Lovers' Bath Time





「やっぱり赤が一番好き。薔薇も赤が一番好き」
歌うように言って、白い掌を返しては、すくった湯を落として小さな飛沫を立てているアフロディーテに、デスマスクは鷹揚に「そうだな」と呟いた。

もとより生温かいだけだった桶の中の湯は、すっかり冷めてしまって、二人の体温と同じ温もりを留めているだけだ。もう結構な時間、ここでふやけてるよな、とデスマスクが言えば、
「だって、俺達サカナとカニなんだから、水際に居着いちまうのは仕方ないだろ?習性なんだからさ」
そう言って、アフロディーテは華やかに笑う。
「違いねえ」
喉で笑って、デスマスクは何本目かの咥え煙草に火を点けた。

俺は、お前とこうしていられたら、別に何所でもいいんだがな・・

そんな思いは口には出さない。緩やかな重みを自分の膝に感じて、滑らかな肌の感触を腹に感じて、鮮やかな髪の甘い香りが鼻先をくすぐるのを感じていられれば、どこでもな・・・

アフロディーテは、ぱしゃぱしゃとと水を弾いては、水面に輪が広がって行くのを飽きもせずに眺めている。ぱしゃり、ぱしゃり・・小さな飛沫が飛んでは、雪白の肌に赤い染みを着けては滑り落ちる。

デスマスクは、ふうっ・・と、煙草の煙を宙に向かってとばし、紫煙が天井に向かって、ゆるやかに上って行くのを目で追った。そこには、死仮面を引き剥がされた死体が一つ、すっかり血も抜かれて逆さ吊でぶらさがっている・・・

(CM: いつまでも瑞々しいお肌を!エリザベート・バートリ伯爵夫人もご推薦!美容と健康には、やっぱり生き血風呂が一番ですねっ)



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