TOP / POLICY / SPECIAL / DIARY / NOVELS / TEIKOKU / G_NOVELS / BBS / LINKS
友情警報発令中
[中編2]


 城門前に二人の男。国王と魔法使いの大締め――とはシャルの談だけど――が語り合っている。
 いや、語り合っている、というのはおかしいか。何しろ、二人は少し離れたこの俺のいるところまで聞こえてくる程の声で話し合っているんだから。
「返せ!」
 そう怒鳴ったのは、魔法使いの大締めの方だった。厳しい表情で、目の前にいる国王を睨み付けている。しかし、国王の方は平然とした体で、魔法使いの大締めを見やった。
「返すって何を?」
「分かっているんだろ!シャルズちゃんだ!俺の可愛い可愛い息子だ!」
 ……あんた、自分の息子をちゃん付けかい。
 思わず心の中で突っ込んで、それでも、俺は二人の会話から耳をそらしはしなかった。いや、意外と興味深いし。
「ああ、シャル君か。うんうん、私の可愛い義理の息子だな」
「貴様〜!」
 すっと伸ばされた手を、誰かが慌てて止める。
「父さん!こんな所で魔法は使わないで下さい!」
 父さんと呼んだという事は、あれはシャルの兄ちゃんって事か。にしても、似ていない兄弟だなぁ。
 確かに二人とも、整った顔立ちをしているのは認める。でも、シャルはどちらかというと、ちゃん付けが似合う顔立ちで、あの兄ちゃんの方はどう頑張ってみても、ちゃん付けは似合わない。
 どっちにしても、美形一家ってとこは間違いがない。あの父親も、それなりに見れる顔立ちだし。
「シャル、もしかしなくても母親似?」
「らしいよ。それも半端じゃなく似ているらしい」
 らしいって……
「もしかして……シャルの母さんって、もう亡くなってる?」
 まずい事を訊いたかもって、シャルを見ると、シャルは事も無げに頷いて見せた。だからどうした、と言わんばかりだ。
 普通、そういうのってもう少し影がないか?
「返せっっ!」
 と、城門の方が騒がしくなった。……よくわからないけど、どうやら、シャルの親父さんが国王を殴ったらしい。何故か、魔法を使おうとした時には慌てて止めたシャルの兄ちゃんも、今回は止めなかったらしい。
 それどころか、にっこりと微笑んで国王を見ている。
「うむ、あついパンチだ!」
 突然、国王が声をあげた。殴られた左ほほを押さえて、くつくつと笑っている。
 このおっさん、怪しい。
「シャルズちゃんを、返せ」
「シャル君を返せとは言うが……いいじゃないか、私と君の厚い友情の証だろ?」
「貴様との厚い友情などいらんわ!しかも、証ってなんだ、証って!シャルズちゃんは、俺と亡き妻の愛情の証だ!」
 ……愛情の証って言ってしまえるこのおっさんも怪しいよな。
 俺は、内心ため息をつきながら、二人の会話を聞いていた。
「愛情が友情に勝るとでも?」
「ったりめぇだろうが!」
 大声で、シャルの親父さんが怒鳴った。その声のあまりの大きさに、俺は眉間に皺を寄せた。実家の親父の声に匹敵する。
「……愛は友情に勝るらしいよ、エイジュ」
 ふと、横でシャルが呟いた。
 え、と俺はシャルを見る。シャルの言っている意味が、いまいちよくわからなかった。
「だから、友情」
 友情は愛情に勝る!と意気込んできたんだけど……それは果たして?
 少なくとも、シャルにとっては、この親父さんたちの会話の中の「友情」の方が真実なのかもしれない。とすれば、直ぐに親友になるってのは無理なのだろうか。
「俺、ちょっくらあいつらをたしなめてくるわ」
 このままだと、本当に喧嘩に発展しかねないし。キールが呟いて、ひらひらと手を振って城門へと向かった。俺は呆然と、キールを見送る。
 と、シャルが興味を失ったように、キールとは逆の方向へ向けて歩き始めた。
「ちょっ、シャル?」
 俺の声に社るは振り返り、くすりと笑う。
「実は、僕、喧嘩売られてんのよ」
 そして、紡がれた言葉は俺の予想の範疇を超えていて、俺は戸惑いながらシャルに目を向けた。
「三ヶ月ほど前からね、ちょっと。だから、ちと、行って来るわ」
 まさか、そんなシャルを放っておけるはずがない。すたすたと、俺にはかまわずにシャルが歩いていってしまうので、俺は自然、シャルをあわてて追っかける形になった。何処へ行くのか、ここいらの地理にも疎い俺には到底分からなかったので、ただ黙って追いかけるしかなかったのだ。
「何処、行くんだよ」
 シャルはちらりと俺を見て、黙って肩をすくめる。
「おいっ」
「付いてこなくてもいいんだよ、エイジュ」
「そういうわけにもいかない」
 何故か、なんて分からない。でも、とにかく、俺はシャルの横にいたいと思ったのだ。
 シャルは、とうとう諦めたらしく、俺を振り切るような真似はしなかった。



/ /

「Calling the Storm」目次へ

TOP / POLICY / SPECIAL / DIARY / NOVELS / TEIKOKU / G_NOVELS / BBS / LINKS