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好き好き、西澤保彦


幻惑密室
西澤保彦 講談社
COVER
STORY
 健康器具会社の社長が、自宅に社員を集めて新年会の最中に殺された。
 現場にいた4人の社員は、不思議なちからで閉じ込められ、どうしても外に出られない状態になっていたという。しかも、家の中は、通常の何倍もの速さで時が流れていたというのだが・・・。
 神麻嗣子シリーズ第1弾。
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 この作品で登場するのが、ハイヒップという超能力。
 説明はめんどうくさいので(おい)作品を読んでいただくとして、
「こんな超能力もあったのか〜」
と、感心してしまいました。(いつもながら、推理小説のコメントとは思えない文章だなあ・・・)
 密室というのは推理小説で非常に好まれる素材です。本当は密室のための密室なんてあるはずがないのに(例えば、自殺に見せかけるため、とか理由があるはず)、作者・読者の嗜好のせいで今日も密室作品が乱発されているわけです。
 ・・・と、まあ、ミステリファン向けの能書きは置いといて。
 この作品を読んで、西澤保彦という人はつくづく、人のつまらないつぶやきを書くのが上手い人だなあと思いました。「つまらない」は面白くないじゃなくて、文学作品だと省みないような瑣末なことがらとでも申しましょうか。まあ、大雑把に言うと「ぼやき」ですね。
 特に、この売れないミステリ作家、保科匡緒のぼやきは天下一品でございます。
 ぜひともご賞味あれ。
(99.07.17)

ストレート・チェイサー
西澤保彦 祥伝社
COVER
STORY
 土曜日に<トムズ・キャビン>で知り合った二人の女性と話しているうちに、リンズィは トリプル交換殺人事件(スリーサム)を持ちかけられる。酔っ払っていたリンズィは、 素性がわからない気軽さもあいまって、上司のウエィン・タナカを殺人対象としてあげる。
 翌日、タナカ邸では他殺死体が発見された。リンズィの娘のエミリイがコレクション・ルーム と、呼ぶ部屋で。その部屋は、内側からドアチェーンと閂がかかっていて・・・。
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 これも西澤作品特有の超常ミステリに入れていい作品だと思います。
 しかし、これに限ってはネタバレになるので、どこらへんが超常が言えません。むむむ。
 ミステリのレビューって、やっぱり礼儀としてネタバレは絶対避けなきゃというのが 心底染みついているので(私はミステリ読書暦だけは長い)、こういう時つらいなあ。
 とりあえず、いえること。この作品は、最後の最後にまで仕掛けがある!ブラヴォ。
 もう、残さないで最後の一滴まで味わってね、って感じ♪
 ところで、私は以前『アップル』というアップルコンピューター社を描いたノンフィクションを 読んでいたのですが、その本とこの作品で、完璧に覚えた英単語があります。
 「ナード」(おたく)。
 ふっふっふ。ミステリで覚えた単語がまたひとつ。私は英単語のボキャブラリーは情けないもの なんですが、「マーダー」とか「ホミカイド」とか「クライム」なんていうのはスラスラ出ます。
 ま、あんまり役に立ったためしがないけどさ(笑)。
(99.07.14)

黄金色の祈り
西澤保彦 文藝春秋
COVER
STORY
 移転した中学校の旧校舎。解体がはじまったその屋根裏部屋から、白骨死体が発見された。 遺体の傍らには、ケースに入ったアルト・サキソフォン。4年前に盗まれたもの。
 吹奏楽部に所属する「僕」の中学時代から語られる物語。中学、高校と同じ女生徒から アルト・サキソフォンは盗まれた。屋根裏から発見された死体は殺されたものなのだろうか。
 それとも・・・。
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 ここでご紹介する中では初めての普通のミステリ。
(超常現象が出てこないと言う点でいえば(笑))
 私は、アイドル時代から原田知世のアルバムが割と好きで、今でも記憶にあるのが 『つぎはぎだらけの青春時代』という曲。その歌詞で、
「若さがトゲのように刺さってる」
というところがあります。初めて聞いたとき、バリバリの10代だったくせに、これはスゴイ 歌詞だと思いました。
 「若い」と「苦い」という字は似ている気がします。
 自分の若い(というか幼い)頃を考えるのは、ほとんど苦痛でさえあるときがありますもの。
誰だって、若くて溌剌とした曇りのない学生時代を語りたいですが、実際、そこにあるのは 情けないほど未熟でみっともなく自意識の強い自分なのです。
 この作品の主人公の語りは、作品を通していつも苦い。それは、私自身の苦さ。
 それでも救いはあるんじゃないか、と、そう思うラストでした。
(99.07.14)

念力密室!
西澤保彦 講談社
COVER
STORY
 俺の名は保科匡緒(ほしなまさお)。永遠初版作家の異名を取るミステリ作家だ。
 ある日、着物に袴という大正ロマネスクのようなカッコをした、中学生くらいに見える美少女が 家に来た。彼女は『超能力者問題秘密対策委員会出張相談員・<見習>神麻嗣子(かんおみつぎこ)』と名乗り、超能力を悪用したので"補導"するという。
 ちょっと、待ってくれ。それでなくても極上ボディの美人警部、能解匡緒(のけまさお)に昨日、 事情聴取されたばっかりなのに。
 更にいえば、俺の部屋で殺人事件が起きたばっかりで、しかも現場は密室で・・・。
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 神麻嗣子シリーズ・第3弾。
 おおっと、今回これから紹介するのは、なにも私がこれを一番最近読んだばかりだからじゃありません。(一部嘘)。
 シリーズの一冊目を読んだ時は、「あれ?」と思いました。これが1作目ではないようだわ。 その1作目こそ、この連作長編に収められている最初の作品、『念力密室』になります。 ようやっと、嗣子ちゃんのデビュー作を読めて嬉しい限り♪
 しかし、西澤保彦の連作長編を読んだのははじめてですが、こりゃまたスゴイ。
 これは、毎回「密室」をテーマにした短編集なのです。しかも、超能力で作られた密室
 ・・・スゴイでしょ?
 でも、読む気をなくしちゃいけません。何度も言うようですが、これはちゃあんとしたミステリ なのですから。そして、読んでみれば、「まったく」と納得してもらえることを私は疑いません。
(99.06.26)

ナイフが町に降ってくる
西澤保彦 祥伝社
COVER
STORY
 女子高生・岡田真奈は、突然自分以外のすべての人間の時間が止まってしまったことに気がついた。時間牢と名づけたその中では、すべての活動がぴったり止まっているのだ。
 それだけでも大事なのに、目前に倒れている男の腹からは、にょっきりナイフが突き出している。 真奈以外には動くものは末統一郎と名乗る男だけ。彼は、謎を持つと自分でもままならずに時間を止めてしまう癖があるというのだが・・・。
COMENT
 なんといっても、主人公・真奈のパワフルさがスゴイです。
 確かに、この年頃の女の子ってとんでもなくパワフルで独善的でおセンチ。 作者は男性なのにどうしてこうもまあ、女子高生の書き方が上手いのでしょう。 (略歴に高校教員の経験もありとありましたが)
 なにしろ時間が止まった世界で推理を繰り広げていくという作品なので (今、スラっと書いてしまいましたが、西澤作品の例に漏れず、スゴイ設定ですね・・・)、 出てくる推理もとんでもないものが多い。その強引さを無理矢理納得させる、 真奈のキャラクターもとんでもない(笑)。
 しかし、どうしたら、ずるっこにならないで説明できるんだよう、といつも思うのに、 今回も納得させられて、くやしいけど嬉しいです。
 さすがあちゃらかパスラー作家((C)文芸評論家・西上心太氏)・SF新本格の雄 ((C)同・香山二三太氏)でございますね♪
(99.06.24)

■西澤保彦 著作リスト
タイトル出版社発行
超常推理シリーズ 解体諸因講談社1995.01
完全無欠の名探偵 講談社1995.06
七回死んだ男講談社1995.10
殺意の集う夜 講談社1996
人格転移の殺人講談社1996
瞬間移動死体講談社1997.04
複製症候群講談社1997
死者は黄泉が得る講談社1997
神麻嗣子の超能力事件簿 幻惑密室講談社1998.01
神麻嗣子の超能力事件簿 実況中死講談社1998.09
神麻嗣子の超能力事件簿 念力密室!講談社1999.01
ナイフが町に降ってくる祥伝社1998.11
ストレート・チェイサー祥伝社1998.04
通常推理小説 彼女が死んだ夜角川書店1996
麦酒(ばくしゅ)の家の冒険講談社1996
仔羊たちの聖夜(イヴ)角川書店1997
スコッチ・ゲーム角川書店1997
猟死の果て立風書房1998
黄金色の祈り文藝春秋1999.03

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