注:これはフィクションです。
  実在の人物、地名などとは一切関係ありません。
  特に漫画家とか。





 ――その狭い地面の広がりに妙なものがあった。そして目をこらすと、その二つの固まりの中からそれぞれ――スカートとハイヒールの足が、のぞいていた。
 誰か女子二人が、ここで打ち切られたのだ。
 尾田は吐き気をこらえて何とかそれを観察し、それが、どうやら、かずと浅見らしい、と判別した。それから、特にひどいかずの方の顔は、どうやらこれはずっぴんのせいではなく、漫☆画太郎入魂のイラストが覆い被さっているのに気づいた。
 浅見の方は、それに比べるとまだきれいなイラストを抱えていた。もちろん――そのイラストには漫☆画太郎のサインがあるような気がしたが。
 考える前に、のどの奥で止めておいた吐き気がまたぶりかえした。あの、顔面をぐじゅぐじゅに描かれた画太郎の絵。吐くべきではなかった、ますます体力を失ってしまう、しかし――
 尾田は地面に膝をついてもどした。いいかげん胃もいかれかけているのかも知れない。
「尾田」
 尾田ははっと顔を上げた。
 茂みの間、あの、初連載の魔少年そのままの顔があった。
 荒木だった。胸の前に、刺繍してつくったのかドクロ柄のネクタイを靡かせ、左手で支えるスケッチブックに、Gペンを走らせるところだった。それで、ああ、そうだ、荒木はゲロを吐く顔を描く時の参考になると、俺をスケッチしているんだな、とわかった。
 ざっ、と音がして、その肩の向こうに岸本が現れた。雨に濡れていく髪の下、尾田を見つめる瞳と口元が、震えていた。
「ようこそ、失踪者」
 穏やかな声で、荒木が言った。




戻る