さまざまな性の問題−その1−

『愛と性の智恵』第27号(1999/10/19発行)より
幼い頃の傷と性


 私は9歳年上の方とお付き合いをしています
相手の方はすごくまじめでやさしいけどある意味厳しい面も持っていて 自分にはもったいないくらいの人なのですが ・・・・
告白したのは相手の方からでした 私のどこがすきかと聞くと 私の自分の考えを持っている(?)所と、 自分との共通点(過去にいろいろとつらい経験をしている所など)があったこと だそうです
あと 告白される前ぐらいに私は軽いうつ病でした 。
だから、そんな私を自分が助けてあげたいと思っていたみたいで多分それもあっ たと思います。
私がはじめてセックスをしたのもこのかたです
でも彼は 私がはじめてと言う事を知っていたので痛くないように 長い時間をかけて前儀をしてくれたので出血したりしませんでした
本当に良かったと思っています でも、セックスをしたのはまだ一回だけです
23と14だとほとんど兄弟という年齢?に近いわけで これも一種の近親相姦などで しょうか? そこのところが気になります。
あと、近親相姦についての具体例も教えて下さい。 では・・・・


asobuさん(女性:中学生14歳)からのご質問   

 今、ちょっと旧い『広辞苑』ひいてみたんだけど「近親相姦」って載ってない ですね。(CD-ROM版のがどっかへ行っちゃったので。)近親婚とかならあるけど。
 「近親」というのは血縁的に近い人のことだけど、法律なんかによって、どこ まで言うかがちょっと違ってくる。
 ただ、親子兄弟姉妹は明らかな「近親」ですね。

 だけどasobuさんがつきあっている男性は血のつながりのない他人みたい なので、それだと近親にはならないです。
 ただ、もし僕がその男性だとしたら、中学生の子と性的な関係はもたなかった だろうと思います。なぜなら、たしかにasobuさんはその年頃としてはしっ かりした考えや生き方をしているとは思うけれど、たとえば「近親相姦」という 言葉やその実態なども知らないように、まだ広い範囲で・そして長い将来のこと まで見渡して<今>のことを判断できるだけの十分な基礎知識と智恵はもってな いと思うから。
 オトナでも、「あの時はそれがベストだと思ってしたのに……」と後悔するこ ともある。それもまた、知識と智恵とそれをベースにした判断力の乏しさゆえの ことだとも言える。  asobuさんの場合、別に近親相姦についての知識はなくても構わないかも しれないけれど、それ以外にもっともっと大切な知識や智恵はたくさんあります よね。
 「まだ一回だけ」ということですが、彼がasobuさんのことを思いやって 反省してその後はしないことにしたのだったらいいんだけど。

☆・o・……

 近親間の恋愛として有名なものの一つに、金子みすずと弟の恋がある。
 二人は幼い頃別々に育てられて、親からも姉弟ということは知らされてなかっ たので、弟の方は、みすずが実の姉だと知らずに恋してしまった。
 弟はみすずに告白したけれど、みすずはもちろん「そんなことはできんほ」と か言って恋を受け容れなかった。でも、本当はみすずも弟を恋してたんじゃない かな。
 金子みすずの童謡には、そういう哀しいほど美しい<見果てぬ恋>の香りが漂っ ている。

 だけど、実際問題として、近親間の結婚からはいろいろと障害をもった子供が 産まれる可能性が高い。それで、法律でも禁じられている。
 また、モラルとしても、大抵の文化では近親同士でのセックスは重いタブーに なってる。(でも、たとえば昔の王侯貴族のように、貴種純血を維持するために かなり近い関係で結婚していったという例外もある。)

 ただ、心理的・精神的には、近親者の異性を恋するというのは意外と自然なこ となんですね。心理学の本なんかを読んだことある人なら「エディプス・コンプ レックス」っていう用語を知ってると思うけど、これは幼児期に母親に恋して、 父親を憎むという底深い心理なんですね。女の子の場合は、「エレクトラ・コン プレックス」と言って、父を恋して母を憎んだりする。前者はフロイトが後者は ユングが言い出したことで、現在では多少修正して考えないといけないところが あるってことが言われているけれど、基本的に幼児にとって愛や恋の原型が母親 /父親だと言ってもそれほど間違ってないかもしれない。

 ところが、最近、父親が幼い娘を犯すというふうな報告が増えている。それも、 母親(つまり妻)も同意の上でというケースが多い。子供(娘)にとっては地獄 みたいな生活でしょう。最も愛する対象であるべき父親から性的虐待を受け続け なければならないわけですから。。。

 性的<虐待>といっても、必ずしもひどい暴力を振るったりすることだけを指 すわけじゃない。いくら優しくそうっとしても同じことです。また、性的虐待を 受ける側の女の子は、親たち(時には兄たちも)から、「お前が悪いから犯され るんだ」と非難されて、本当に自分が悪いんだと思いこまされていたりする。
 昔は、こういう例は酒乱だとか暴力的な父親がほとんどだったようだけど、今 は経済的社会的に恵まれたクラスにも起きるようになっている。

☆・o・……

 僕がこのメルマガを始める前に唯一発行してた『旅する哲学者』というメルマガで 一度そういう問題をとりあげたことがある。そしたら、「私もそうだった」とい うメールが5通も届いた。相手は叔父とか兄とか父親の知り合いだとかいろいろ だったけれど、とにかくずっと心の傷になって残っている。今も男性不信に苦し んでるという女性もいた。未遂の場合もあったけれど、それでも相手を許せない という女性もいた。

 むろん女性にとってのトラウマということが一番の問題です。それは当然なん だけど、加害者はあくまでも男性たちでしょう。女性の心の傷を癒す一方で、男 性達の性意識を変えていかないと、いつまでたってもイタチゴッコだと思う。
 たとえば、彼氏に自分の過去のこと(近親相姦で犯されたこと)を打ち明けた ために、二人の間がなんとなくぎくしゃくし始めて(彼がいたわり過ぎるような 感じになったのがきっかけとか)結局しばらくして別れることになったという例 もあった。
 もちろん、その彼氏は<加害者>じゃない。でも、理解者でもなかった。同情 やいたわりの気持ちはあっても、それだけで彼女の過去とそこに根を張って生き ている現在を理解して見守るということが出来るとは限らない。
 ちょうど、水面に投げた石が波紋を広げるように、一つの過去の傷が、次から 次へと男女間のギャップを広げていく。そういうことは、どこかで誰かがストッ プをかけていかないといけない。

 癒しやセラピーやカウンセリングもそれはそれで必要だけど、それよりはるか に大切なのは、そういう傷や不幸をあらかじめ避ける智恵を広めていくことだと 思う。そして、そのためには、どうして(たとえば)近親相姦なんてことが増え てきているのか、その根のところをじっくり考えて、自分自身を顧みることから 始めるしかないんじゃないかと思います。
 愛というものを過信していると、おたがいうっとりとした気分のなかでとんで もないことをしているということが起きちゃうんですね。

 一つの<不幸>な体験というのが自分だけで終わるということはあまりない。 それはどこかで次の彼氏や、近親者や、友達や、あるいは子供へと引き継がれて いく。自分だけが我慢すればいいと思えば思うほど、それは深層心理に押し込め られて言い様のない不満や不安を漏出させつづけることになる。

 asobuさん。あなたは過去のつらい経験や軽い鬱病などに自分なりに対処 してきたんですよね。そして、自分の考えをしっかりともっている。そこがまた 魅力だということですよね。
 それなら、なによりもまず、その過去のつらい経験を僕にでもいいから(私信 でもいいから)お話してください。もちろん、身近に信頼できるオトナがいれば、 その人に話したらいい。でも、打ち明けて理解してもらえたからといって、相手 を恋する必要はない。それはわかるでしょう?
 どうか、慰安と恋とを混同しないようにね。

 これから幅広い智恵を身につけて、自分にも他人にも深く思いやりのある考え 方が出来るオトナになっていってください。なんかガッコの先生みたいな言い方 だけど、特に「自分にも」ってところを大事にしてほしいです。

☆・o・……

 ちなみに、みなさん、「性的同意年齢」っていう言葉を知っていますか? これは、性的な行為をす る場合、相手の同意/合意を一人前の意志として認めうる年齢のことを言います。
 日本の刑法ではこの性的同意年齢は13歳ってことになってる。(176条,177条)
 逆に言えば、たとえ相手が同意しても、あるいは相手の方から誘ってきたとして も、13歳未満の子を相手に性的な行為をした場合は刑法上の罪になるというこ となんですね。女の子だけじゃなくて、男の子でもです。
 ロリコンなどと言って気楽に考えていると大変なことになる。
 (幼児児童に対して性的な嗜好をもつ人間は「ペドファイル」と呼ばれる。)
 そして、今後、そういう行為をされた場合は、恥ずかしがらずに相手を訴える 社会的空気をつくっていくことも大切でしょう。

 そのためには、僕たち一人一人が、性的な被害を受けた子を偏見や好奇の目で 見るようなことはないようにしてかないといけない。それは、過去のことでも同 じです。
 オトナになってからも愛や性的な営みに支障がある人達のなかには、そういう 過去の思い出を無理矢理押し込めて隠していたり、無意識化に押し込めて忘れて いる人たちもいる。
 そうした人達の心を癒してゆくためには、まずその傷口をはっきりと見つめ、 本人が懐いている<うしろめたさ>の感情を少しずつ取り除いていく必要がある。 それだけに、周囲の(特に現在のパートナーなどの)深い理解と暖かな思いやり が大切でしょう。

 なお、最初にお話した「性的同意年齢」は、淫行条例などとの兼ね合いか らしても、低すぎるという意見もあります。あなたはどう考えますか?

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