音の技法


#マーラー交響曲9番

 1楽章が特殊だ。始めのヴァイオリンのラドーーラドミソッソーー(ド、ソは#)で始まるへんな旋律と、それに和音とリズムが全然かみ合っていないように聞こえるチェロかなにかの対旋律の二つの鮮烈な旋律に戦慄した。このリズムと和音のずれに感動した。ずれてはいるのにあっていないわけではない。不思議な感覚だ。これに対抗しうる音楽は一つしか知らない。あるオーケストラが中国の偉い人の前で演奏をした。そのあと、偉い人は「どの曲も素晴しかったが、一番最初の短いのが一番気に入った」と言ったそうだ。それは、実はチューニング(音合わせ)のことだった。その話を聞いたときは笑ったが、なるほどとも思った。確かにあれはいいものだ(マクベ)。
 音合わせでは、まず全ての楽器がA(ラ)を鳴らす。それから、弦楽器はその5度上や下の音に移る。管楽器は音階をしたりする。ときどき誰かが、なにかのメロディーの断片を鳴らしたりする。そういうことをみんなが勝手にやる。勝手ではあるがある程度同調した流れでもある。そして、漠然と盛り上がり、クライマックスに達して、漠然と消失する。二度と復元されない究極の複雑さと曖昧さを持った音楽。


#ベートーベン交響曲7番4楽章

 シッシドミレドシドッドレファミレドシッシドミレドシドッッララーー、(ファとドは#)というめまぐるしいメロディー。
 この中のミレドシとファミレドの音形が面白い。隣り合うこれらの4つの音をとても速く弾くため、これらの音がほとんど同時に鳴らされているように聞こえて、特殊な効果を生みだしている。ミとシを同時に弾けば和音になる。しかしミレドシを同時に弾くと和音以上のものになる。ミとシは音の組み合わせだが、ミレドシは音の幅なのだ。この広い幅のつくる不共和音が特殊な装飾効果を創っている。
 またこの4つの音がインテンポでならされる様子はドラム的なリズム作りの効果もある。タンタカタカタカ、タンタカタカタカ、タンタカタカタカというリズム。この狂ったような反復に異様な官能を感じるのは人間が弦詩人(原始人と打とうと思ったら素晴しい誤変換が)であった頃からの名残であろう。


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