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魔法使い前線接近中
[後編]


 つまりね、と話し始めたのはメラフィだった。
「私の本当の名前はフェツ・フェルン・メラフィ・アーディルっていうのよ」
 確か、四つの名前を持てるのは特例はるものの、基本的には王族のみのはずだ。それ以前に、国名であるアーディルという言葉が名前に入っている以上、どうやらメラフィは確かに王族の人間らしい。
「ちょっと待て……フェツってこの国の王子の名前だろ?」
「対外的にはね」
 メラフィはにっこりと微笑む。何の邪気もない素直な笑み。兄さんの天使の微笑みと違って、本当に邪気ってものがないんだから、僕は何も言えなくなる。
 大人しくメラフィが先を続けるのを待っていると、キールが僕の頭の上に右手を置いてきた。
 ……背の高さを見せ付けんなよ。
「怒んな、怒んな」
 というか、怒らせるような事をしているあんたが悪いんじゃないのか?
 心の中ではそう思ったけど、僕は結局口には出せなかった。かわりに、メラフィがキールの腕を叩き落としたからだ。
「キール、今、私が話しをしているの」
「だったら、すっぱりと言ってやれよ。俺様が見たとこじゃ、こいつ、そんなに気が長くないぞ」
 会って何分もたってないのに性格を読まれている。
 その事実に憮然とキールを見上げると、キールは明後日の方向を向いて、くつくつと笑い始めた。
 それを横目に、僕は再びメラフィに目線を戻す。メラフィは言葉をさがすように、少しだけ視線を彷徨わせた。
「えーっと……フェルンってシャルちゃんのミドルネームじゃない?」
 確かに僕の名前はシャルズ・フェルン・コールストームだ。こくりと頷くと、でしょ、とメラフィが僕の瞳を覗き込んできた。
「つまり、シャルちゃんがこの国の国王様になるのかなぁ」
「はぁ?」
 気の抜けた返事しか出来なかった。
 突然、この国の王になるの、と言われて理解しろっていうのが間違っている。大体、僕は今まで、普通に生きてきたわけだし、大体、王宮ってのも初めてなのだから。
「私の母様って病弱で、子供は一人が限度だって言われてたのよ。でも、生まれたのは女の子。だから、父様と母様は考えた」
 何か嫌な予感がする。
「だったら、私を王子として育てようって。で、シャルちゃんって、私の婚約者なのよね。そうすれば、魔法使いの血も王家の中に入って、いいことずくめでしょ?」
「んな事、きいてないぞ、僕は!」
「言ってないもの」
 メラフィはさらりと返してきた。
 よくよく聞いて見ると、僕はメラフィの婚約者になる事が生まれたときから決まっていたらしい。あくまでも、メラフィの父、つまり現在の国王の頭の中ではだけど。
 よくよく聞いてみれば、どうやら、僕にフェルンの名を与えたのも国王のようだ。
「それって、僕の父さんは知ってるの?」
「だから……私の父様と母様しか知らないんだって。言ってないもの」
 それって、無茶苦茶一方的じゃないか?果たして、このまま行って、父さんが納得するかどうか……。僕も、流されたくなんてないんだけどさ。
「シャルちゃんは父様のお気に入りだから、私が会いたいなって言ったら、王宮に呼んでやるって」
「……僕、国王陛下となんて会ったことないけど?」
 驚いて声をあげると、しばらく黙っていたキールが声をたてて笑い始めた。メラフィも一緒になって笑っている。
 何だよ、二人して……。
「ま、いずれ分かるって事」
 キールの言葉に、納得はいかなかったけど、僕はそれ以上、その事に突っ込むことはしなかった。
 どうせ、これ以上は言ってくれなさそうだし。
「ところで、何で僕、兄さん達経由で王宮に呼ばれたの?」
「あれは、俺が頼んだんだよ。とにかく弟を王宮に呼び出せ。さもなくば、あの話をばらしてやるってな」
 兄さんを脅迫したのか。それで従う兄さんも兄さんだよな。なんせ、キールの話をまとめると、兄さんはどんな理由で僕が呼ばれているのか知らないまま、僕をここへやったって事じゃないか。
「兄さんの弱みって?」
「さあ。……でも、ああいう奴なら、弱み一つは持ってるだろ?ましてや、俺は王宮魔道士なわけだし……俺が知っていても、不思議ではないと思ったんじゃないのか?」
 ……こいつ、こえぇ。
 呆然とキールを見つめていると、キールはふふんと得意げに笑みをこぼした。
「それに、実際、もしかしたら弱みを握っているかもな。……お前のもな」
「なっ……」
 悲しい事に言葉が続かない。それ以上、何も言えなくて口を閉じると、メラフィが焦れたように声をあげた。
「で、どうなの?」
 どうって――どう答えればいいんだろう。躊躇していると、メラフィが僕の両腕をぎゅっと握り締めてきた。
「私の事、嫌い?」
「嫌いじゃないけど……」
 だったら問題ないじゃない、とメラフィの瞳が言っている。
 僕は慌てて、正当な理由を考え出した。
「駄目だよ。ほら、僕らまだ若すぎるし。父さんも大切な次男坊を手放しはしないよ」
 父さんが僕を手放さないだろうって事は半分本気。父さんは魔法使い一家ってのをとても大切に思っているから、僕が魔法使い以外のものになるなんて考えてもいない人だ。
「ああ、それなら問題ない」
 キールがにたりと笑う。
「お前の親父さんには、王宮魔道士の俺がお前を指導する事になったって言っているから」
「……はい?」
「泣いて喜んでいたぞ。このまま、王宮で暮らす事も言ってある。って事で」
 何でいつも僕の気持ちを無視して物事が進んでいくんだろう。父さんの「魔法使い絶対主義」が今回ばかりは仇になったようだ。
 僕の気持ちを知ってか知らずか――いや、もちろん前者だろうけど――キールは僕の肩を軽くたたいた。
「お前が諦めてメラフィと結婚するまでは、まだまだ時間があるわけだ。なんせ、お前達はまだ若いからな」
 魔法使いにはなりたくないって言ったよ。確かに、そう思ったけど……だからって、国王になりたかったわけでもなく……。
「とりあえず、国王陛下にお会いしろ。魔法の勉強も、本当にしてやるから」
 そういうキールの雰囲気は、どう見ても親切心からはかけ離れているように思えて。
 やっぱり、魔法使いにはろくな人間なんていないんだ……。
 僕はずるずるとキールに腕を引かれながら、最近とみに多くなったため息を吐き出した。
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