注:これはフィクションです。 実在の人物、地名などとは一切関係ありません。 特に漫画家とか。 その男は、左手に持ったファンレターに右手の鉛筆でゆっくりと返事を書いていた。 実にまったく、ベテランも含めてこれだけ余裕があったのは彼だけだったかもしれない。しかし、そのことに無理はない。 彼はスポーツマンな顔に似合わず同人うけには極端に気を使う男だった。 許斐「と・が・し・くぅ・ん。ネーム・きっ・て・る・の」 まあ、さすがのあなたも思わないでしょうね、 あなたが殺し損ねたアタシがここであなたをストーカーしてるなんて。 (裏切りってありえるのよね、この漫画界っていつもそうだもの) 冨樫はあいかわらず、カリカリと物置小屋の中で 自分の連載漫画、・・・H×Hのネームをきっていた。 許斐「・・・冨樫センセもまだまだだね♪」 カリカリカリカリ・・・ 許斐「あん、この子菊丸くんLOVEだって、もうおちゃめ!よーしこのみたん生イラストとサインあげちゃうわっ♪」 許斐のペンはこの状況下の中では異常なほどリズムに乗っていた。 そうこうしてるうちに子一時間たった・・・。 わずかに開きかけだった物置小屋の扉が風に吹かれて完全に開いた。 中の様子を許斐が見たときにはもう遅かった。 冨樫のネームを描くカリカリという音の発信源は 実はいつも担当編集者をだますために使う小型のカセットレコーダーだったのだ! はるかかなた、冨樫の姿が茂みの一つ向こうにすっと消えたとき、 許斐の耳に鈍くこもった、どんという音が聞こえた。 たっぷり百メートルばかり下、冨樫はもうそちらを見上げることなく、 ただ、手首の時計にちらっと目を落とした。 禁止エリア発動から、秒針が七秒ほど超えていくところだった。 許斐 剛 打ち切り 戻る |