注:これはフィクションです。 実在の人物、地名などとは一切関係ありません。 特に漫画家とか。 尾田は息を吸い込み、ゴムゴムのピストルを三発立て続けに冨樫に撃ちこんだ。それを合図に、荒木と岸本が体を起こし、仕事場へ向かって走り出した。尾田は岸本と、一瞬だけ目を合わせた(本当に目が合っていたか確証はない。荒木が時を止めたのだろう、二人はもう数十メートル先を走っていたので)。 冨樫がすっとイレブンブラックチルドレンを消した。尾田はまたゴムゴムのピストルを立て続けに撃った。荒木と岸本にダブルマシンガンをポイントしかけていた冨樫は、それでまたイレブンブラックチルドレンを出した。右で撃った後は左で撃った。その後はさらに右で撃った(ゴムゴムの二丁拳銃だ!温めてたネタなのに!)。さらに左。さらに右。撃ち続けることが重要だった。 荒木と岸本が、山の中に消えるのがわかった。 もう時間稼ぎは必要ない、ゴムゴムのロケットで二人に追い着かなければ―― その一瞬に、冨樫がイレブンブラックチルドレンを消し、ぱらららららら、とダブルマシンガンが吠えた。 ゴムゴムのネタを使っていたのは僥倖だった。なぜなら、――マシンガンというのは弾丸のシャワーであって、飛び道具といっても鈍器なので。尾田はゴムゴムの体で念弾を弾き飛ばした。 あとゴムゴムのロケット一発で木立の陰に入れると思った瞬間、背後でぱららら、という音が鳴った。――ヘイヘイおっさん、そいつはもう効きませんよ――尾田の左脇腹に、滅多刺しにされたような激痛が跳ねた。尾田を捉える冨樫の眼は鋭く、冷たく、そして赤い。野郎、念を変性させやがった! それでも尾田はゴムゴムのロケットをやめなかった。またぱららららら、という音がした。当たったのかどうかも、もうわからなかった。オーケイ、追ってこいよ。尾田は方向を転じた。これで少なくとも岸本と荒木は助かる。 木立の間から茂みの間へ飛び、坂の上へ飛び、また坂を下り、尾田はゴムゴムのロケットを出し続けた。もう、どっちへ向かっているかわからなかった。どれだけ体が伸びているかも、よくわからなかった。とにかく、まだ安心できなかった。遠くへ。遠くへ行かなくてはならない。 ふいに尾田の手が滑った。体が放り出され、地面に、どん、と跳ねた。体がゴムになっていないことがわかった。出血のせいで意識が混濁して、ネタがまとまらないのかな、とぼんやり考えた。 そんなばかな。これぐらいの修羅場でネタがまとまらないなんてわけが――ない冨樫じゃあるまいしそう簡単に期待を裏切るわけには――いかない俺はジャンプの看板作家なんだから俺は―― 尾田は原稿を落とした。 戻る |