店主の読書日記/鉄仮面のひみつ

 レオ様がかぶり、スケバン刑事もかぶってしまうほど有名な鉄仮面。
 日本人にとってはとってもポピュラーな鉄仮面だが、オリジナルは17世紀のフランスに実在する人物だった……。
 「鉄仮面は誰だったのか」に関する簡単な考察をしてみました。



 ただし、ここでひとつ問題がありまして、オリジナルがフランス人だけあって、関係書籍はフランスの人が書いてます。きちんとした考察を書くためには、本当は「原本にあたる」が基本。参考文献に「○○氏のAという文献によると」と書いてあったら、実際にAに戻ってみるのが調査の原則です。引用した人が正しく引用をしているという保障は、どこにもないからです。
 さらにAという本がBの史料を元に論拠していたら、そのBの史料も確認する。
 正に「調査は調査は足じゃのう、山さん」(って、露口茂がいってましたね、とパタリロに出てきた。今、いったい何人がこのギャグで笑えるのだろう……)なわけです。
 ここで問題なのは、文献の多くが元はフランス語なこと。
 フランス語なんて、ワタクシまったくわかりません。ということは、原本にあたれない。論文としては意味なし、やまなし、落ちなし……って、まあ、そんなことはどうでもいいんですが。
 まあ、ここを読みにくる人でそんなに厳密な調査を求める人はいないだろーという予想の元に、私のいいかげんな考察をスタートさせていただきます。

 まず、実在した鉄仮面について。
ルイ14世  実は、彼、「鉄仮面」ではありません。
 なぜかというと、鉄仮面が鉄仮面であるアイデンテティの基本、「鉄」の仮面が実は鉄製じゃなかったのです。史料によると布マスク。なんだか脳裏に浮かぶのは不出来なKKK団みたい。
 でも、この時代、仮面をつけてる囚人は別に珍しくなかったらしいのですね。
 この時代は世界史の「絶対王制」で習った、太陽王・ルイ14世(1643‐1715)がフランスを統治していました。
 王制というのは王様が気に入れば出世するし、そうでないと失脚したりと、実力以外のところでの制約が多い時代です。
 財務大臣だって、王様のお気に召さず投獄されて、そのままずーっと塀の中の生活を続けた挙句に死亡、と、浮き沈みの激しい時代でした。
 言ってみれば高貴な囚人がウロウロしていた時代。そのお方達は自分の顔を隠すため、マスクを着用していたのです。
voltaire  どうして布→鉄と、固さ1000%アップ、強さ100%と増量になったかというと、フランスの思想家・ヴォルテール(1694-1778) が悪い。その著書『ルイ十四世の時代』で、謎の囚人がかぶっていたのは「鉄」の仮面だったと書いたのです。(顔が痒くなったらどうするんだろうなー、とか、吐き気をもよおした時は悲惨だなー、とか、考えなかったのでしょうか)
dumas  A・デュマ(Alexandre Dumas 1802-1870)も、『三銃士』Les trois mousquetaires の第3部(『ラ・ブラジュロンヌ子爵』Le vicomte de Bragelonne )で「鉄仮面」を登場させています。
 やっぱりアイアン・マスクには、作家の心をくすぐるロマンがあるものと見えます。

 なお、日本はとっても「鉄仮面」がポピュラーな国でございまして、その功績は黒岩涙香(1862-1920)先生にあります。
 黒岩涙香。
 いい名前です。涙の香り。何がモトネタなのかは知りませんが(本名:周六)、ロマンチックになりすぎな名前を、黒岩というがっしりした苗字が引き締めています。ミステリ作家にぴったりです。
 涙香先生、ミステリ小説の親ともいえる方でして、多くの海外作品を日本に紹介しています。私の大好きな海外ミステリも、もしかして涙香先生がいなかったら読めない可能性だってあるのです。ありがたや、ありがたや。
黒岩涙香  涙香先生のすごいところは、翻訳でなくて「翻案」だったところ。当時、外国文学になじみのない大衆に新聞連載の小説として紹介していきました。鉄仮面の物語も、『鉄仮面』+『モンテクリスト伯』のデュマつながりでアレンジした模様です。(リライトしたものしか押さえてないので、詳しくは不明)
 主人公は日本人となり、例えばモーリス・(デ・ザ)アルモイスが有藻守雄。
 そのモーリスを仲間と見せかけて裏切るスパイ・フィリップが立夫。(りっぷ……じゃないだろうなあ、まさか) なんだか同人誌のパロディみたいですね。でも、笑ってはいけません。先駆者には先駆者の苦労があるのです。
 その甲斐あって、涙香先生の新聞小説は爆発的な人気となりました。この涙香の小説を下敷きに、江戸川乱歩がまた小説を書いたりして、日本では「鉄仮面」が大変ポピュラーとなったのでした。

 おや。
 全然、本題に入れませんでした(笑)。
 と、いうことで、「鉄仮面」は本当は「布仮面」で、布で顔を隠した囚人は当時さして珍しくなかったというお話でした。
 続きは、こちらで。

参考HP: 夢現半球「黒岩涙香を読む


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