ハワイの怪談についてのノート

Horror in Paradise: Grim and Uncanny Tales from Hawaii and the South Seas
ed. A Grove Day & Bacil F. Kirkley

「紅紗のブラウスの少女」The Girl in the Red Gauze Brouse by Marjorie Sinclare

ハワイの神話か伝説の本でも一冊手元にと思っていたら、ふいっと目に付いて1ページ目でひきこまれて買ってしまった。ハワイ、太平洋に関係ある幻想怪談小説アンソロジー。中には読んだもの(スティーブンソンやジャック・ロンドンの怪談は読んでいるはず)も散見する。

 

毎週火曜日と土曜日、わたしは幼い息子のトミーを訪ねることにしている。トミーは、彼のもつたぐいの障害に訓練をしてくれる学校に居る。家からほんの6ブロックのところなので、私はいつも歩くことにしていた。今朝出かけたとき、私は前を行く一人の少女に気がついた。
私は普段そのへんの人に注意を払うほうではない。とりわけトミーの元に行くときには。
しかしその少女は、ほとんど王国の儀式で舞うような不遜を湛えて歩いていた。腰までの茶色の髪は、まっすぐで艶やかに、少女の動きにあわせてかすかに揺れた。ぴったりした青のジーンズを履き、真紅のガーゼのブラウスは片方の肩にかぎざきがあった。足にはゴム草履。かかとはひびわれて汚れている。彼女の外見はホノルルのたいていの女の子たちに典型的なそれだったが、立居振舞ゆえに違いは際だっていた。尊大な滑歩。漂うかすかな怒り。なるほど彼女は、3、4世代前だったら、まさしく女族長として、あらゆる望みを即座にかなえられる座にあったのかもしれなかった。学校に着いたとき……

無名の作家によるごく伝統的な書き出しだ。しかし最初の数行で妙に引き込まれた。なんでだろう?突出したものでないかぎり、怪奇幻想小説篇の冒頭は、出て来た瞬間きっちり方向性が固まっているのがいい。その方向性の上で、お約束の結末に緊密に進行して、落ちをつけるか、綺麗に裏切るか。あたりまえと言われるかもしれないが、具体的な作品に即して納得するのは気持ちがいい。
「ある状況」にいる主人公の前に時折、神秘的な幻影が見え隠れする。それだけの話。知能障害の息子への暗い思い、夫からハワイ人の血を引いていることが示唆される ……
実のところ、前半の盛り上げかたにたいして、最後の落ちはぜんぜん感心しない。しかし古典的コード進行に、ホノルルという人種混合する場所の特異さと、母親の心理が過不足なく挿入されている佳品だ。数ページの短い話だけれど、日本語に訳されているのだろうか。ところでこの作者ホノルルの人だが、名前を見ると、古典怪談ファンは、メイ・シンクレア?マージョリ・ボウエンか?と思うだろう。

 

Horror in Paradise から。
"Emma de Fries and Queen Emma of Hawaii" by Yao Shen

単なる見霊、霊媒譚と言ってもいいが、あっさりしてて悪くない。主人公の中国人女性 の住んでいるコンドミニアムの前の道路の横断歩道付近で霊がでたりする。
白昼、信号待ちをしていると中国人のおばさんがぺちゃくちゃ話し掛けて来て、気がつ くとあの世のものだったらしいとか、横断歩道を一緒に渡る子供の霊とかあっけらかんとしている。ハワイ人の霊媒エマが主人公のところに訪れ、霊験を示し、子供のころの 不思議な体験話をするというだけのゆるやかな構成。転生譚でもあるが、クイーン・エマはハワイ住民には歴史的有名人だが、外の人には印象が薄いのが難だろう。

舞台になっているコンドミニアムは、名前は違うが私の住居のすぐ近くで、キング通り からハワイ大学のブキャナン会館なんて毎日のように通っている場所である。このへん田舎の怪談名所ののりである。(ホノルル幽霊ツアーというのもある)

ホノルルは確か に田舎なのだが、異文化混合と混血性が不透明な背景を提供しているので、黄金期型の典型を生かした怪奇小説の舞台になる。ご当地怪談と都市的な怪奇小説の境はなんだろ う?と考えされられる。(比較のため、あとでハワイのご当地怪談本を買った。)

……コンテッサ(註 コンドミニアムの名)は、一角にハワイ人の教会と墓があった土 地を更地にした処に、新築されたばかりだった。墓からは骨が取り去られた。施工主は丁寧な地鎮の祭を行なった。儀式の最初には、土地の所有者であるカワイナマロ教会の 司祭が、ハワイ語と英語で建設地に祝福を与えた。つづいて日本の神道の神主が四隅を祈り鎮めた。最後に、中国の獅子舞と爆竹で終わった。

お祓いにもかかわらず、薄気味悪いことが起こる。ハイブリッドな習俗が面 白い。エキゾチシズムと怪奇小説の関係は一言ではかたづけられないが、キップリング以来、熱帯起源の怪奇小説というのは結構あって、各種怪奇幻想短編集にも納められて いる。しかし亜熱帯の都市を舞台にしたものはわりと少ない。

Memo:

ミステリと恐怖小説を比べるとどうなるだろう?双方の祖であるゴシック小説は、田舎 (?)のお城が舞台。「モルグ街の怪事件」には、異国の声が混ざり合うパリという都市性が刻印されているという一文が「現代思想」にあった。黄金期恐怖小説も、基本的には都会人のものだろう。しかし、都会人(探偵)が田舎(熱帯でもいいが)に行って怪異(事件)に出あうというパターンはどちらにも存在している。

 


 

Obake: Ghost stories in Hawaii by Glen Grant, Mutual Publishing 1994

作者は本土の白人(ハオレとかハオリとか呼ぶ)で、ハワイに住み着いたハワイ大の学者だが、新聞読みものをまとめた程度のレベル。一般向けに説明された日系人の怪談が多いのでかえって日本人には目新しさがない。中学校のリーダーみたいな薄い本である。怪談としてもたいしたことはないというか。
以下は各章のタイトル。

In Search of Kappa and Mujina: Japanese Obake in Hawai'i
Ghosts of a Plantation Camp: Thousands of Things Sinister and Dark
From Out of the Sea at Mokuleia
Inu-gami: An Investigation into a Case of Dog Spirit Possession
The Obake-Neko of Kaimuki
Don't Step on my Grave: A Journey into Asian Terror
On the Kwaidan Trail of Lafcadio Hearn
The Kasha of Kaimuki
A Calling Spirit of Kipapa
Kanashibari: An Encounter with a Choking Ghost

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