アイオロスの幽霊に肩を叩かれた。

肩を叩かれた、とは言っても相手は幽霊なので、肩を通り抜けてしゅぽっと脇腹まで抜けてしまったのだが、物思いに沈むわたくしは、その様な細かい事に気を止めなかった。
「おい、どうした、デスマスク?アフロディーテにフラれたか?」

こいつー!!!(大泣)
「おー、泣くな、泣くな。おーい、シュラ、熱燗!」
くわえ煙草のシュラが、ふらりと奥から現れた。死んでるアイオロスは何時見ても元気そうだが、シュラの方は蒼白さが中々いい色合いだ。こういうデスマスクが一つ欲しい...
「何時も言う通り、ここは居酒屋ではない.....おお、デスマスクか...まぁ入れ」
「そー、そー。酒もあるしさ。まぁ、一応俺は未成年なのだが...ここにいる誰かさんのお陰で永遠の少年だからなぁ。わっはっは!」
シュラは、もう一本タバコに火を付け、一層青みを増した。
「だが固い事は言いっこ無しだ!シュラ、肴は何がある?」
「冷蔵庫にはタコ以外何も無いが....デスマスク、何を持っている?」
わたくしは手に渡し忘れた他の買物、パック用の胡瓜を持っており、シュラはそれに目を留めたのである。
「キュウリか...では、もろキュウに酢ダコも出来るな」
わたくしは、とても物が喉を通る状態にはなかったのだが、紫煙揺らめく宮の奥へ促されるままに踏み入ったのである。


「ふーん.....アフロディーテがカミュにねぇ...」
アイオロスの幽霊はキュウリを酒で流し込んでいる。彼は半分透明なので、キュウリが下がっていくのが見えるのであった。
「だが」
素手で諸味を砕いていたシュラが、ふと呟いた。
「カミュとアフロディーテか...麗しい光景だろうな」
「こいつー!なに頬染めてんだよ!!おっ!お前、アフロに気があるのか?それとも、カミュ?このーっ!面食いロリコン野郎!!」

「アッ..アッ...アフロディーテはおれのぉ...俺のぉ...えっ....えっ....せきれーき、めー.....
「おっ...落ち着けって!確かにアフロは友人だが、それだけだ」
「ほんとぉっぴ?」
「このシュラに二言はない」
仁義もないよな。女神と親友を殺しかけるんだもんな」
シュラはまたしても煙草に火を付け、冷蔵庫から大ダコを引っ張り出そうとした。タコは身の危険を察知したものか、ぴったりと冷蔵庫の扉に吸い付き、シュラをしてもすら苦戦を強いられている模様であったが、それでも彼の声は冷静そのものなのであった。
「使われた上に仲間外れにされたお前の気持ちも分からぬではないが、それは余りに過剰な反応ではないのか?アフロにしてみれば、カミュは隣だし、丁度良い茶飲み友達なのだろう。もう一方は教皇宮なんだから、そう簡単に遊びに行くわけにもいくまい」
「だったら、ここまで降りてくりゃいいのにな」
「だったら...だったら....うちの宮まで遊ぴに来たらいいぴー.....うちはBGMも揃えてるぴ...」
「BGMって.....もしかして、あの死仮面のうめき声か...?」
「勿論無論!混声合唱にオラトリオ、なんでもOK」
シュラは無言のまま、しゅぱしゅぱと手刀で8本の足を切り取り、アイオロスは空瓶を引っくり返しては、コップに酒を集め始めた。わたくしは二人がやや嫉妬したものと判断し、他に無い高品質音響効果を誇る我が宮の自慢をしてしまった事に、ふと反省を覚えたのであった(わたくしは慎み深い性格なのである)。

「酒が切れたな...なに、心当たりがある。おい、デスマスク、ちょっと黄泉比良坂への扉を開いてくれ。もっと酒があった方がいいだろ?」
異存がある筈も無く、わたくしは心良くアイオロスの幽霊の頼みをききいれた。
「ちょっくら行ってくるわ。直ぐ帰ってくるからな。いやー、誰かさんの所為で最初にあの世に閉じ込められた時は、臓腑の捻れる思いをしたが.....あの苦しみは言葉には言い表せん。でも俺ってさっぱりした性格だからさ。恨みつらみも言わず、霊傷も起こさず、心霊写真にも現れない・・取敢えず今の所はな --- ふっふっふ --- とにかく、女神がハーデスと知り合いになってくれてからは何かと便利になった。じゃな!」

アイオロスが去った後の、冥界どこでもドアを呆然と眺めつつシュラは
「これも俺の罪.....」
と呟くと、諸味を散らした薄切りきゅうりのお浸しの椀を置き、またタバコに火を付けた。

シュラがタコの足を炭焼きにしていると、どこかで見たような大かめを抱えてアイオロスが帰ってきた。
「ちぇっ...」
「んー??何か聞こえたかな?気のせいだな、きっと。こういう時は便利だなぁ。これも勘違いな誰かさんが、正義と女神への忠義を貫く俺を殺しかけてくれたお陰だなぁ」
シュラはまたしても、タバコに火を付け、
「覚める事のない悪夢に魘される.....これも俺の罪...飲んでやる。飲んでやるぞ、俺は」
と呟くと、煙草を5本吹かしたまま、もろきゅうを齧った。先ほどのタコは既に観念したらしく大鍋の中で自堕落にぐつぐつと煮え、冥界の蔵からごっそり取ってきた酒は大かめになみなみ...わたくし達は、注いでは飲み、飲んでは注ぎを際限も無く光速で競い合ったのであった。

「おーっ!この酢ダコ絶品っぴ!!この茹って赤み具合が、シロクマ野郎みたいっぴ!」
「ぎゃははは!そいつを食うとは、お前もエロい野郎だぜ、このむっつりスケベがぁ!俺も食うぞぉ!おい、シュラ!このスベスベ具合もスネ毛の無い脚っつー感じじゃないか?ひゃははは!」
「そーだろー!そーだろー!!こいつをかじれば、勇気りんりん、ムスコも元気!しりゅー!今度はこのレシピをお前に託すからなぁ!

いけー!レシピ付きの小宇宙!!!
「たーまやーっぴ!」

こうして、磨羯宮の夜は深く更けて行くのであった・・・




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