ゆたか1996
窓 大きな窓の近くに立った 水滴の向うの外は暗くて見えない 窓から冷たさが伝わってくる春の夜 ふと、あなたの記憶が窓に浮かぶ 顔も声も知らないあなた なのに、こころがざわめくのは何故? あなたと僕を結ぶ窓は小さくて あなたと僕を結ぶ線は いつ切れるかも知れぬほどにはかない 小さな窓の中、必死であなたを追いかける あなたのことをもっともっと知りたい なのに、窓はあまりにも小さい 96/4/29
迷宮 自分の外に宇宙があるように 自分の内にも宇宙があることを 知っていますか? 自分の外にある未知なるものが 果てしなく広がっているように 自分の内にある未知なるものも 果てしなく広がっている まるで迷宮のように 人は外にある宇宙よりも 内にある宇宙を知らない あなたの知らないあなたが そこに待っている あなたとわたしの宇宙が出会うとき そこに新しい宇宙が生まれる 96/5/2
出会い こころ惹かれてる自分を感じながら まだ見ぬあなたに初めて会った こころの中に勝手に作りあげたあなたと 本当のあなたを比べながら あなたのことを知るほどに あなたのすべてを受け入れる自分をなくしながら あなたをこころで愛せるかどうか考えながら それでもあなたのやさしさに甘えてる 怖いのは、あなたに嫌われること? それとも、あなたを受け入れられない自分? なんて考えてるうちにも、時が流れてゆくね 96/5/5
待ち合わせ コンクリートとアスファルト 都会の中に差し込む穏やかな光 広場の木漏れ日に座り込む 目の前を行き交う車たち 雨上がりの五月に吹く爽やかな風 こんな都会にも安らぎを見つける 木漏れ日は移動して、いつかビル影 待ち合わせの時間にはまだ早い 96/5/5
懺悔 なぜ、そんな残酷なことができるの? なぜ、信じてくれる人を裏切ることができるの? なぜ、その優しさを裏切るの? 僕の後ろを尻尾を振ってついてくる小犬に 振り向きざまに刀を振りかざし、 いきなり、その首を切り落とし、 滴り落ちる血を表情も変えずに ながめているような冷酷さ 因果応報の恐怖と良心の呵責に苦しみながら こんな罪深き罪人を、 それでも愛していてくれるというのなら いま、すべてを悔い改めよう すべての事実を奇跡に変えながら 96/5/9
ずらちゃん(猫ちゃん)の詩 食べて、寝て、食べて、寝て、食べて、寝て、食べて、寝て 昼は静かに、してるにかぎる、ばれぬように、おとなしく、 御主人さまが、呼んでも、叫んでも、頭をなでても、知らん顔 ふん、気安く、声かけるんじゃねえよ、俺はプライドが高けんだよ でも、飯を出してくれねえと、困るから、ちょっと近づいて、 頭すりすり、甘えてみせる、今日は、こんへんにしておこう 夜になったら、出かけよう、三千世界をまたにかけ、肩で風切り、 歩くのさ、俺にかなう、やつなどいねえ、自慢の爪がさびぬよう きょうも、手練の爪を砥ぐ、ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ 96/5/9
都会 人々で溢れる華やかな夜の街 男達はかりそめの安らぎと快楽を求め 女達は甘い言葉と安楽な糧を求めて お互いに己の欲望のために取り引きをしてるよ お互いに己の良心をごまかしている悲しさを隠してる お互いに己の体で相手の重さを感じつつ 感情のない行動に心は動かせやしないよ 満たされぬ想いに、そのたび、さらに求めるけれど 欲望はいつも果てしない 追いかけたって、悲しい虚しさが残るだけさ 求めてるものから、遠く離れたと気づくなら そのとき、思い出せばいい そのとき、始めればいい 忘れていないかい、記憶の彼方に置き忘れた ありふれた日々の中にある温かさ 時がすべてを流し去ってしまう前に 見つけよう永遠に続く安らぎを 96/6/1
齢 見つけたる 写真の中の この吾は 酔った顔 無邪気にさわぐ 絵の中に 隠せない 疲れと齢 悲しいね いつまでも 子供のままで いるけれど いつまでも 子供のままで いられない うらはらに 色褪せてゆく 生命に 襲い来る 不安と惧れ 感じつつ 遠くから 混沌の世を ながめても 冷酷な 悲しき悟り 持てぬから 流れゆく 刹那な時に 身をまかせ すべてを変える 情熱を 心の中に 持てぬまま 幸せの意味 探してる 96/6/1
花 花に惹かれ、旅をして 花を見て、考える その花に惹かれている感情と その花を認めまいとする理性とが 少しの葛藤、理性が優る その花の若々しく、初初しき、その魅力 ゆらゆらとゆれる心を感じつつ 遺伝子の誘惑として、否定して わずかな時の移ろいに、 常なるものは何もなく 今はもう、誰かの庭に咲く花に 庭ゆえの、新たな魅力に驚きて 無常と無情、その花を、 求めざりき我、後悔はなし されど、花のしるしを見るたびに 祝福と羨望なるか、混沌に ただ、傍観者なる寂しさを知る 寂しさの極みに於いて、さらになお 吾にかかる、悲しき摂理に出会うなら 感情は表に出でて、止められず 吾にかからぬ、仕合せと喜びの人に出会いては 少しの羨望、祝福となり、幸せの色、伝わりて すべて摂理と、明日を肯定する 96/6/1
出会い 今日、うれしいことがあった 素敵な人に出会えた 初めて会ったのに あなたの言葉がとてもうれしい もっともっと話していたい 今日、かなしいことがあった 素敵でない人と出会った 初めて会ったのに どうしてそんなこと聞くの もう話したいとは思わない うれしいがあるから、悲しいがあるなんて そんなセンチメンタルじゃないさ 忘れ去りたい悲しみたちよ わたしを変えるよろこびにしよう わたしの前に現れるものたちよ 必要がないものなんて何もないさ 96/6/26
気持ちいい朝 久しぶりに夢を見た 夢は悲しい夢だった でも、懐かしい人に会った 夢の中ではぐれてしまったけれど・・・ その夢を思い浮かべながら・・・ その考えを断ち切って、ベランダに出る 風がとっても爽やかで、 空気が透き通っている そうだ、台風が来ていたんだ 台風が、きれいな空気と、 さわやかな風を運んできてくれた その美しい空気と気持ちいい朝が わたしにそんな夢を見させてくれた いつも、汚れた空気の中にいたことに こんな素敵な朝は気づかせてくれる 失って初めて気づくもの こんな気づきなら歓迎だ こんな失いなら歓迎だ 96/7/11
静かな気分 今日は、少し、静かな気分 世界は何も変わらないけれど、 今日は、少し、静かな気分 この気高く、粛々たる運気を 壊さないように、少し静かに歩く 何も変わらないようでいて、 季節はいつも巡ってる 漆黒の闇の中にも光は覚えず現れる だから信じて、すべてを信じて 愛されていることを忘れないで 静かに世界を見つめるようにたたずんで 新たな季節の訪れの予感 このこころが乱れぬように 96/9/7
遅い朝 遅い朝、少し濃い目のコーヒーを飲みながら 昨日までの夢をただぼんやりと眺めてる 指先に残るやわらかな感覚、夜の海の潮の香り いろいろの記憶がひらひらと花びらのように舞っている 夢はときどき現実に現れる 夢はいいこともあれば、そうでないこともある ただ、はっきりしているのは それが現実から切り離されたように ぽっかりと浮かんでいること 夢から醒めた朝は ふし穴から覗いて見える現実を 仙人のように醒めた目で眺めてる 何もない空白感、人恋しい孤独感、漠然とした寂寥感 やがて、日常をこなす意識たちが目覚ざめれば 意識の森に、また埋もれてしまうだろう これらのすべての考えと、オリジナルに近い自分 96/11/4
あなたとわたし あなたの何気ない言葉に、とまどっている あなたの何気ない言葉が、わたしを縛る その言葉を考えてみても、仕方ないことなのに あなたの心を考えてみても、わからないことなのに ああ、鏡なんていらない、それはわたしを映してるの? ああ、そんな鏡ならいらない、どうして醜い部分のみを映すの でもね、少しだけ、反省するんだ、あなたの言葉に でもね、少しだけ、わかるんだ、あなたに映る自分の醜さ だから、少しだけ、悲しくなるんだけど、あなたに だから、少しだけ、努力しようとするんだ、あなたに 96/12/26
波長 あなたとわたしの波長が合わない あなたの言葉はわたしには、わからない わたしの言葉はあなたには、わからない 気が合うと思っていたのにね 分かり合えると思っていたのにね あなたとわたしの言葉が溜まっていく あなたの言葉はわたしの中で、謎になる わたしの言葉はあなたの中で、謎になる 気持ちが通じると思っていたのにね 謎なんかないと思っていたのにね ふたりで水晶でも持ってみるかい? 96/12/29
若さ 若さは武器である ならば、武器のあるうちに戦え 装飾と知性と言葉が 武器を少しだけ長持ちさせる 火と水と風と土とが 武器を朽ち果てさせてゆく 恐れてはいけない、さだめなのだ 武器で相手を奪うより 少しだけ賢い方法がある 誰もが平和を求めてる 愛は永遠に続く、安らぎである あなたに自信がないなら 武器のあるうちに戦え 96/12/29
秤 あなたから、どれだけの悲しみを、もらったの? あなたから、どれだけの喜びを、もらったの? わたしから、どれだけの悲しみを、与えたの? わたしから、どれだけの喜びを、与えたの? あなたとわたしの気持ち、はかることはできないけれど 与えた悲しみがより多いなら、離れていってもいいんだよ 96/12/29
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