Crash and Burn お前の琥珀の瞳は俺を映していても お前の吐息は俺を暖めようとも 俺はどうすればいい? 冷たい雨が降り続いている。抱きしめた身体は、火を抱いているかのように熱い。何か、その熱を冷ますものを、と問うたダリューンに、これは身中の毒を焼く為の熱、一晩耐えれば明日には下がると言い残して眠りに落ちた友は、強い酒の助けを借りた眠りの深淵にありながらも、微かに震え続けている。乾く唇に湿した布をあてがい、軽く絞って僅かな水気を焼け付くようであろう喉に流し込んでやる。小さく身じろいた友の身体を慌てて降ろしかけ、彼が未だ眠りの中にあるのを認知して再び抱きしめる。友は、あたかも逃れるかのように肩を竦めた。 差し伸べた手を振り払われた時の苦さが蘇る。無理も無い。それは狂暴な強姦者の手だ。友の振りをして、彼の知らぬ処でその身を蹂躪する手だ。 身体の芯を凍らせる冷気に微かに震えながらも、白く秀麗な額には汗が浮かんでいる。苦悶に耐えるかのように顰めた柳眉が、ダリューンの心を刺す。汗を拭こうと触れた、刹那、 誇り高い友が、その冷笑とそつの無い優雅な立ち居振舞いの裏に隠しているものを、ダリューンは知っていた。それは自分には想像すらも不可能な地獄。引き裂かれる身体、そして心。傷は永遠に癒えることは無いのだろうか?いくら洗い流しても消えない匂い。繰り返し訪れる悪夢
。どんな強い酒も紛らわす事の出来ない痛み。 小さな音を立てて薪が崩れ、一瞬燃え立った炎が友の頬を赤く染める。ダリューンは木切れで薪を掻き回し、乾木を新たに2、3本放り込む。 ああ、ナルサス....踊る炎に向ってダリューンは呟く。 その鎧の下で硬く膿みしこった傷痕を癒すには、その鎧を脱ぎ捨てるしか無いというのに。もしもお前が跳ぶ事すら出来れば... 俺は必ずやお前を受け止めよう。お前を抱いて飛び立とう。凍り付いた心が砕け散れば、俺がその欠片を集めよう。 だが、お前に汚れた欲望を抱く俺も、あのけだものと同じではないのか?その俺にお前の心を癒す資格はあるのか? 岩陰の向うには、果てしない闇があるばかり。微かに雨が地面を叩く音を聞きながら、ダリューンは遥かな闇を見つめる。 ああ、ナルサス、俺には何が出来る? 了 |