Written and Directed by Peter Capaldi
( 35mm / Colour / 25 minutes / 1993 )
Conundrum Films / BBC Scotland
1912年、クリスマス・イブ。フランツ・カフカは『変身』の冒頭で主人公が何に変身するべきか悩んでいた。集中しようとするカフカを階下の音楽が邪魔をする。さらにはコートの裏側にあらゆる刃物をぶらさげた奇妙な御用聞きに、自分のペットが逃げ込んでいないか尋ねられる。なんとか御用聞きから逃げ、机に向かうが、階下の音楽に我慢できない。パーティをやっているシスリー嬢の部屋へ文句を言いにいくと、揃いも揃って白いドレスを着た少女達が“カンガルー・ホップ”を踊るではないか。部屋に戻ってさらに悩んでいると部屋の中に虫がいる。大の虫嫌いのカフカは虫を殺そうとするが、気をかえ、窓から逃がしてやる。そこへ来るのは頼んでもいない、仮装衣装屋。大きな虫のコスチュームを届けにきたという。人違いが判明し、ようやっとカフカは創作に集中・・・と思いきや、今度は階下の音楽にまじって、頭の中で騒音が。犬は吠えるし、赤ん坊は泣く。堪忍袋の緒も切れて、「静かにしろ!」と叫ぶカフカ。静けさを取り戻した彼の部屋の、机の上で待っていたのはゴキブリ。ぶちきれてゴキブリを手で叩きつぶすカフカだが・・・
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BBC Scotland のためにつくられたショート映画で、わずか25分の間ながら、リチャード・E・グラントが様々に表情を変え、このおとぎ話のような世界の中に生きるカフカの時間に、観る者をひきこむ。フランク・キャプラ (Frank Capra) の『素晴らしき哉、人生』 (It's a Wonderful Life) にちなんだ題名からも予測できる、キャプラ映画のような人生(生命?)讃歌を奇妙なアプローチから実現しており、最初はシスリー嬢にK氏と呼ばれているカフカが、最後にはF氏と呼んでもらうようになるのと同時に映画のキャプラ色も強くなるのが面白い。雪降るクリスマス・イブに、「僕にこんなに友達がいたなんて!」と喜ぶカフカ、そして窓の外の雪を見ながら皆が賛美歌を歌うシーンなどは、キャプラの『素晴らしき哉、人生』への明らかなオマージュであろう。 | |||||||||||||||||||||||||||||
フランツ・カフカ役といえば、ジェレミー・アイアンズを思い浮かべる人も多いだろうが、今回は神経質で孤独なインテリにぴったりの演技が光るリチャード・E・グラント。マッチ箱でつくったおもちゃのような家々が塔をつくり、その塔のてっぺんにある建物の、さらに最上階にある暗い部屋で孤独に『変身』を執筆しているカフカが映し出されて物語がはじまる。邪魔する人や騒音にイライラし、額の血管も浮き出んばかりに怒りに身をふるわせるカフカ。その表情は、いまにも狼男に変身しそう!たまりかねて「静かにしろ!」と階下に怒鳴ったあと、精も根も尽き果てた様子で疲れ切って机に戻り、今度はゴキブリを発見するという場面の、REGの表情の変化はまさに見事。ゴキブリを殺してしまった後で、そのことに罪悪感と悲しみをおぼえ、縮こまって座り込み、まるで自分を抱きしめているかのような恰好で泣くREGはこどもみたいにかわいい。そして虫嫌いだった筈のカフカが、少女らにゴキブリの幼虫などを貰い、恍惚とした表情で「ありがとう」と言っているのを見れば、奇妙で気持ち悪い世界こそが、浄化された平和なところであるかのような錯覚までしてしまう。 エンド・クレジットともに流れるヴィクター・ハーバートの“Sweet Mystery of Life”を歌うのは、映画の中でバナナやカンガルー、さらには昆虫に変身しているクリスピン・レッツ。憎い演出だ。対外的にも認められたこのショート、1995年のアカデミー賞では Best Live Action Short としてオスカーを受賞している。 わたしの持っているビデオは、このREG主演のショート以外に、サンドラ・ブロックが制作にかかわり、1996年のサンダンス映画祭で公開された『Mailman』や、マシュー・マコノヒー主演の1995年作品『Judgement』などのアメリカ作品とともに、オーストラリアのショート・フィルムなどが入っていて、かなりのお買い得品。 |
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