The Perfect Excuse
[おまけ]
「シャルズ様、私に好意を持ってるそぶりだったよね?」
私室の中で、アルデは魚のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて、小さく呟いた。
アルデの持つ魚のぬいぐるみは、騎士団副団長キャニオンが実家に里帰りした際、お土産として購入してきたものだ。しかし、それはあまりにもリアルすぎて、多くの人々の手をわたり、アルデのもとへやってきたといういわく付きのものである。とはいえ、アルデは意外と気に入っていたりするのだが。
「……ねぇ、シャルもそう思うよね?」
アルデは魚のぬいぐるみ「シャル」の瞳をつんとつついて、ごろりとベッドに横になった。白い天井が目に飛び込んでくる。
「絶対、好意あるっぽい言葉だったよね?」
ぎゅーっと「シャル」を抱きしめると、つるつるとした表面の冷たさが、アルデのほてりを収めてくれた。
「シャル」は、つるつるとした表面をしているからか、年中冷たいのだ。本来、ぬいぐるみにあるような温かみというものは存在しない。夏場は重宝するが、冬になると辛い。
「それとも……それとも、もしかして、私、自意識過剰なだけかなぁ」
ぽふぽふぽふぽふ。
アルデは天井を見上げながら、「シャル」の腹の部分を軽く殴りつけた。
「……嬉しいって思っちゃった……」
ただの思い過ごしかもしれないのに。
ただ、意識しすぎているだけかもしれないのに。
「本当だったら、嬉しいな」
・・・・・・・・
「キーさん……」
呆れたような声が背後から聞こえてきて、キールは右耳からイヤフォンをはずした。
「それ、何?」
青年――キャニオンが指したのは、キールが持っていた黒いイヤフォンだ。
キールはにやりと笑った。
「キャニオンの土産品に盗聴器を少々ね」
「キーさん、それは人としてしてはいけない行為じゃないか?」
キールは再びにやりと笑う。
「俺は人間を超えているからいいんだよ」
キールの言葉に納得したのか、呆れたのか、キャニオンは一つ息をついて頷いた。
「わかった。で、今、その盗聴器付きぬいぐるみは誰のとこ?」
「アルデ。お前の部下だろ?」
キャニオンはこくりと頷いた。
キャニオンの直接の部下というわけではないが、騎士団の副団長という立場から、騎士団の班長レベルまでの部下の顔ならば名前と一致させる事が出来る。
「あんまり、人から離れすぎないようにね。俺もそうそうフォローはしてられないからさ」
「おう、善処する」
善処じゃ駄目なんだよ。
キャニオンの呟きを、キールは無視をする形で、再びイヤフォンを手にした。
「キーさん」
「片付けるだけだ」
信用がないんだな、と呟くが、信用があるはずがない。
キャニオンは、キールの言動を黙って見詰めている。キールはそんなキャニオンに苦笑を向けた
「別に犯罪を犯しているわけじゃないぞ」
「限りなくそれに近いけれどね」
「いいじゃないか。――いろいろと面白い事も分かったしな」
その言葉に、キャニオンが訝しげにキールを見た。
キールは得意げに笑ってみせる。
「一応、報告。シャルズがアルデに恋しているのは一目瞭然。その上、アルデもシャルズにまんざらでもない様子だぞ」
「知らぬは本人ばかりだね」
キールの満面の笑みに、キャニオンは疲れたような声をあげた。