注:これはフィクションです。 実在の人物、地名などとは一切関係ありません。 特に漫画家とか。 冨樫義博だ(またもや彼の嫌いなタイプ、範疇一、売れてる男)、と 認識した時には、ぱららら、という音とともにその指先から激しい火炎が噴き上げ、 萩原の上半身にいくつもの衝撃が叩きつけた。萩原は後ろに吹っ飛び、 仰向けに倒れていた。 銃声の残響がすっ、と夜の空気の中に消えた。再び静寂が支配した。 しかし無論、萩原は死んではいなかった。息を殺し、体をぴくとも動かさずに そこに横たわりながら、ほくそ笑みたい衝動を押さえつけていた。 冨樫は、ウルトラジャンプに守られた、萩原の胴体部分を狙ったのだった。 そして──冨樫はきっともう、萩原が死んだものと思い込んでいるに違いない。 ほんのわずか開いたまぶたの薄い隙間、映画のパノラマスクリーンみたいな その視界の端に、自分の漫画、バスタードが月明かりを受けて転がっているのが見えた。 萩原は思った。さあ、そこに転がった俺の傑作漫画を拾えよ。 そしたら俺は、読みふけるおまえのその下品な後頭部に七鍵守護神(ハーロ・イーン)で 通気孔を一つ開けてやる。あるいは背を向けて去るか?それとも今度はうすたを追うか? さあ。どれでもいい、早く選びやがれ。 しかし、どういうわけか、冨樫は漫画には目もくれず、まっすぐ萩原の方へ進んできた。 ───。 まっすぐ進んできた。萩原をその冷たい目で見据えたまま。 なんでだ?心の中、萩原はそう問うた。俺の漫画に少しも興味を示さないだと? それに俺はもう死んでるんだぞ?見ろ、こんな完璧な死人がほかにいるもんか。 冨樫の足は止まらなかった。ただまっすぐ進んできた。一歩、二歩・・・。 俺はもう死んでるんだよ!なんでだ! 柔らかな土を踏むかすかな音がますます大きくなり、視界に冨樫の姿がいっぱいに広がった。 ふいに恐怖と狼狽が萩原を支配し、萩原は我を忘れて目を見開いた。 その瞬間、その頭へ向けて冨樫の念弾が再び火を噴いた。 萩原は、今度ばかりは死んだフリをしていたわけではなかったが、 もう、ぴくりとも動かなかった。 なお、彼にはもはや関係ない事だが、彼は無論、彼を倒した男、冨樫義博が、 週刊少年ジャンプで自分よりもはるかに優雅に休載を楽しんでいたことなど (ついでに彼がそのあとネームだけで原稿を仕上げたことも)、 知るよしもなかったに、違いない。 萩原一至 打ち切り 戻る |