『別離』

 

 

 マンションに到着するころには日も傾いていた。
 高層というほどでもないが、その一階のつきあたりが俺の部屋だ。
 なんというか、その場の流れで今夜は沙奈がウチに泊まっていくらしい。

 「今夜は騒がしいパーティーになりそうだな・・・」

 二人してキッチンを占領し、料理を始める後ろ姿はなんとも平和である。
 が、たまにはこういうのもいい。
 戦士には休息が必要だ。戦いのさなかに感じるスリルとは違った感触があるからな。
 上質の酒と極上の女、そして吸い慣れた一本のタバコ。最高の休息だ。
 
 「お待たせー」

 沙奈と小娘が湯気も白い料理をテーブルに並べながら俺を呼ぶ。
 なんとも豪勢な食事だ。ここ数日は小娘のおかげでまともな食事が続いていたが、さすがに沙奈の料理は食材が高いだけあってゴージャスだ。

 「こいつは旨そうだな」
 「失礼ね、美味しいに決まってるでしょ?誰が作ったと思ってるのよ」
 「これは失敬」

 俺の横に小娘が、正面の席に沙奈がつく。

 「じゃあ、いただくとするか」
 「いただきます」
 「熱いから気を付けてね」

 ほのぼのとしたアットホームなムード。
 ・・・・一瞬、いやな事を想像しちまった。俺らしくもない。

 「ねぇ」
 「なんだ?」

 沙奈が思いついたように声をかける。

 「なんか家族みたいね」
 「ブッ!」
 「あ、汚いわね!」
 「お、お前な・・・」

 沙奈が言った事こそ、今さっき俺が想像していた事だった。
 俺に似つかわしくない単語は努力、根性、友情。そして家族だ。
 孤独なバーミンハンター、それが俺のはずなのに・・・
 ここ最近の俺はヤキがまわったとしか思えない。

 「あんたもさ、いつまでも孤高の戦士なんて気取ってないで落ち着いたら?」
 「なんだと?」
 「似合わないってのよ。クールっぽいカッコも、フェミニストまがいのセリフも」
 「こらこら、誰にモノ言ってるんだ?世界中探したって俺ほどのナイスガイはそうそう見つかるもんじゃないぜ?」

 俺は余裕のある仕草で両手を呆れたように広げる。
 言葉ではいわず、態度だけで「わかってないな、ヤレヤレ」と表現した。

 「それが似合わないっての」
 「いちいちうるせーな・・・犯すぞ」

 野獣の目で睨む俺。対して。

 「やれるもんなら、やってみなさいよ」
 「言うじゃねーか、なら・・・・」

 俺が冗談で立ち上がり、沙奈に襲いかかろうとした時、横で肩を震わした小娘がいた。
 何もいわず、ただうつむいている。

 「・・っと」

 俺はそこで動きを止めた。
 沙奈がいつもより厳しい目で俺を睨む。

 「葉月ちゃんの目の前でそんな事、冗談でもできると思ってんの?」

 ・・・確かに、小娘にゃトラウマになってるっぽいが・・・
 フェミニストの俺とした事が、考えなしの発言だったか。

 「ほれほれ、なんとか言ってみなさいよ」

 と、一転した態度でスカートのスソをひらひらと指先で弄ぶ沙奈。
 だからと言って、なんで俺がここまでなぶられにゃならんのだ?

 「葉月ちゃん、だめよぉあーいう男につかまっちゃ」
 「・・・・・はーい」

 今度はさげすむような眼差し。あー・・・もう、好きにしろ。
 が、おかげで雰囲気も暗いものではなくなった。
 これがもし、沙奈の計算づくだったら怖いがな。

 「でもさぁ・・・」
 「なんだ?」
 「こういうのもいいよね・・・」

 沙奈がぼんやりと呟く。

 「・・・そうだな」

 戦う必要のない時間。愛する者の笑顔と頼ってくる小さな心。
 心地よい感覚だ。互いが違いを必要としている。

 「ねぇ、沙奈さん」
 「なに?」
「やっぱり・・・二人はいつも一緒の方がいいと思う」
 「おいおい、どうしたんだ小娘?」

 なんだか妙な事を言い出しやがる。
 沙奈の親父が追っ手を出してきたのはバレてないはずなんだが・・・

 「葉月ちゃん・・・」
 「・・・・」
 「ありがとう、大丈夫よ。私はいつも彼と一緒にいるから・・・」
 「本当に?」
 「うん、例え・・・彼がダメって言ってもついていくわ」

 最後の所で沙奈が俺の方を振り向く。
 その目の中に映る俺は笑う。

 「後悔すんなよ?」
 「貴方と別れるよりも後悔する事なんてないわ」

 また、貴方、だ。
 苦手なんだよな、こういう時の沙奈は。
 妙に迫力があるし・・・たまらなく魅惑的でひるんじまう。濡れた唇と潤んだ瞳が俺をたまらなく魅了してくる。まさに女は魔物ってヤツだ。



 夜も更けて。沙奈達も隣の部屋で熟睡してる頃だろう。
 俺はベッドの中で、スーツ姿の二人組の言葉を思い出していた。
 これから何度でも沙奈を狙ってくるだろう。
 ならば何度でも返り討ちにしてやる。相手が諦めるまで。
 沙奈の父親がいつまでも諦めないならば・・・直接乗り込んで、親父を殺す。
 どうせ沙奈を育てた人間と言っても、所詮は沙奈を政略結婚の道具としか見てはいまい。

 「そんな義理の父親でも沙奈は俺を恨むだろうが・・・邪魔はさせん」

 たとえ、止められても俺は実行するだろう。
 命を賭けて女を愛するとはそういう事だ。
 たとえ沙奈に恨まれても、嫌われても、俺は沙奈を愛し守り続ける。
 そう、彼女が俺に別れを告げない限り。

 「・・・・これが俺の愛し方だからな・・・・・」

 近く、この家も引き払った方がいいだろう。
 どうせ小娘の事もあるんだ、すぐに手狭になっちまう・・・って。

 「・・・・まぁ、いいか。にぎやかなのも悪くない」

 これからは子連れハンターで名を上げるかね。
 俺は笑ってあきらめにも似たため息を吐いた。
 と、

 コンコンコン!

 「ん?」
 「起きて!沙奈さんが!」
 「なんだ?」

 俺はかけていたシーツをはがし起きあがる。ドアを開ければ小娘が騒いでいた。

 「どーした?こんな夜中に?」
 「こ、これ・・・」
 「あん?」

 小娘は一枚の手紙のようなものを俺に渡す。
 それを読んだ時、俺のはらわたは煮えくり返った。自分のあまりの不甲斐なさに。

 「なにを・・・考えてやがんだ、あの女は・・・・!」
 「早く捜しに行こうよ!」
 「当たり前だ!」

 俺は素早く着替え、コートをわしづかみにする。
 
 「お前は留守番だ、大人しくしてろ!」
 「いや!ついていく!」
 「お前が来ても邪魔なだけだ!」
 「私だって沙奈さんが大好きだもん!連れていって!」

 悲しみと強さが混同した表情だった。
 今にして思えば、沙奈と小娘はどこか似ているのかもしれない。

 「・・・ふん、邪魔だけはするなよ」
 「うん!」

 

 

『別離』  END
to be C・・・・


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