『信念』

 

 

 「ったく・・・おせーな」

 俺は倒した車のシートで腕時計に目をやった。
 二人と別れてからもうだいぶ経つってのに、一向に帰ってこない。

 「女って生き物は永遠の謎だな」

 たかが買い物だけにこれだけ時間を消費するくせして、待ち合わせには少しばかり遅れただけでも怒り出す。

 「ま、そこがいいんだが・・・ん?」

 もたれかかったシートからサイドミラーに目をやると、体格のいいスーツを着た男が二人ばかりこちらへと歩いている。ただの通行客にしては殺気がある。

 「俺・・・か?」

 疑問に思うまでもないか。ハンターなんぞヤクザな商売をやってりゃ自分の知らない場所で恨みをかっていても不思議じゃない。
 俺は寝たフリをする。やはりカンは当たっていた。
 横のサイドガラスがコンコンとノックされる。
 俺はできるだけ眠たげな目でそちらを見て、ウインドゥを開けた。

 「沙奈さんはどこへ行った?」
 「どっか買い物だ。なんだあんたら?俺は眠いんだが?」

 と、通行人から隠すように銃口を俺に向けた。
 どちらにしろ、こんな所で銃を抜くんだ、素人か・・・
 
 「お急ぎのようだな、つきあってやるよ」
 「ふん、強がりは立派だな」

 強がり、ね。まぁいいさ。
 あとは二人の指示に従った。従順なかよわき子犬のように。ワンワン。



 連れ込まれた先は裏路地だった。なんてセオリーな場所だ。脅迫も背に銃口をつきつけるだけという美学も何もない、俺に言わせれば顔から火が出るほど恥ずかしいものだった。俺は二人の前に座らされる。
 
 「我々の言う事をきけば命だけは助けてやる」
 「・・・聞くだけ聞いてやるよ。本来ならむさい野郎に耳を貸す趣味は持ち合わせてないんだがな」
 「この・・・」
 「よせ、いいか?」

 二人のスーツのうち、年を食ったほうが口調も静かにだが、銃に殺気をこめて口を開く。
 あと数年すればそこそこの荒事師にはなれるかもな。

 「我々の要求は一つ。沙奈さんの事を忘れて二度と現れるな」
 「くそくらえ」
 「貴様・・・もう一度言って見ろ、状況をよく見てな」

 スーツが銃をちらつかせる。
 まだまだだな、銃は脅しに使うもんじゃない、撃つもんだ。
 俺はため息混じりに言ってやる。
 
 「顔も悪いが耳も悪いようだな。く・そ・く・ら・え。そう言ったんだよ」
 「・・・お前、死にたいのか?」

 俺はそう言ったスーツを正面から見る。
 その銃をわしづかみにして、俺は自分の胸へと密着させた。

 「撃てるか?どうせ人を殺した事などないんだろう?」
 「・・・は、離せ・・・!」
 「人を殺す時に言葉はいらない。静かに、そして確実に実行するだけだ」
 「く・・・・」

 荒事のプロらしいが、生憎と俺もプロだ。それもバーミンハンターのな。
 睨むだけでスーツは後じさりする。染みついた迫力というものが違う。

 「社長さんに言っとけ。沙奈は俺のモンだ。手放しはしないとな」
 「・・・これでもそんな事が言えるか?」

 もう一人も銃を抜いた。
 俺はただ笑う。あくまでクールに。そして冷酷っぽく。
 
 「バーミンハンターの俺に・・・そんなものが本気で通用すると思っているのか?」
 「なんだと?」

 もちろん通用する。急所に当たれば一発であの世行きだ。
 だがバーミンハンターというのはその職業上、恐れられている事が多く噂にも尾鰭背鰭がつきやすい。俺が聞いた噂には、バーミンハンターは銃の弾丸を目視でよけ、手から火を出すなどという魔法使いのごときものもあった。

 「どうやら身をもって教えてやるしかないか」

 静かにセリフを言い終え、俺は髪をかきあげる。

 「無駄な殺しはしたくないが・・・」
 「く・・・・」

 銃をかまえたまま硬直する二人。
 
 「どうした・・・死ぬのが怖いか?」
 「う・・・ぅ・・・」
 「・・・いいだろう。今なら遊びですませてやる、消えな」

 俺はアゴで行けと合図した。
 すると二人を縛っていた見えない糸が断ち切れ、あとは一目散に逃げ出していった。
 ただ、その際。

 「社長はお前をずっと追い続けるだろう!たかが一人の女の為に命を狙われてもいいのか!?」

 負け惜しみのようにスーツが叫ぶ。俺に対する脅しのつもりか?
 俺は皮肉っぽい笑みで答える。

 「愛とは後悔しない事、それが俺の信念でね」
 「後悔するなよ!」
 「最低の捨てゼリフだな。あそこまでは落ちぶれたくないねぇ」



 俺が車まで戻ると二人のレディが、一人はふくれっツラで待っていた。

 「どこ行ってたのよ。だいぶ待ってたのよ」
 「ん、あ、ちょっとな」

 俺だって死ぬほど待ったとは言わず、車のロックを開ける。
 女という不条理な生き物にそんなことを言った所でムダだとわかってるからな。
 全員が乗り込み、俺はエンジンをかけた。

 「買い物はもう全部終わったか?」
 「ええ、もういいわ」
 「そりゃ良かった。これ以上は体がもたん」
 「ふふ、お疲れさま」

 車中、俺は後部座席の小娘を見る。

 「眠ったようだな」
 「そうみたいね。だいぶ歩いたから、疲れちゃったのよ」
 「・・・沙奈」
 「なに?」
 「なにも心配はいらない。だからずっと俺の側にいろ」
 「・・・・・うん、ありがとう」

 

 

『信念』  END
to be C・・・・


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