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かぼちゃの馬車の行方は
[その1:学院祭数日前、ファーレンハイト]


 プラチナは、全ての作業を止めて、敬愛なる自分の主ファーレンハイトに目を向けた。

 ファーレンハイトは、現在、アーディルの学院に単身留学中だ。とはいえ、暇さえあれば、プラチナに会いにジョジョスへ戻ってくるので、今まで、一週間と顔を見なかった事はない。
 今回も、学院祭の前一週間は諸準備が必要という事で、学院は休みに入る。勿論、ファーレンハイトは、その休みを見逃すはずもなく、嬉々としてジョジョスへ里帰り中、というわけだ。

 そして、戻ってきて早々、ファーレンハイトが口に出したことは――

「服、作って」
「服、ですか?」

 ファーレンハイトの服作りは、お抱えの有名服飾係が担当している。そのこともあって、プラチナは首を傾げた。

「学院で、仮装大会ってのがあるんだ」

 ファーレンハイトは、お気に入りの紅茶カップに自ら紅茶を注ぎながら説明をする。

「で、優勝したら、一週間休みがもらえるんだよな」
「つまり、その休みの為に――コ……コスプレがしたい、……と?」

 ファーレンハイトは紅茶を口に運んで、こくりと頷いた。

「コスプレっていうか、仮装だけど……。で、プラチナなら簡単に作れると思って」

 絶対的な信頼と、絶対的な期待を込めた瞳に、プラチナは苦笑を浮かべた。
 確かに、プラチナは器用だ。ファーレンハイトの服作り位、造作のない事である。

「それでは、どんな物がよろしいでしょうね……」

 頭の中で、様々な洋服を思い描いて、プラチナは小さく唸る。

「ウサギさんの格好など、可愛らしいかもしれませんね。――それよりも、猫さんの方がよろしいでしょうか」

 プラチナの頭の中では、様々なぬいぐるみの格好をしたファーレンハイトの姿が浮かんでいる。そのどれもこれもがファーレンハイトに似合うだろうと、本気で考えて、プラチナは思わず笑みをこぼした。

「プラチナ」
「はい?やはり、ウサギさんですか?ファーレンハイト様、白いウサギさん、お好きですからね」

 プラチナの言葉に、ファーレンハイトはぶんぶんとかぶりを振った。

「お嫌いでしたか?」
「好きだよ、ウサギ。でも、そういう事じゃなくって」

 ファーレンハイトは焦れたように声をあげた。その後、照れくさそうにはにかんだ笑みを乗せて、プラチナを見上げてくる。

「プラチナがいい」
「私、ですか?」
「うん。プラチナの格好がしたい」

 プラチナの頭の中から、ウサギやら猫やらの格好をしたファーレンハイトの姿が消えて、代わりに魔法使いの正装を着たファーレンハイトがにこやかに微笑んでいる姿が浮かんでくる。

「つまり、魔法使いの……という事ですか?」
「違う。プラチナの格好がしたいの。――ちゃんと、袖口には四本線入れてね」

 魔法使いの正装は、魔法使いであればどれも同じだ。唯一違うのは、その身分を示す袖口の線の数だけだろう。
 つまり、筆頭が四本、次席が三本、領主付きが二本で、その他が一本。線なしは、見習いの証。

「では、魔法使いの正装を取り寄せて、そこに四本線を入れますか?」
「駄目だ。それだと、魔法使いの格好になっちゃうだろ?オレはプラチナの格好がしたいの」

 普通の人ならば、ファーレンハイトのこだわりが理解できないだろう。しかし、プラチナはファーレンハイトとの付き合いが長い。ファーレンハイトがこだわる事に気が付いて、苦笑を浮かべた。

「分かりました。では、私の見習い時代の正装に手を入れましょう」

 途端、ファーレンハイトの顔が喜色に染まる。どうやら、プラチナの考えは正しかったようだ。

「それに線も入る?」
「ええ、勿論。魔法使いの正装は、基本的に形が同じですから。私に任せていただけますか?」
「うん。ファーレンハイトに任せてやる」

 プラチナは噴出したいのを堪えて、にっこりと微笑んだ。

「ありがとうございます。では、私が責任もってやらせていただきますね」



「それで、ファーレ殿下は満足してお休みになられてしまった、と……」

 ソニアは、プラチナのマントをしっかり握り締めたまま眠っているファーレンハイトに目を向けて、微笑んだ。

「それから、一つ、気になったんだけど……」

 そのまま、プラチナに目を向けて、ソニアはちょこんと首を傾げる。プラチナは、目線だけで、ソニアの言葉を促した。

「それって、プラチナの見習い時代の服じゃないの?」
「そうだ」

 現在は、筆頭魔法使いを務めるプラチナにも、当然、見習い時代はあった。ただ、ファーレンハイトが生まれてすぐに彼の教育係に付いたプラチナは、普通の魔法使いよりも幼い歳で見習いを卒業したのだが。

「それを大切にとってあるプラチナってどうかと思うんだけど……?」

 プラチナは、針を持ったまま、肩をすくめて見せた。

 実際は、大切にとっていたわけではない。新しい正装が支給された時に、見習い時代の正装を処分しようとしていたのをファーレンハイトが見つけて、捨てるな、との厳命を受けてしまっただけの事だ。
 基本的に、ファーレンハイトの命令には絶対服従のプラチナだ。その厳命を受け、大切に保管し続け、今日に至る。

「それをプラチナが着ていたのって、プラチナが12の頃じゃなかった?」

 そうだ。プラチナは頷いた。

「……ファーレンハイト様には言うなよ?」

 その事実を知れば、癇癪を起こしかねない。プラチナが釘を刺すと、ソニアはおかしそうに微笑んだ。

「言わないわよ。それを言って困るのは、貴方だもの」

 ようやく四本線を袖口に入れ終えたプラチナは、すばやく裁縫箱を片付けると、マントを掴んだまま熟睡中のファーレンハイトはそのままに、ソニアの腰を抱き寄せた。

「とりあえず、口封じ」
「遠慮なくいただいておくわ」

 プラチナに耳元でささやかれて、ソニアはくすぐったそうに笑った。






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