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好き好き、北村薫

実は私は、北村薫という作家が大変好きです。
好きな作家について集中的に取り上げるのもいいじゃないか、と、いうことで、第一段。
タイトルは、その昔の石森作品「すきすき魔女先生」から取ってみました。
(って、いまどきこんな番組誰も知らねーやね)

朝霧
北村薫 東京創元社
COVER
STORY
 円紫師匠シリーズ第5作。そして現時点での最新作。
 初登場の時には十代だった主人公も、大学を卒業し『みさき書房』に就職することになった。 社会人となった私は、さらに色々な人と知り合っていく。
 今回も円紫師匠は主人公を見守るように、人の心で出来た謎を解いていきます。
COMENT
 ストーリィ紹介が本当にだらしないですね。でも、この本に関しては、あまり細かく書いて しまうと作品の香味が失われるような気がしますので、まあ許してください。
 今回の私が付ける「白眉」といえば、推理ではなく、セリフでした。出版社の先輩の
「損するのが分かってても、出さなきゃいけない本て多いでしょう。(中略) 本屋が稼ぐっていうのは、売れない本のため。ね、社員のっためじゃないの。一億入ったら、 《ああ、これだけ損が出来る》と思うのが本屋さんなの」
と、いうセリフ。
 こういう本屋さんが多ければ、私はいつまでも本を読んでいけそうな気がするなあ。
 作品の内容ついて少し語ると、どうしてこのシリーズの愛はいつも苦いのか、と、思う。 主人公『私』自身の愛はまだ語られていないけど、それが苦くないように祈ってやみません。
(99.07.22)

夜の蝉
北村薫 東京創元社
COVER
STORY
 円紫師匠シリーズ第2作。
 大学1年の時に第2外国語が一緒で知り合った、正ちゃんと江美ちゃんも引き続き登場。 私は、あわい恋心を覚えたり、初々しい愛を間近に見たり。
 今回も円紫師匠は主人公を見守るように、人の心で出来た謎を解いていきます。
COMENT
 文庫の裏表紙に「第四十四回日本推理作家教会賞を受賞し、覆面作家だった著者が素顔を 公開するきっかけとなった」って書いてありました。ちっとも知らなかった(笑)。
 今回も殺人事件はありません。
 そこにある謎は、ほんとうに些細といえば些細に見えます。
 でも。今回、思ったのは、「何よりも謎で恐ろしいのは人の心」。世の中で一番のミステリですね。
 私は前に読んだこの作品をこのレビューのために再読して、前はあんなに醜い、ずるい、と思った 場所が、今回はそれほどでもないのに気がつきました。大学生の『私』は、やっぱり「コワイ」と 思ったようです。
 人間の欲望もいろんな切り口で見ることが出来ます。
(99.07.22)

空飛ぶ馬
北村薫 東京創元社
COVER
STORY
 私は、本読みで寄席にも通う、ちょっと変わり者かもしれない女子大生。 大学の雑誌の『卒業生と語る』企画で前からファンだった落語家、春桜亭円紫師匠と知り合うこととなる。
 この円紫師匠、凡人には見えないようなところが見えてしまう人で、ふとした謎をするりと解いてしまう。
 『鮎川哲也と十三の謎』の一冊として刊行された、円紫師匠シリーズ第1作。

COMENT
 はじめてこの連作長編を読んだとき、ひさしぶりに面白い推理小説を読んだ気になった。 なにしろ殺人事件のひとつも起こらないのに、面白くてするする読んでしまうから。
 ところで私は落語が好きである。大学の時、教室で古谷三敏の『寄席芸人伝』を読んでいて、
「あなたもその本が好きなの?」
と、声をかけられたのがキッカケで友達になったやつがいるくらい。
 確かに、お嬢さま学校で『寄席芸人伝』を読む女子大生って、かなりのマイノリティだったろう。 主人公の「私」だって、寄席に1人で通ってしまうというあたり、充分マイノリティだろう。その上、 「神様、私は今日も本を読むことが出来ました」
と、つぶやいて眠りにつく女子大生だよ。
 ・・・とても親近感を覚えるではないか(笑)。
 ともあれ、最近こんなしっとりした推理小説にはお目にかかってない。それこそ出会いを神様に感謝したくなるシリーズだったと思う。
(99.06.07)

覆面作家の愛の歌
北村薫 角川書店
COVER
STORY
覆面作家の正体は、新妻千秋。超お嬢さま。
ところが、この新人推理小説家、とってもすごい特技があったんです。それは、現実にも謎を解いてしまうこと。それと・・・。
天国的な美貌のお嬢様にハラハラする編集・岡部良介や、ちょっと面白い登場人物が毎回登場の連作推理短編。

COMENT
 覆面作家シリーズの第2作目。
 なぜ、2作目を取り上げるかというと、こっちを最近読んだからです(笑)。店主の都合だけですね。ごめんなさい。
 私は北村薫さんという覆面作家の作品に出会って、たちまち、その静かな作風のファンになってしまいました。当初、性別もわからない覆面作家として活躍されていて、その瑞々しい、だけどちょっとだけ古風な描写から、青春時代を過ぎてからだいぶ経つ女性かと思っていたのですが、ハズレました(笑)。
 私が、まだその正体を知る前に読んだのがコレ。
 なにしろ、主人公が覆面作家の超お嬢さま、ですもの。読み手としたら、なんとなく実際の覆面作家・北村薫にイメージを重ねてしまいますよね?(まあ、良く考えてみたら、誰もがそう想像するの予想がつくし。そんな主人公を「天国的な美貌」と設定するのは、女性だとしたらかなりな人だわね・・・)
 そんな、好奇心も手伝うような設定ですが、推理は本物です。
 どうぞ北村薫の世界をお楽しみ下さい。
(99.05.22)

覆面作家の夢の家
北村薫 角川書店
COVER
STORY
 覆面作家の千秋お嬢さま。
 無事に二冊目の本も出版される運びとなりました。
 担当編集者・岡部良介は、千秋さんのことを憎からず思っているんですが、なかなか そういった方面の進展もありません。外出も打ち合わせだったり、取材だったり、 いっこうにデートにはならないんだけれど・・・。
 覆面作家シリーズの第3作目。

COMENT
 第3作目では、人物関係に重大な変化が!  良介の兄、優介が2作目で出会った恋人と結婚したのです。ううむむ。はやい。 仕事が速いぞ、優介。さすが、良より優の方が優れていると、日頃から豪語するだけのことはある。
 今回の本では、さすが千秋さんと良介のまわりで話が回るだけあって、推理作家の先生も色々 登場してます。短編の割に、話の筋には特に関係なくでてくる人がかなり多い作品なのかも。 それがまた、話に厚みを与えているんですけどね。
 実際、推理連作とはいえ、トリックだけの話でないのが北村薫という作家のいいところ。
 ほんとうは、謎は人の心にあるようです。
 そんな、二人のまわりで、ゆっくりと流れる、季節の美しさもお楽しみ下さい。
(99.05.26)

■北村薫著作リスト
タイトル出版社発行
円紫師匠シリーズ 空飛ぶ馬東京創元社1989.03
夜の蝉東京創元社1990
秋の花東京創元社1991
六の宮の姫君東京創元社1992
朝霧東京創元社1998.04
覆面作家シリーズ 覆面作家は二人いる角川書店1991
覆面作家の愛の歌角川書店 1995.05
覆面作家の夢の家角川書店1997.01
時間シリーズ スキップ新潮社1995
タ−ン新潮社1997
  冬のオペラ中央公論新社1993
水に眠る文藝春秋1994
ミステリは万華鏡集英社1999
謎物語〜あるいは物語の謎〜中央公論新社1996

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