ヴァレンタインのお買い物ぴー、の巻


「デスマスクゥ!」
 朝っぱらから騒々しく音を立てながら、ずかずかと居間に入り込んできたのは、勿論、聖域一粗忽な男、スコーピオンのミロである。
「ねぇ、ねぇ、俺、今日、下に買い物に行きたいんだけど一緒に行こうよ。デスマスク、いい店一杯知ってるもんな。顔も利くし..(ミロの心の声:なんたって、あのアフロディーテの使い走りで、しょっちゅう出掛けてるからな)あれ?シャカ、いたの?」
 低血圧なのか、唯でさえ寝起きは機嫌が悪いと言うのに、騒々しく茶の時間を邪魔されたシャカは、今にも目を開けんばかりに小宇宙を燃やしている。それに今まで気が付いていなかったとは、こいつは本当に黄金聖闘士なのだろうか?
 だが、いい店を知っている、顔が利くと、本当の事を言われては、俺様も無碍に冷たくは出来ない。こんな時は自分の義理堅さや優しさが少し恨めしくもある。
「カミュにプレゼント買うんだ。だってお誕生日が近いだろ?ヴァレンタイン・デーだって、もうすぐだし、超センスのいいプレゼントでカミュをびっくりさせるんだ。わあ、ミロ、これとっても欲しかったんだ、ありがとう。やっぱり君は僕の事をよくわかってくれているんだね。キス!なーんて」

 ミロはすっかり自分の世界に突入して、一人妄想にふけっている。俺様には、あのカミュが、そんな事を言うとも、ましてや、ミロがカミュ好みの品を見つけられるとも、とても思えんのだが、まぁ、いいだろう。俺様には関係の無い事だ...うふっ、俺様ってばクール。

 ミロは相変わらず妄想モード全開で一人まくしたてているし、シャカはティーカップを持つ手が微かに震え、なんだか背中の辺りで銀河系が渦巻き始めている。その様子を感じ取った俺様の自慢のインテリア達は、恐怖で少し普段より青味を増しているようだ。夏ならば、ともかく、この寒い時期にはやはり暖色系の方がいい。俺様は少しむっとした。だが、ふむ、確かにヴァレンタイン・デーが近いし、俺様もアフロディーテに、飛び切りのプレゼントを探しに行こうと思っていたところだ。どのお店がいいかな?この間見付けた洒落た手編みセーターの店とか?あの綺麗なピンク色の薔薇の花が編み込んであるセーター、まだ売れてなければいいが。やっぱり、思い付いたら直ぐに買っておかないと後で後悔するな。でも、あの時は少し財布が寂しかったし・・女神の実家は大金持ちなんだから、もう少し給料挙げてくれてもいいのに・・

 そんな事を考えていると、突然ミロがシャカに向き直って満面笑顔で言った。シャカに満面笑顔を向ける事が出来るのは聖域広しといえども、このお天道さま頭男くらいではないだろうか?

「シャカも行くかい?サガにプレゼントでもしてさぁ、サガって今までプレゼントなんか貰った事無いだろうから、舞い上がってヴァレンタイン・デーを聖域の祝日にしたりしてぇ。女神だって絶対に反対しないさ。ヴァレンタイン・デーだの雛祭りだの、イベント大好きだもんな。ヴァレンタイン・デーは恋人達の祝日指定とか、しちゃったりするかもしれないぞ。そしたら俺はカミュとしっくり、ぽっくり..ぐふふふふ...」
 再び自分の世界に突入したミロには、なんだかシャカの頭上で、こんなとこ来ちゃったけど困ったな..という顔をした天使達に気付かない。シャカもなんだか気抜けしたらしく、背中のマントラが薄れはじめている。どうでもいいけど、演出効果の派手な男だよな、こいつ..
「別に軽薄な毛唐の騒ぎを祝う趣味は無いが、このところ下界とは久しく無縁。たまには気晴らしに出るもよかろう」
見栄っぴー!ホントは街に出るの好きなんだ、シャカは。なのに、滅多に行きたがらないのは、以前に一度一人で街に出て、子供達に石を投げられたからなのだ。そりゃ白いお引き摺りをパタパタさせて目を瞑った男が、なむなむ...と呟きながら歩いてたら、俺様だって石を投げたくなると思う。でも、当然そんな事は億尾にも出さない。俺様ってばつい細かな心遣いしちゃうんだ。この優しく繊細な性格は損だな・・
「決まり!早速出掛けようぜ!!」
そこで俺様達3人は連れ立って、下界へ降りる事にしたのだった....





いつの日か、デス、ミロ、シャカのお買い物ツアーへ続く・・・のか?!?


とほほと呆れつつ蟹メニューに去る