子供の未来のために「遠征出産」

中央日報 2002.04.04 20:51

子供の未来のため…「米国行き遠征出産」増加

 昨年末、A(31)さんは臨月の体でソウル江南(カンナム)にある旅行会社の門をたたいた。いわゆる「米国行き遠征出産」のためだった。

 現地の実情に暗い彼女に対し旅行会社は、飛行機から産婦人科の選定、出産後のケア施設、下宿屋のあっせんに至るまですべて提供した。

 旅行会社を訪ねた後、ロサンゼルス病院に入院、出産するまでの2カ月間に支出した経費は約2万ドル(約260万円)。Aさんは退院直後、子供が黄だんの症状を見せ、入院するために、緊急にソウルから1万ドルの送金を受け取った。Aさんは「苦労し、費用が予想より高かったが、子供の未来を考えれば後悔はない」と話した。

 先月ニューヨークで出産したY(28)さんは「うんざりするほどの『学校外教育熱風』や『いじめ』などから解放させるため、米国で子供を産んだ」とし「実家の母が産後の面倒をみてあげるからと引き止めたが、固い決意で断わった」と話した。

 ◇中産層に広まる遠征出産=富裕階層の専有物とされていた「米国遠征出産」が、一部猛烈な中流家庭の妊婦にまで広がっている。米国で生まれれば市民権を与えるよいう米国法(属地主義)を狙い、「我が息子の手に米国市民権を持たせる」という若い両親が増加している。

 こうした現象は市民権が与えられれば、早期留学、軍服務などの問題を簡単に解決できるという発想と、同時多発テロ以後、米国の移民法が強化され、留学などが難しくなるだろうという推測から生まれたものだ。

 現地の移民関連韓国人弁護士は「息子が成年になり正式に市民権者になれば、両親を招請することができる点も遠征出産に拍車をかける原因」だと指摘している。

 ◇ニューヨークに多く押し寄せる=ニューヨーク市フラッシングにあるJ病院は、産婦にワカメスープを提供したり、英語ができない産婦と医療陣や看護婦などの円満な対話を助けるための韓国語通訳者を配置したりと、遠征出産族の人気を集めている。

 ニュージャージー州フォートリー市のある産婦人科の医師K氏は「飛行時間でみる限り、ニューヨークよりはロサンゼルスの方がより近いが、ニューヨークの病院の水準を高く評価し、わざわざニューヨークまで来る遠征出産族がかなりいる」と話している。

 ある同胞(海外在住韓国人)は「遠征出産は韓国の公教育崩壊と米国を憧れる心理により生まれた産物」とし「韓国人の正体性が失われつつあってやるせない思いだ」と話している。

ニューヨーク=慎重敦(シン・ジュンドン)特派員 < djshin@joongang.co.kr >
中央日報 2002.04.05 22:06

【社説】恥ずかしい「遠征出産」の風潮

属地主義を採択している米国籍法を悪用し妊娠末期に旅行客を装って米国に渡り、子供を産む人が増えているという報道は、韓国国民の自負心を傷つけている。韓国国民の中でごく少数に過ぎないが、彼らの行動が社会全般に及ぼす影響を考えると、これは決して軽く評価する問題ではない。

生まれる子供に米国の市民権を「保障」するため遠征出産をする人が出てきたのは、5年前からだった。こういう逸脱された一部階層の行為は、毎年次第に増加し、今はロサンゼルス、ニューヨーク、ハワイなど米国ビザが必要な本土だけでなく、15日間ノービザで入国できる米国領のグアム島に達するまで、遠征出産部隊が集中しているという。英語ができない妊婦のため、韓国語通訳までおいた米国病院もあるという。

言うまでもなく、遠征出産の核心は国防の義務に対する免責と早期留学時の低廉な学費という当事者の利得と、後で父母を招請できるということからだ。

米国籍と韓国国籍に巧妙に二股をかけて利益を得るという利己主義だ。米国籍法が採択している属地主義は、短期滞在の際に生まれた子供に対する配慮だ。敢えて米国市民になりたいなら、移住など正当な法的手続きにそって地位を獲得するのが望ましいだろう。

一部階層の遠征出産は国民としてもたなければならない最低の社会的責務まで無視していることであり、対外的に韓国国民全体に対する否定的イメージを与えているということを我々は指摘していくべきだ。

貧困で疎外された階層の人々も、国家が要求する義務を果たそうと努力している。ましてや社会的模範にならなければならない富裕層が子供に対して生まれたときから逸脱意識を植えつけるのであれば、韓国社会の未来は暗くなるしかないだろう。

子供を産むために海外旅行に行くという風潮は韓国にしかない、などという話がこれ以上出てはならない。