沙羅双樹の下で開いたの、の巻


二日酔い気味で自分の宮に戻ってみると、シャカが怒っていた。

「よー、シャカ。今朝は随分早いな」
{もう昼過ぎだ}
余程怒っているのか、シャカは口を利かずテレパシーで返事してきた。それにしても、何をプリプリしているのだろう。また黒サガと喧嘩でもしたのか?それとも、ムウに追い出されたシオンの幽霊に、コトの最中を邪魔されたか・・どうでもいいが、何かある度に俺様に当たり散らすのは止めて欲しいっぴ。だいたいお前は、ガキん頃から大好きだったサガとラヴ・ラヴのくせに、一体何が不満なんだよ?昔っから、サガが教練の担当になる日は前の晩からわきゃぴー、ぷりちーな花が咲いていたといってはサガを引っ張っていき、カレーを煮たといってはサガに届け、大量殺人をしたといっては、サガに頭を撫でてもらって喜んでいたよな。
でもでも、俺様だって、子供ん頃からアフロディーテと仲良ぴになりたいと思ってたんだ。それなのに........

俺なんて....俺なんてっ(泣)!!!

俺様は思わず、赤い夕日に向かって駆け出してしまった。ここ聖域はまだ昼過ぎなので、夕日に向かって走るには、時差が6時間早いインドまで行かなければならなかった。

ガンジスの夕暮れを追いかけて帰ってみると、シャカがまだ居間のソファにデスマスクを5枚敷いた上に座って怒っていた。

「で、何をおこってるぴー?」
{私はティータイムは午前11時と決めている}
あじゃぱ

「茶くらい自分で煎れろよ」
{神に等しい私は自分で茶など入れぬ}
あそ...そのワリにうちの冷蔵庫は自分で開けて、ありあわせでカレー・チャーハンとか作るんだよな

阿呆らしくて気が抜けたが、俺様もインドから往復してきたばかりで少し喉が乾いたので、フレッシュ・ミント入りのアイスティーをいれる事にした。このミントもアフロディーテが好きだから、うちの台所のプランターで育てたものだ。
「うちの庭でミント育てたらぁん、ブラディー・ミントになっちゃったのぉん。啄ばんだ鳥が、ひゅー、ばったん!きゃはは!」
そう言って、華がほころぶように明るく笑ったアフロディーテの声が、耳に蘇る。そんな事を考えながら茶を入れていたら、なんだかまた悲ぴくなってきたっぴ.....でっぴー、めらんこりぃ

「それで、カミュにアフロディーテを取られたか?」
茶を啜っていたシャカが突然、口を開いた。少しは機嫌を直したらしい。しっかし、いきなり最初の一言がコレだもんな...嫌みなヤツ.....
「あの二人の気が合うは自然の理。好みが同じだからな。はっきりとが出ている」
一体どんな「相」だ?
「読む本によって人間が判ると言うが、一度、宝瓶宮に行って本棚の奥を覗いてみたまえ。隠し戸の裏に、弟子達に見つかるを恐れるも捨てきれぬ「ベルサイユの薔薇」に「ガラスの仮面」。その上アフロディーテとは、毎月「Lala」と「プリンセス」を交換している」
「ふーん.....そういうお前は「処女」なのに、そういうのと縁が無いな」
「私は俗世には興味が無い」
もっとも、全然「処女」じゃないんだから、別にいいのか?
「やかましい!」
勝手に人の心読むなよ.....

「ともあれ...」
気を取り直したらしいシャカは続ける。
「あの二人は好みがよく似ている。だが、ただ一つ...」
「ただ一つ?」
「違うのは.....」
美少年趣味?と、ふと思った俺様に落雷がぶち当った。だから、勝手に人の心を読むなってば!
「だいたい、アフロディーテとて、あの瞬を可愛がっている」
違わい!違わい!
アフロディーテは、あのガキが強力な小宇宙を秘めているから、先輩としての崇高かつ暖かな心使いで、あの女顔を目にかけてるんだぴ!!!そーゆー、お前だって兄の方のやさぐれたトリを偏愛してるくせに!
「あやつとは、共に一度は欠片も残らぬほど砕け散った仲ゆえ」
こいつが頬染めてもブキミなだけなんだが....俺様は、ちょっぴり、あのやさぐれトリに同情した。
「とにかく!前置きはもーいーから、早く続きを言えっぴ!」
「カミュはトマトが嫌いだ」
それがどうし.....ん?
「でも、アラスカに行くたんびに、あいつんちでは、あのヤコフとかいうお稚児その3が真っ赤なシチューを煮てるじゃないか」
「あれはビート入りのボルシチ・シチューだ。トマト・シチューではない」
「さすが...食い物に関しては鋭いっぴ......」
「神に等しい私に見通せぬ事など存在せぬ。侮るな」
へーえ.....カミュってトマトが嫌いなのか。あの赤い色見ると共食いの気分になるからかな?トマトって、アフロディーテの好物なのに....

......ん?ん?ん?

って、ことは狙い目はトマトって事か.....っぴ!

俺様がぽんと手を打つと、シャカが妙に重々しく肯いて「有難い説教を聞かせてやったのだ。御布施は規定では、一口百万円という事になっているが、そこは馴染みのよし...」云々とほざき始めたが、聞こえないフリをした。
「流石は神に近いホトケってだけあって、何でもよく知ってんな、お前」
「当たり前だ。私は悟りを開いている」
なんだって悟りを開いたら、他人の趣味や本棚事情が判るのか俺様には理解不可能だが、そんなコトはどうでもいい。シャカは、自分のカップにもう一杯茶を注ぎ、角砂糖を10個ぶちこんで、嬉しげにかき混ぜている。そんなシャカを横目に観ながら俺様は、明日は朝一番に下界で評判のパン屋に行って焼き立てのトマトパンを買い、ミントと一緒にアフロディーテに届けてあげようと思った。ついでに、シャカの好物、チョコレート・パンを買ってきてやってもいい...