TOP / POLICY / SPECIAL / DIARY / NOVELS / TEIKOKU / G_NOVELS / BBS / LINKS
魔法使い前線接近中
[中編]


 ……とまあ、そういうやり取りがあったのは数時間前。僕は、今、何故か王城にいる。
 いくら、有名魔法使い一家の次男坊だからって、王城なんて簡単に忍び込めるはずがない。王国の柱である王城の警備が、そんなに緩くちゃ大変だ。
 なのに、兄さんに言われたとおり、門番に自分の名前を告げるだけで、あっさりと中に通されてしまった。逆に、何故か歓迎モードだ。
 こんなに王城の警備が緩くちゃ駄目だろ、普通。
 そもそも、なんで通されたの?
 理解が出来ない事ばっかりで、僕は深いため息をついた。
 まあ、深く考えていても仕方がない。この際、初めて見る王城内を観光気分で楽しんでやろう。なんでか入れちゃった王城内を気ままに見て歩く事なんて、この先出来ないんだから。
 覚悟を決めて顔を上げると、背後からくつくつと笑う声が聞こえてきた。
「何、一人でぐるぐるしてんだか」
 初めて見る男の人だが、それにしても、なかなかの美青年だ。兄さんといい勝負かもしれない。
「……見てた?」
「おうっ。そりゃあもうばっちし」
 男はけたけたと笑う。僕はなんとなく恥ずかしくなって、思わず俯いた。
「いつから?」
「お前が王城に入ってきてから、ずっと」
 だったら、とっとと声をかけろよ。
 僕は俯いたまま、密かに怒っていた。……いや、怒っていたというよりも、自分の状況を愁いていたというべきか。
 まったく、どうして僕の周りにはちょっとどころではない、おかしな人間ばかりが集まってくるんだろう。
「類は共を呼ぶ、だろ」
 どうやら、声に出してしまっていたらしい。僕の小さな呟きに、男は軽い調子で返してきた。
「な、シャルズ君」
 ……えっと……どうして、この人、僕の名前知っているんだろう。驚いて顔を上げた僕を見て、男はにやりと口の端を歪めた。
 その、無茶苦茶裏があります、といいたげな笑みに余計にむかつきを覚える。
 とはいえ、この男の人が何者かわからない以上、余計な口出しは控えておくにこしたことはない。そういう人達の中で育った僕は、そういうのには我慢強い方なのだ。
「ああ、悪い悪い、俺様の紹介がまだだったな。うちの姫さんにお前の話ばっかきいていたから、すっかり昔馴染みの気分になってたよ」
 言って、男は親指で自分自身を指しながら、にかりと笑った。いや、ほんとうに、にかりという表現が一番正しい笑みを浮かべたのだ。
「俺様は世界最強の王宮魔道士、キール・スプリング・ファルビアン様だ。よろしくな、シャルズ」
 ずいっと差し出された右手に、反射的に自分の右手を差し出して、僕は男――キールをまじまじと見つめた。
 年齢的には兄さんと同い年位だろう。その年齢で、王宮魔道士って事は、かなりの魔法使いに違いない。いや、それよりも――
「姫さんって?」
 うちの国には、お姫様と呼ばれる立場の人間はいないはずだ。顔は見たことがないけど、国王に子供は一人……王子だったはず。それとも、それは僕の覚え違いだったのだろうか。
 ……いや、それ以前に、その「お姫さん」がなんで僕の事知っているんだろう。
 自分で言うのも何だけど、僕は人付き合いがかなり悪い。
 魔法使いになるつもりはないので、魔法使いの友達なんて作りたくもないし、僕が魔法使い一家の次男と知って近づいてくる奴らなんて要らない。
 自分で世界を狭めてしまっている事、本当は気付いてはいるんだけど、そういう奴等とうわべだけの付き合いをするつもりすら、僕にはないのだ。
「うちの姫さんって言ったら……」
 キールはすっと目を細めて、俺の後方を指差した。
「あれ」
「シャルちゃ〜んっ!」
 キールの声とかぶさるように響いた声。僕は、それに聞き覚えがあった。
 僕の唯一の友達と言ってもいい女の子。なんで、彼女がここにいるんだろう……。
「メラフィ?」
「最近、シャルちゃんがあのお店に来てくれないから、わがまま言っちゃった」
 あのお店っていうのは……本当は未成年は行ってはいけない店の事だ。といっても、決して妖しい店ってわけではなくて、ただの酒場の事なんだけれど。
 その店のマスターは数倍に薄めた果実酒しか出してくれない。いろいろと忙しいらしく、たまにしかいないんだけど、僕の事を昔から可愛がってくれて、とてもいい人だ。
 ある時、そこでメラフィと僕は出会った。
「メラフィのわがまま?」
 僕は思わず声に出してしまって、慌ててかぶりを振った。いや、そのわがままの内容も、僕としては非常に気になるところではあるのだけど、それ以上に気になる事があったのだ。
「どうして、ここにメラフィがいるわけ?」
 僕の問いに、メラフィはきょとんとした瞳を向けてきて、すぐに破顔した。
「だって、ここ、私ん家」
 はい?なんていいました?
 メラフィは、事も無げに言ってみせたけど、僕はそれが意味する事がわからなくて――というよりも、理解したくなくて――説明を求めて、キールに目を向けた。
 そしたら、キールの奴、説明するどころか、にたりと笑いやがった。
/ /
TOP / POLICY / SPECIAL / DIARY / NOVELS / TEIKOKU / G_NOVELS / BBS / LINKS