でっぴーのお部屋にはシャカが毎朝お茶を飲みに来るぴー、の巻その(1)


今日も太陽がすっかり昇った頃、いつものようにシャカがふらりと顔を出した。

教皇たるもの、朝(あした)に礼拝、夕(ゆうべ)に感謝、なーむー、ってなもんで、毎朝夜明け前に起きて、こっそりと布団を抜け出し、聖域の天っ辺まで朝のお勤めに向かうらしい。教皇職といのも、なかなか苦労な事だ。一方、こいつは低血圧なのか、毎日昼も真近にやおら起きだし、寝惚け眼のまま、双児宮から処女宮の途中にある俺様の宮に茶をすすりに来ると言うわけだ。これが「神に等しい男」と「神の化身」の違いなんだろうか?でっぴー、よく分んない・・

シャカが俺様のいれたダージリンを一口すすって溜息をついた。賞味期限が切れたから持って降りてきたが、元々はアフロディーテの為にわざわざ現地ヒマラヤから取り寄せた高級品だ。ありがたく味わえ。
「うーむ、やはりここは落ち着くな」
シャカは閉じたままの目で、にこやかに俺様の居間の壁を見回す。ここのインテリアは、実は俺様のちょっとした自慢なのだ。
「そうだろう」
高級ダージリンを出してやって良かった、と思う。なにしろ、原産地が同じだから、きっと気に入ると思ったぴー。期限切れの品だか。

 まぁ、ともかく、部屋の事だ。この余り混み過ぎず適度な余白を残して装飾を配置してあるところなど、我ながらセンスがいいと自負している。年代別にグループ別けをして、さりげなく入り口から右回りに、古い物から新しい物へと移っていくところなど、ちょっと博物館風で通のやり方だ。しかも、ここには特に苦しんで死んだ連中のを選りすぐって掛けてあるのだ!寛ぎの場である居間には最適の選択だろう。
「ん?あの西の壁にかけてあったのは、どうしたのだ?」
流石はシャカである。寝ているのだか起きているのだか、わからんような昼行灯だが、見るべき物は結構ちゃんと見ているのだ。
「あれは元々余り気に入らなかったぴー。だから取り払ったぴよ」
「うむ..確かにあれは表情に少し苦悶の色が足りていなかったな」
「その通りぴー」
なかなか、こういう処は最も神に近いと言われる面目発揮ということだろう。
「今度、六道輪廻に行く時に地獄から良さそうなのを見繕ってこようか?なにしろ貴卿には、毎朝茶を御馳走してもらっていることだし、その礼に..」
「いやいや、これは俺様のコレクション。俺様が殺ってこそ意味があるぴーよ。有り難い申し出だが、遠慮するっぴ」
「おお、そうだったな。これは失礼した」
シャカはにっこり笑って自分のカップに5杯目の紅茶を注ぐと、角砂糖をきっちり10個入れた。アフロディーテがダイエット中だからといって、昨日食べ残したお菓子を出してやってもいいかなと、ちょっと考えた。
「しかし、あそこの部分が寂しいな」
「うぬ。なるべく早く埋めるつもりではいる」
大いに機嫌をよくした俺様は、お菓子を取りに行くために席を立った。




でっぴーのお部屋にはシャカが毎朝お茶を飲みに来るぴー、の巻その(2)

今朝もまた寝ているんだか起きているのだか判らない状態でシャカがぬぼっと現れた。昨夜はいつにも増してお楽しみだったらしく、双児宮からは異様に強力な小宇宙が漂っていて、俺様のトコロにまで天使の羽やら、土星の環っかの欠片やらが吹っ飛んできた。案の定、唯でさえ昼行灯のシャカは今朝は一層ぬぼっとした顔で現れた。思うにこいつは、この白いお引き摺りみたいな衣装は止めた方がいいと思う。ただでさえ不気味なのに一層、柳の下の幽霊のようではないか。

 ところで、今朝は以前から興味があった事を聞いてみようと思っていたので、機嫌取りにムウが置いていったジャミール産のジャスミン茶を出してやる事にした。薬臭いとアフロディーテは好まないが、線香だの落雁だのの匂いが好きなシャカは、これが特に気に入っているらしい。だが、こいつは見栄っ張りなので自分からはムウにくれとは言い出せないのだ。
「シャカぴー、俺は前から思ってたぴーよ...」
「なにかな?」
いつものように壁にかかった俺様の特選コレクションを楽しんでいたシャカは、ご機嫌で俺様の方を振り返った。
「あの二重人格のサガと付合うのって面白い?突然人格が変わったりして大変だろう?」
そりゃあ、アフロディーテに惚れるとかというのなら話は良く分かる。なにしろアフロディーテは、あの美しさだし、性格だってとてもいいし、センスも抜群で、趣味は薔薇造りと高尚この上なく、そしてあの美しさだし..あれ?もうそれは言ったっけ?まあ、いい。何しろアフロディーテときたら、美しくて..
 俺様が光速でそんな事を考えていたら、シャカは、ふふふと笑ってぴっぴと立てた指を振った。
「二重人格だから良いのではないか。面倒な手間や揉め事無しに、黒いのと白いの、恋人が2人居るような物だ。 一粒で2度おいしい、グリコの様な男だ」
そう言うとシャカはうっとりとした表情で
「私の如き、神にも等しい男にのみ、許される贅沢というものだな」
なぞと、ほざいている。

そういうものなんだろうか...俺様にはよくわからない。

「やってる最中に突然人格が変わったらどうするぴ?」
「ふふふ...これだから凡人は..」
シャカは鼻で笑った。
「尽くして尽くして尽くしまくるタイプの白サガと、ちょっと鬼畜な黒サガ、まさに夢の恋人ではないか。これも私のように神にも等しい男にのみ与えられる特権と言うものだろう」
そういうものなのか.....?
「世の婦(腐)女子が、読み漁る同人誌と言うものを読んでみるのだな。攻キャラは、たいてい鬼畜なサド気のある男か、すざまじくも優しく受キャラに惚れ込んでいて尽くす男の、どちらかだ。つまり、こういうタイプこそ理想という事だな。一人で両方兼ね備え、しかもいつ変貌するか予測不可能、スリル満点な攻キャラ、サガ。理想的なパートナーという訳だ」

ほんまかいな

俺は思わず考え込んでしまった。

アフロディーテは女王様でこそアフロディーテ。でも、アフロディーテが、三つ指付いてご挨拶とかぁ...俺様は、ちょっとだけそんな処を想像して興奮してしまった。

やっぱり、ちょっと羨ましいかな...俺様は幸せそうにジャミール産ジャスミン茶をすするシャカの横顔を見ながら、少しだけ、嫉妬した。



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