(「情報活用能力」)
  臨時教育審議会(昭59.9〜62.8),教育課程審議会(昭60.9〜62.12)及び
 情報化社会に対応する初等中等教育の在り方に関する調査研究協力者会議(昭60.1〜平2.3)での検討を経て,

将来の高度情報社会を生きる子供たちに育成すべき能力という観点から,
これからの学校教育においては,「情報活用能力」を育成することが重要であるとの考え方が示された。

(「情報活用能力」の具体化)
  「情報活用能力」という概念は,諸外国で「情報リテラシー」と呼んでいる概念に対応するものとして,
臨時教育審議会第二次答申(昭61.4)で初めて用いられた。
そこでは,「情報及び情報手段を主体的に選択し活用していくための個人の基礎的な資質」を指すものとし,
「読み,書き,算盤」と並ぶ基礎・基本として位置づけ,学校教育においてその育成を図ることが提言された。
その後,教育課程の編成・実施に向けて「情報活用能力」の具体的な内容についての検討が重ねられ,
今日では,文部省が平成3年7月に作成した「情報教育に関する手引」(以下「手引」とする。)に,
次の4つの内容で整理されている。

 i) 情報の判断,選択,整理,処理能力及び新たな情報の創造,伝達能力
ii) 情報化社会の特質,情報化の社会や人間に対する影響の理解
iii) 情報の重要性の認識,情報に対する責任感
iv) 情報科学の基礎及び情報手段(特にコンピュータ)の特徴の理解,
    基本的な操作能力の習得

(現行の教育課程上の情報教育の扱い)
  情報教育については,現行学習指導要領では,コンピュータ等に関することを中心として規定しており,
各学校段階別では概ね次のような取り扱いとなっている。

小学校段階 教具としての教育機器の活用を通してコンピュータ等に触れ,慣れ親しませることを基本方針としており,特定の教科や領域は設けられていない。
中学校段階 技術・家庭科の新たな選択領域として「情報基礎」を設置し,年間20〜30時間程度扱えるようにするとともに,社会科,数学科,理科,保健体育科の各教科で関連する内容を示したり,コンピュータ等の効果的な活用を求めたりしている。
高等学校段階 普通教育においては,数学科,理科,家庭科等にコンピュータ等に関する内容を取り入れており,また,学習指導要領に示す教科・科目以外に情報に関する教科・科目を設置者の判断で設けることができる。
職業に関する各教科には,それぞれ情報に関する科目が取り入れられており,普通科においても,地域や学校の実態等に応じて,これらの科目の履修の機会を設けることができる。
盲学校,聾学校及び養護学校の特殊教育諸学校 小学校,中学校,高等学校の各段階における扱いに準じているほか,盲学校及び聾学校の高等部で独自に示している職業に関する教科において,情報に関する基礎的科目を位置づけている。

(効果的学習指導のための情報手段の活用)
  現行学習指導要領では,総則や各教科・科目の指導計画作成上の配慮事項の中で,教育機器などの適切な活用を求めており,この規定によって教育活動の中でコンピュータ等が活用されることを促している。この場合の情報手段の活用は,各教科・科目の目標をより効果的に達成するとともに,子供たちの「情報活用能力」の育成を明確に意識して行う必要がある。

情報教育の内容の体系化の視点
  第一に,情報教育で育成すべき「情報活用能力」の範囲を,これからの高度情報通信社会に生きるすべての子供たちが備えるべき資質という観点から明確にする必要がある。

  第二に,情報教育で育成すべき「情報活用能力」と,各教科の目標・内容との関連性を明らかにすることが必要である。

  第三に,情報教育で育成すべき「情報活用能力」を,発達段階や各教科の学習状況との関わりで,学校段階・学年段階別に系統的,体系的に示すことが必要である。
 

これからの学校教育の在り方と情報教育の役割

(情報教育の目標)
  これからの社会においては,様々な情報や情報手段に翻弄されることなく,
 情報化の進展に主体的に対応できる能力をすべての子供たちに育成すること
が重要であると考えた。

そこで,これまでの「情報活用能力」の内容との関わりも検討した上で,
今後の初等中等教育段階における情報教育で育成すべき「情報活用能力」を
以下のように焦点化し,系統的,体系的な情報教育の目標として位置づけることを提案する。

情報活用の実践力 課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含めて,必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し,受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力
情報の科学的な理解 情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解と,情報を適切に扱ったり,自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解
情報社会に参画する態度  社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響を理解し,情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え,望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度

  なお,実際の学習活動では,情報手段を具体的に活用する体験が必要であり,
必要最小限の基本操作の習得にも配慮する必要がある。
(ここでいう情報手段は,コンピュータ等の情報機器や情報通信ネットワーク等を指す。)
 

次期学習指導要領の改訂に向けた提言

各学校段階別では概ね次のような取り扱いとなっている。

小学校段階 小学校では,従前のコンピュータに「触れ,慣れ,親しむ」を推し進め,「情報活用能力」の育成という観点から,例えば,具体的に学校教育活動全体を通して,情報手段を積極的に活用することについて学習指導要領に明確に位置づける必要がある。その場合,中学校との接続を踏まえて,小学校段階で扱うべき情報教育を何らかの形で示すことができないか検討する。その一つの方策として,各教科等における適切な活用の在り方について検討する。
  「総合的な学習の時間」(仮称)を積極的に活用して,小学校段階における「情報活用能力」を育成するため,情報機器の基本操作を集中的に指導したり,情報手段を活用した表現・コミュニケーション活動や課題解決活動を取り入れるなど,主として「情報活用の実践力」を育成する。その場合,何らかの形で学年段階に応じた指導内容や指導時間を例示することが望ましい。
中学校段階 中学校では,技術・家庭科の「情報基礎」を必修扱いとした上で,「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」を扱うという観点から内容を充実する。さらに,生徒の興味・関心に応じて発展的な学習できるように,技術・家庭科に発展的な選択領域を設置する。また,技術・家庭科になじみにくい内容については,従来どおり他の教科で扱うことや,より発展的な学習が可能となるように,選択教科の時間を活用できるようにする。
  以上の「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」の学習成果を生かして「情報活用の実践力」の深化を図るために,既存教科等で課題解決的な学習活動等を展開するとともに,「総合的な学習の時間」(仮称)を利用して,情報手段を活用しながら,一層主体的な学習活動を展開する。
高等学校段階 高等学校では,普通教育に関する教科として教科「情報(仮称)」を設置し,その中に科目を複数設定する(いずれも2単位程度)。内容としては,「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」に関する事項で構成する基礎的な科目を設けることとする。
  このほか,生徒の多様な実態に配慮し,「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」に関する事項のうち特定の内容に重点を置き,演習,実習を豊富に取り入れた科目や,コンピュータ等の情報手段を積極的に活用する科目を設けるなど,選択の幅を確保することが望ましい。
  新教科は,可能な限り必修とすることが望ましいが,必修とすることが困難な場合は,その内容の一部をすべての生徒に学習させるために,既存教科に,必修内容として組み入れることも検討する必要がある。
  ただし,新教科の教育課程上の位置づけや,科目構成の在り方,それらの扱いについては,今後,高等学校教育全体の在り方の中でさらに慎重に検討されるべきものである。
  なお,本協力者会議で検討した情報に関する教科は,普通教育に関する教科として構想しているものであり,別途,理科教育及び産業教育審議会において検討が進められている専門教育としての情報に関する教科との関連に留意しながら,具体的な教育内容を検討する必要がある。また,この教科を担当するにふさわしい教員免許資格の在り方や教員研修の在り方について検討する必要がある。
盲学校,聾学校及び養護学校の特殊教育諸学校   各教科等については,小学校,中学校,高等学校に準ずるとともに,情報手段の活用の在り方を含め,学習の補助的手段の活用能力等の育成を図る観点から「養護・訓練」の内容の充実について検討する必要がある。
  特に,情報通信ネットワークをコミュニケーションの補助手段等として利用することで,障害のある子供たちが他の子供たちや様々な人々と交流する機会を一層拡充していくことは,障害のある子供の世界や可能性をさらに広げ,社会的参加・自立を実現していく上で,大きな効果があると考えられる。また,情報通信ネットワークを利用した交流を通じて,多くの人々が障害のある子供たちに対する正しい理解と認識を深めることは,大きな意義があることから,交流教育における情報手段の活用の在り方等について検討する必要がある。


(各学校段階を通じて)
  学校段階,各教科等の特性に応じて,情報機器などの情報手段をより積極的に活用するよう
 学習指導要領上に規定する。