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 メソポタミア文明発祥の起源を持つというイラクは、湾岸戦争前までは中東で最も発展を遂げた国であり、その豊かさはユニセフなどの活動を支援するほどでした。
 しかし、イラクのクエ―ト侵攻以来今も続く経済制裁と、湾岸戦争後も続いた空爆によって、国民生活のために必要なインフラが崩れ、人々の生活は窮乏しています。 栄養不良や劣化ウラン弾の影響などにより5歳児未満の死亡率は、1000人出生したうちの125人に及んでいると言われています。
 イラクは、国民の95パーセントがイスラム教徒と言われている国です。イスラム教徒の中の80%がアラブ人、15〜20%がクルド民族です。 停戦委員会では、クルド人に着目してイラク攻撃の問題点を考えてみたいと思います。



イラクへの軍事行動を止めよう――クルド人問題に着目して

 イラクの北部山岳地域にはシリア、トルコ、イラク、イランにまたがって、山岳民族「クルド」と呼ばれている人々が暮らしています。 クルド民族は1500万人、2000万人、3000万人とも言われ、世界最大の少数民族と呼ばれています。しかし、国を持った事は第2次世界大戦後、一度しかな く、その国もわずか12ヶ月で崩壊したそうです。

●イラク国内のクルド人――その歴史と現在

 イラク国内のクルド人は、民族の自治をしばしば要求し、内乱が起こってきました。クルド人側の発表によれば、湾岸戦争に至るフセイン政権20年間には5千の村落の うち4千5百が破壊されたといいます。湾岸戦争後の1991年にもクルド人達は蜂起をし、イラク軍による鎮圧を受けて、約200万人の難民がトルコ国境の山岳地帯に 流出、多くの人が政府軍ヘリコプターからの爆撃と雪に倒れて亡くなったといいます。この後、多国籍軍の保護の下で、92年5月、クルド人地域では史上初めての選挙が行われ、イラク北部に クルド民族のための自治州3州が作られました。 その後イラク北部は、シーア派イスラム教徒の住む南部の一地域とともに、アメリカ政府によってイラク空軍の飛行禁止区域にされました。
 しかし、イラク中央政府は「クルド地域政府」の存在を認めず、イラク議会はこれを非合法だという声明を発表しました。これに対し、アメリカは米主導軍によるイラク空域のカバーは国連安保理の 決議688号に基づく正当なものであるという主張をし、国の主権侵害を理由にしたイラク政府側の対空砲火には爆撃で答え、また、イラ ク軍のレーダー施設へのミサイル攻撃も加えられました。
 一方、クルド地域政府内では、クルド民族の中の内部抗争やトルコ軍の越境攻撃、イラン軍による砲撃、イラク軍による侵攻などが繰り返され、情勢は現在も非常に流 動的です。また、これらの飛行禁止区域には、イラク国内やイランからの難民が集まって暮らしています。

 これまでクルド地域政権が永らえたのは、湾岸戦争によって衰えたイラクのフセイン政権を取り囲む国際環境と、アメリカの保護のなせる業でした。しかしアメリカがクルド地域政権を 保護したのは人道上の理由からだけではなく、現在のイラク政権に対抗する勢力圏をイラク領内に育てるためであったと考えられています。 アメリカはイラク攻撃のときには、クルド自治3州のクルド人とイラク南部に暮らすシーア派のイスラム教徒との間で連携をすると言っています。しかしこれも、数多くの 犠牲者が出る事が予想できる作戦をクルド人勢力やシーア派勢力に代行して行ってもらうという可能性が大きいのです。

 現在、クルド地域政府はバグダッドにあるイラクの中央政府だけでなく、隣接するイラン、シリア、トルコなどの国々からも認められておらず、アメリカをはじめとする 欧米諸国からも、はっきりとした承認を得ていません。仮にイラクの政権が変わったとしても、次の政権がクルド自治を認めるのかは、分りません。かんじんの米国でさえも、クルド自治をいつまで 認めるのか、どこまで認めるのか、はっきりしていません。イラクのクルド民族と中央政府との間で常に激しい抗争の元になっている中東有数と言われているキルクーク という土地にある大油田をどちらのものにするか、など、クルド地域政府の今後には問題が山積しています。

●米政権にとってのクルド地域政権

 湾岸戦争以後のイラク北部のクルド地域政権樹立は、米国の次のイラク攻撃へ向けての段階的な策謀であるとも専門家の間では言われています。最近ではCNNやロイターが クルド自治3州でアルカイ―ダかそれに関連するとみられる組織が、化学兵器関連の毒物研修施設をこの地域に築いた、というニュースを報じています。ラムズフェルド 国防長官は8月中旬の記者会見で、「イラク政府がアルカイーダが同国内で活動しているのを容認している」と述べました。

 しかし、イラク側は、この見解を「北部はクルド族の支配下にあり、政府はアルカイーダとは一切関係はない」と反論したのち、同時テロについても主犯格、モハメド・ アタ容疑者とイラク情報機関幹部との会談も行われていないと否定、フセイン政権とアルカイーダとはイデオロギーが違うと説明しています。その見解を裏付けるように 米誌タイム(8月26日発売)は、「米情報当局者が同誌に対し、イラクのフセイン政権がウサマ・ビンラディン氏のテロ組織アルカイーダと関係を持っていることを示 す証拠は全くないと述べた」と書いています。米上院外交委員会のヘーゲル議員(共和党)も同誌に対し「フセイン(大統領)とアルカイーダは結託していない」と述 べ、更には、米国防総省当局者が、「アフガニスタンを追われたアルカイーダ要員数十人がイラク北部に逃れたことは認めているが滞在しているのが米、英両国が設定し た飛行禁止空域に守られたクルド人地区で、イラク政府が彼らと連絡を取っている形跡はない、」と述べる、という報道も流れています。こうした報道はラムズフェルド 氏の会見内容とは一致していません。また、アルカイーダとクルド自治区につながりがあるならば、そこを保護してきた米政府にも関連があるという疑いが生じます。

●クルド地域政府とイラク政府の今後

 クルド地域政権はフセイン政権が崩れた後にアメリカが是とする政権がイラクに出現して、アメリカがクルド保護から手を引き、再び中央政府と厳しく対峙しなけ ればならない時期がくることを恐れています。

 『人道的停戦を呼びかけよう実行委員会』では、これまでのこうしたやり方、考え方を改め、国際機関がしっかりとリードをして、この地域とその周辺に生きる人たち に対して、平和的共存に至る確かな道筋と枠組みを提供していくことが今後、重要になると考えます。しかしそのためには、国連を始めとしたこの地域に関わる国際機関 《国際原子力機関(IAEA)、化学兵器禁止機関(OPCW)etc》などが一国主義(ユニラテラリズム)や大国主義に基づいて運営されるようなことはあってはならな いと考えています。
 武力という手段を通じた解決には限界があります。 この地域の人たちが弱肉強食の論理から抜け出し、平和や共存、安定といった道を目指すには、国 際社会の協力、それも可能な限りの、公正さに基づく「国際機関の調停」が不可欠であると考えます。 『人道的停戦を呼びかけよう実行委員会』では、武力による解決で はなく、国際社会がこの地域に対し、「和平プロセス」実施による解決の実行を始める事を望んでいます。

 今年に入ってから、イタリア南部にあるシチリア島には、約1000人のクルド難民が漂着をしています。イラクが米国からの攻撃を受ければ、イラク北部のクルド地 域に暮らす人々の生活は、不安定になります。難民も更に発生します。この地域の人たちの暮しをこれ以上、破壊しないためにも、まずはイラク攻撃を止めましょう!

文責 あいはら
ブッシュ大統領は、「イラクが大量破壊兵器の査察に応じたとしても、イラク国内のクルド人を化学兵器で大量殺害したことなどによる戦争犯罪は許されな い」と述べたといわれます。しかし、アメリカが本当にこの言葉をいう資格があるのかについては、疑問があります。

 アメリカはイラクの過去の化学兵器使用を責められるか?



クルドのことがわかるリンク集
週刊こどもニュース「今週のわからん」1999.02.21
ピース・ウィンズ

クルドの人の生活感がじかに伝わってくるような、あたたかくてどっしりとした写真が多数あるページです。
Kurdistan /松浦範子

クルドの人々の暮らしがわかる映画があります。機会があったらぜひご覧ください。
クルド人監督、クルド人キャスト、クルド語の映画です。
2000カンヌ国際映画祭カメラドール新人監督賞・国際批評家連盟賞ダブル受賞作品(配給 オフィス303)
酔っぱらった馬の時間バフマン・ゴバディ監督

バフマン・ゴバディ監督は、第38回シカゴ国際映画祭での金賞受賞が決まっていましたが、米国に入国ビザ発給を拒否され、受賞を辞退したと発表しました。[2002.10.16]





ここから下は、アメリカのイラク攻撃が始まる前のニュースです。あの攻撃に関して、クルドの人々がどのような位置にいたのかを知る手がかりになると思います。

 イラク飛行禁止区域で交戦激化 米、軍事行動の根拠に
http://channel.goo.ne.jp/news/sankei/kokusai/20021120/KOKU-1120-01-02-22.html

【ワシントン19日=土井達士】イラクの大量破壊兵器廃棄を目標とした国連査察団の先遣隊が現地入りした十八日、イラク国内の南北に米英が設定している「飛行禁止区域」 を警戒飛行していた米英軍機と、地上のイラク軍との間での交戦が相次いだ。
湾岸戦争後に設定された飛行禁止区域は、国連安保理の正式な決議を経ておらず、イラク側は終始、警戒飛行を「領空侵犯」とする立場をとっている。途中で警戒飛行 参加を取りやめたフランスが米国に同調するかは微妙で、当初から飛行禁止区域設定に懐疑的だったロシアは「決議違反だとする米国の主張には法的根拠がない」としている。 このため、米国は現時点ではこの問題を安保理へ持ち込まない方針だが、イラクによるあらゆる敵対的な行動は「決議違反になる」(ブッシュ大統領)との見解を堅持しており、 今後の査察動向などによっては、飛行禁止区域での交戦がイラク攻撃実施のカギを握る可能性も出ている。[更新日時 : 2002年11月20日(水)02:22]

[用語:イラクの飛行禁止区域] 湾岸戦争後の1991年4月、米英仏3国がイラク周辺国への難民流入を防ぐため、イラク軍機の飛行を禁止した区域。まず、クルド人保護のため北緯 36度以北に設定。翌年、シーア派住民保護のため同32度以南を指定した。さらに96年には、米英が南部の区域を同33度以南に拡大した。米英軍の警戒飛行を領空侵犯と主張す るイラクは、地対空ミサイルなどによる攻撃で抵抗、米英軍は空爆を続けている。

飛行禁止空域の地図――イラクの2/3が飛行禁止区域である


 安保理決議 米の拡大解釈に各国反発
http://channel.goo.ne.jp/news/kyodo/kokusai/20021116/20021116a3340.html

【ニューヨーク16日共同】対イラク攻撃に踏み切る際の根拠にする国連安全保障理事会決議1441の「重大な違反」について、米国がイラク上空の飛行禁止空域で 監視飛行中の米英両軍機に対する攻撃も含まれるとする「拡大解釈」を持ち込み、国連内で猛反発を招いていることが16日までに分かった。
 米国は安保理メンバー国に対して、決議にある「決議の(履行の)ために行動する国連加盟国人員に対する敵対的行為は容認しない」との文言を適用、空域内で監視飛行 中の米英軍機への地対空ミサイル攻撃なども「重大な違反」に当たるとの主張を展開しているもようだ。
英国のグリーンストック大使は今月8日の採択前、決議に対する支持取り付けのため飛行禁止空域での活動とは関係ないことを各国に説明した経緯がある。 安保理理事国の外交筋は「米国は採択前、決議案には攻撃への『隠された引き金』はないとあれだけ言っておきながら身勝手過ぎる。これではさすがの英国も同調できな いだろう」と話している。[更新日時 : 2002年11月16日(土)16:38]


 米情報部隊、イラク北部で軍事行動に向け準備=米紙
http://channel.goo.ne.jp/news/reuters/kokusai/20021112/95893-1.html

[ワシントン 12日 ロイター] 米紙ロサンゼルス・タイムズによると、米国はイラク北部のクルド人勢力との協力関係を強化し、フセイン政権への攻撃に備えるため、 既に情報部隊をクルド人自治区に送り込んでいる。
 同紙はクルド人勢力筋の証言として、米情報部隊が自治区内で、イラク攻撃に備えた作業や、情報収集のための拠点の設置、国際テロ組織アルカイダとつながりのある イスラム過激派組織に関する調査といった任務を遂行している、と報じた。
 また、クルド愛国同盟(PUK)のタラバニ議長は、フセイン政権に対する米国主導の軍事行動実施中は米国がクルド人自治区を保護すると約束したとし、米国との間 で軍事的にあらゆる協力を行っている、と同紙に述べた。[更新日時 : 2002年11月12日(火)20:46]


 <トルコ>イラク領内に軍投入 クルド独立対策 外相が認める

 トルコのギュレル外相は4日、米国によるイラク攻撃に関連し、フセイン政権転覆後、イラク北部のクルド人自治区の分離独立を阻止する考えを改めて示した。また同 地を拠点にトルコへの敵対行動を続けてきた非合法組織「クルド労働者党」対策として、イラク側へ数百人規模のトルコ軍を投入していることを初めて認めた。(毎日新聞) [10月5日12時46分更新]


 トルコ軍、イラク北部のクルド人居住地域の兵力を増強

 【トゥンジェリ(トルコ) 10日 ロイター】 米国によるイラク攻撃の観測が高まるなか、トルコ軍は、イラク北部のクルド人勢力居住地域に兵士1000人を追加派遣し、同地域の兵力を5000人規模に増強した。
 トルコ軍は、反政府武装組織のクルド労働者党(PKK)に対する取り締まりのために、イラク北部の同地域にしばしば進入している。
 トルコ軍関係者は「PKKメンバーの行動を監視、規制するために、この地域で兵力を展開している。この兵力の配備により、トルコはイラク北部住民の平和と安全を確保し、地域の安定に貢献している」と述べた。
 イラク北部では、トルコ政府がクルド人国家の樹立を阻止するために軍事介入を行うとの懸念が高まっている。(ロイター) [9月11日20時35分更新]




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