男は長い長い廊下を走っていた。もうすぐだ。今まで追ってきたマフィアのボス、そいつの息の根を止める時がやっと来たようだ。

 男の額に汗がつたう。あの扉を開ければ、その中にあいつがいるはずだ。

 男はドアの前に立つと、部屋の中に一気に突入した。しかし、予想に反し部屋の中には誰もいなかった。

「どういうことだ…?」

 男は当惑した。いないはずは無い、入念に下調べはしてきたんだ。

 男が部屋の内部を探ろうと一歩踏み出したその瞬間、横方から弾丸が飛んできた。そして、その弾丸は男の右腕を直撃した。
激痛に顔を歪めながらもその方向を確認すると、ボスが机に陰に隠れて次の弾の照準を合わせようとしている。

 男はとっさに銃口を相手に向け、相手めがけて銃を発射した。

 はたして、その弾丸は左胸に命中し、相手はがっくりと膝を折って、息も絶え絶えにこう言った。 

「私がやられるなんてそんなバカな……」

 男は得意げな顔で答えた。

「悪が滅びるのは、必然なのさ!」

 こうして、悪の首領は最期を迎えたのだった…。






 



 

 またこんな結末なのか……。僕はうんざりして、テレビのスイッチを切った。くそっ、イライラする。 

 現在どんな物語の結末でもハッピーエンドしか有り得ないことは、もうみんな知っているだろう。

 なぜこんな事態になったかというと、その原因は数年前に国会で可決された特別法案にある。なんでも、当時の青少年の犯罪数が過去の例を見ないほどの伸び具合で、政府はその対策に頭を悩ませていたそうだ。

 そしてひとつの結論を下した。政府の見解はこうだった。

「政府独自の調査によると、近年の青少年の犯罪数増加にはテレビの影響が大いにあるようだ。しかも、現在のテレビの普及台数は目を見張るものがあり、子供部屋にも必ずといっていいほどテレビが置いてあるのが現状である。よって、若者の多くが依存しているテレビから、毒を持つものをすべて排除する!」

 そしてこの法案は可決され、暴力シーン、性描写など、子供に悪影響を及ぼすと考えられたものは徹底的に排除された 。さらに忌まわしき自主規制により、テレビに限らず、本や映画などの映像作品にもその余波は伝わった。その結果、物語の結末はハッピーエンドしかなくなったわけだ。少年犯罪の激流に、表現の自由は封じられてしまったのだ。

 僕は、今、ちまたに溢れ返っている勧善懲悪の物語には飽きてしまった。しかし、その法案が可決されると同時に、今まで流通していた作品は全て販売禁止になって市場から消えてしまっていた。昔のテレビや本や映画が見たい。叶わない望みと知りつつも、僕はそう思わずにはいられなかった。

 ところがある日パソコンで遊んでいるときに、すごいHPを見つけた。そこではなんと、昔の書物や映画を闇のルートで売っていたのだ!それらの価格は決して安くはなかったが、僕は貯金をはたいて過去の遺物をどっさりと購入した。

 僕は数日間学校を休んでまで、それらを読んだり鑑賞したりした。最後に信じていたものに殺される話。人間が滅び、悪魔が生き残る話。物語の最後になって、ストーリーを投げ捨ててしまった話。etc,etc……。

 おもしろい。おもしろすぎる。不条理な結末がこんなにおもしろかったなんて!!僕は、こんな素晴らしいものをひた隠しにしてきた大人達が不思議だった。

 そしてこれらの作品を読み進めていくうちに、僕は学校にいくのが煩わしくなってきた。大丈夫、出席日数は足りている。あとは卒業式に顔を出すだけでいい。僕は今ここにある快楽を得られれば、それで良かった。

 そんな生活を続けているうちに、あっというまに卒業の日がきた。面倒だな、と思いつつも、僕はしぶしぶ学校にいく準備を始めた。

 準備をしながら、僕は学校における自分の存在について思いを巡らしていた。僕の成績は校内でもトップの部類に入り、これといった不祥事も起こさないままに卒業しようとしている。要するに、一般に言うところの優等生というやつだ。

 ふと、僕の頭の中に疑問が沸いてきた。このまま何事もなく、三年間の学校生活に幕を下ろしていいのだろうか。僕はハッピーエンドを否定してきたではないか……。その時、頭の中で何かがはじけるのがわかった。

 僕は学校に行く支度が整うと、最後に台所に行き、包丁をカバンの中に忍ばせてから学校に向けて出発した。

 なんだか今日は、最高の結末を迎えられそうな予感がした。