(情報活用の基礎・基本となる「情報の科学的な理解」)
自己教育力や問題解決能力,表現・コミュニケーション能力については,
これまでも学校教育において各教科等でその育成を目指してきた。
「生きる力」を育成するためには,それらの能力の育成を一層充実させる必要がある。
そのために情報教育が果たすべき役割は,「情報活用の実践力」を体験重視で育成することはもとより,
情報に関わる学問(情報学)の成果を適切に教育内容や教育方法に取り入れ,
情報活用の経験と情報学の基礎的理論と手法とを結びつけさせることで,
「情報活用の実践力」の深化,定着を図ることであり,
さらに,様々な情報手段に共通の原理や仕組みを理解させることで,
その能力の一般化と一層の向上を図ることである。
なお,ここでいう情報学は,従来のコンピュータや情報通信などの分野を中心とした情報科学に,
人間科学や人文社会学等への学際的な広がりを持った学問である。
例えば,人間の問題解決はしばしば試行錯誤的であるが,
シミュレーション手法を活用することにより,今日では,環境問題や都市計画,経済活動など,
科学技術から社会的事象に至るまで,あらゆる分野の問題解決に係る研究が
極めて効率的かつ効果的に行えるようになってきた。
このシミュレーション手法を活用するためには,
対象を目的に応じて適切にモデル化し,
その結果の信頼性や有効範囲などを評価する能力が必要である。
情報学は,そのための基礎的・基本的な考え方を提供する。
また,人間は,しばしば誤解や勘違い,もの忘れをする。
これに対して,人間の認知的特性を研究対象とする分野は,
人間の学習や思考,コミュニケーションの特性を解明し,
人間の優れた特性の生かし方や弱点の克服の仕方を示唆する。
これらに基づいた知識,技能を身につけることは,
問題解決能力や自己教育力,
効果的な表現・コミュニケーション能力を習得したり,
情報手段を適切に活用する能力を習得する上でも極めて有効である。
さらに,コンピュータ等の情報機器の普及や情報通信ネットワークの急速な広まりに対応して,
その基本的仕組みを理解し,適切な活用方法を知ることは,
生涯学習社会における自己教育力を身につけることにつながるだけでなく,
国際理解教育や環境教育などで世界的規模での交流が必要となる場合には,
学習手段を格段に拡げることになる。
また,障害のある子供たちにとっては,積極的に社会に参加する機会を拡大し,
また,他の子供たちとの交流学習の機会を広げる。
(「情報の科学的な理解」の扱いと範囲)
「情報活用の実践力」を単なる体験のレベルから,真の実践力,知恵のレベルに高めていくには,
目的や条件に応じて適切に情報を活用するための基本的な考え方として
「情報の科学的な理解」が不可欠になる。
そのような知識の必要性に気づかせるためには,体験活動が重要な役割を果たすが,
その内容をすべての子供たちに確実に理解させ,汎用の知識として応用性を高めるためには,
情報学の基礎的理論や手法を適切に教育内容として扱っていくことが重要である。
これを発達段階に応じて指導するには,
小学校段階では,
教員側がその考え方に基づいて授業や学習活動を設計し,
その時々に必要な情報の扱い方や機器の操作を子供たちに体験的に習得させるようにする。
中学校以降の抽象的,論理的思考力がついた段階では,
そのような体験を振り返ったり,実験や実習を取り入れながら,
それらの存在を明らかにして,その役割を理解させ,
さらにそれを主体的に活用する実践活動と,その活動の評価・改善を経て,知恵として定着させる。
なお,高等学校段階までにすべての子供たちに履修させたい「情報の科学的な理解」の範囲としては,
発達段階を考慮しながら,以下の内容を扱うことが考えられる。
・ 情報の表現法 |
伝えたい情報を,伝えたい相手の状況などを踏まえて,より効果的に伝えるための文字,音声,画像などのマルチメディアの表現法や,数式,図,表,アルゴリズム(手順)などの事象間の関係を表すための情報の表現法 |
・情報処理の方法 |
文字,数値,画像などのデータを効果的,効率的,かつ,高精度で処理・加工するための情報処理の方法 |
・モデル化の方法 |
実験・観察,調査などのデータを正しく収集し分析するための統計的見方・考え方や,そのために必要となるモデル化の方法 |
・シミュレーション手法 |
将来の結果予想や,与える条件を変えることによってどのように結果が変化するかを知るために有効となるシミュレーション手法 |
・人間の感覚・知覚や記憶,思考などの認知的特性 |
情報を的確かつ効果的に伝えたり,誤った情報の判断を未然に防ぐ上で役立つ,人間の感覚・知覚や記憶,思考などの認知的特性 |
・身近な情報技術の仕組み |
家電製品などに広く使われている計測・制御技術やインターネットなどの身近な情報技術の仕組み |
・情報手段を活用する上で必要な情報手段の特性 |
情報の伝達や処理,記録などに活用される代表的な情報手段の機能の分類や,長所短所,類似点・相違点,活用に適した場面と適さない場面など,情報手段を活用する上で必要な情報手段の特性 |
上記のほか,生徒の興味や関心に応じてさらに深めた学習や発展させた学習ができるようにすることも必要である。
|