「海鮮鍋らしい」
シャカがダージリンをすすりながら呟いた。
「カノンが海に潜って材料を集めている --- あの男が働くとは珍しいことだ」
どうやら嬉しいらしい。こいつは、いつもくたくた野菜のカレー煮しか食っていないので、新鮮なシーフードが楽しみなのだろう。女神やポセイドンのパーティーでは、豪華な料理は出されるが、俺達は手を付けてはならない(どケチ!)なので、シャカは年に一度の忘年会をかなり楽しみにしている。もう嬉しくって嬉しくって!という雰囲気がヒシヒシ伝わってくるのだ。一層、不気味なだけだが・・・
「ここは・・・香ばしくよい匂いだな・・・・」
何がいい匂いだ!!これは、お前が落とした雷で俺様の、輝くきらきらプラチナ・ブロンドが焦げちまった匂いだぞ!
「矢張り蟹は...鍋もよいが...焼くのも....」
シャカがごくりと唾を飲んだ。あーのーなー・・・
「俺様は鍋の材料じゃないっぴ!お前が 処女、童貞には十万億土かけ離れてる のと同じっぴ!!」
「しかしデスマスクよ....カノンに蟹鍋を先にされては・・・君は幹事になったら何を出すつもりかね?ムウの時はジンギスカン、アフロディーテは大船刺身盛合わせ、そしてアルデバランは牛の丸焼きと、今迄は自分の星にまつわる料理を出すが伝統となってきた。アイオリアのアフリカ野生動物のごった煮は --- 大変興味深かったが ---」
「余計な心配すんな。俺様はイタリアの貴公子さまだっぴ!イタリア料理といえば世界最高!!ソースでぐたぐたに元の味もわかんねえデリカシーのないフランス料理とは違うんだぴ!だいたい、あの赤毛のアンの親戚だかなんだか知らんけど、フランス野郎なんだ・・・いや!何はともあれ、食とワインはイタリアに在るっぴ!ビバ!イタリー!!(はーはー、ぜーぜー)そういうお前こそ、どうすんだよ?処女のカレー煮か?」
シャカはにたーと笑った。コイツの笑いは無茶苦茶ブキミだ。言うんじゃなかった・・・デスマスク達が蒼冷めて、暖かな暖色インテリアが寒冷色になっちまったっぴ・・・
そうしている内に、なにやら白羊宮辺りが騒がしくなってきた。どうやら、釣りに出掛けたカノンが帰ってきたらしい。
「お!カノン帰ってきたっぴ!釣りの成果を見に行く・・・ぴ?」
テレポートしたらしく、シャカの姿は既に無かった ----
俺様が降りて行くと、既に白羊宮の前の庭には、集まってきた聖闘士達でごったかえしていた。飛び跳ねている貴鬼と一緒に最前列に、しっかりちゃっかりシャカが居る。
「ほお、これは見事だな!わっはっは!」
「本当ですね。こんな大きな伊勢海老は・・・きゃ!まだ生きていますよ!」
驚いた振りでアルデバランの背中にムウがしがみつく。余りにミエミエで見てる方が恥ずかぴー
「ミロ!見てみろ!これはお前の守護星ではないか!?こんなに大きなのは始めて見たぞ」
「カミュ・・・それ、ロブスターなんだけど・・・」
「お!この魚なんて活造りにぴったりじゃないか!煮ちまうなんて惜しいぜ、カノン」
半分透けてシュラの肩に乗っかったアイオロスの幽霊が一匹の、ぴちぴち跳ねてる銀色の魚を指差した。
「ふん、でも確かにそうだね・・・随分イキがいい」
「スシ・サシミにはうるさい日本人の魔鈴のお墨付きという訳か」
シュラがぼそりと呟いて、その魚を摘み上げた。
「流石は兄さん、魚を見る目も確かなのだ!」
アイオロスが滝涙でアイオロスに抱き着き、するりと抜けて海草の山に突っ伏した。
「そうだな。だったら突き出しでシュラが、そいつをさばいてくれよ。俺は鍋の準備すっからさ」
ちゃっかり強請るカノンである。魚はシュラから逃れようと派手に跳ねている。
「あらぁん・・もう、みんなで集まってるのん?」
アフロディーテ!!
ああ・・・海の泡から産まれた美の女神よ・・・ムサ苦しい、この場の雰囲気がいきなり華やぐっぴ!
「アフロって、こんな時、遠いから損なのん。ずーっと降りてくるの疲れてお腹空いちゃった」
「なに、では今すぐ俺が、この魚を刺身にしてやろう」
シュラー!!!何をアフロに色目使ってんだぴー(大泣)
「あはん・・ホント美味しそうなおサカナ・・って・・・えっ!待ってえー!!」
アフロが大慌てでサカナを引ったくった・・・と、途端、どろんとサカナは女の子の姿になった。
「あ〜ん!アフロおねいさま〜!」
元サカナはアフロディーテに泣き付いた。俺達、皆ボーゼンっぴ・・・
「ほら、もう大丈夫だから泣かないのん・・それにしても、テティスちゃんってば・・・どうしたのん」
「カノンったらヒドイの!ヒドイの!!アタシが岩場でお昼寝してたら、いきなり網でっ!ポセイドンさまにいいつけてやるうっ!」
「かのん・・・・よっくもアフロのかわいいお魚ちゃんを・・」
「ま・・待て!だいたい呑気に昼寝なんかしてる方が・・・わーっ!」
「デモンローズッ!」
白羊宮には華麗な紅薔薇の花弁が舞い、眉間に薔薇を突き立てて、ぶっ倒れているシュラを「おい!死ぬな!死んだら祟れないじゃないか」などと言いながらアイオロスの幽霊がつっつく横で、どさくさに紛れて、ムウはアルデバランにしがみつきシャカは生のままの伊勢海老にかぶりついているし、ミロは「幹事がいなくなったら鍋はどうなるのだ!!」と大いに心配して背中にベタフラッシュを背負い、「ロブスターとは・・・蠍の一種ではないのだろうか・・・こんなに似ているのに・・(TT)」と悩みながら縦線を背負ったカミュと二人、場所を取る事この上ない。
大丈夫かな・・・今年の忘年会・・・