かぼちゃの馬車の行方は
[その3:学院祭当日、キャニオン+α]
学院祭は――というよりも、仮装大会は――今の所、順調に進んでいる。
俺は周りに目を向けて、ほっとため息をついた。
壇上では、天使の格好をした少女が自慢の歌声を披露している。彼女が今大会ではなく、前大会に出場していれば、優勝も夢ではなかったかもしれない。
それは、つまり、今年の優勝はどう転んでも不可能だ、という事なのだけれど……。彼女がぺこりとお辞儀をして、壇上から引っ込んだのを見て、俺はぱちぱちと手を叩いた。
八百長とかそういうのではないけれど、今年の優勝者は決まっている。最初に壇上に上がった、隣国ジョジョスの第三王子とその従者二人、というのも親子のようで、なかなか微笑ましかったけれど――
突然、観客席から歓声が沸いた。
「こんにちは〜!皆のアイドル、シャルちゃんです」
再び、ぶわっと観客席が沸く。そんな観客の中に、俺はタルさんの姿を見つけた。恍惚とした表情を浮かべる観客達の中で一人、驚きの表情を浮かべたタルさんが隣にいた少女に何やら囁いている。
何故、そんなに驚いているのだろう。
俺は僅かに首を傾げた。
<タルデ>
「こんにちは〜!皆のアイドル、シャルちゃんです」
そんな声が聴こえてきて、僕は唖然としながら、壇上を見上げた。
壇上では、メイド服を着た、無茶苦茶可愛い最愛の弟シャルズがにこにこと笑みを振りまいている。
「何だ、あれはっ!」
「シャルズ君でしょ?」
僕の驚きを知ってか知らずか、隣にいたセフィーダがしれっと答えを返してくる。そうじゃないんだ、と僕は焦れた声を上げた。
「どうして、アイドルなんだ!しかも、どうして女装なんか」
ショックだ。確かに似合うし、可愛いけれど、それでもショックだ。
口の中でぶつぶつと呟いていると、セフィーダがちょこんと首を傾げて、僕の顔を覗き込んできた。
「……ねぇ、タルデ。ショックなのは、シャルズが女装している事?それとも、皆、の中にああなたが入っていない事?」
ぐさり、と突き刺さる言葉を選んで、セフィーダが僕に問いかけてくる。
僕は傷付いた心を抑えながら、セフィーダに目を向けた。
「セフィーダ……それは、(CTSでのあまりもの扱いに、読者様にセフィーダって不幸ですね、と言われてしまった事に対する)復讐か?」
おそるおそる問いかけると、セフィーダは再び首を傾げて、にこりと微笑んで見せた。
「どうかなぁ」
……これは、かなり根に持っているな……。僕はただ、本能に忠実なだけなのに……。
</タルデ>
観客は、学院のアイドルの姿を久しぶりに見る事が出来たからか、興奮状態だ。シャルさんが何かを言うたびに、意味も無く歓声を上げる。審査員も同じようにノリノリ状態、というわけで、優勝はこれで決まりだろう。
「嫌がっていたわりにはノリノリじゃねぇか……」
俺の横にいつの間にかやってきていたキーさんが、シャルさんを見てぽつりと呟いた。その声のトーンが、妙に疲れたように聞こえるのは、俺の気のせいだろうか。
「キーさん、お疲れ?」
俺の問いに、答えようと口を開けて、そのままキーさんは眉を顰めた。
「お前、今日も凄い色だな……」
「そうかな?」
今日の色、というのは髪の毛と瞳の色の事だ。俺の仕事は諜報部員も兼ねている為、基本的に毎日違う髪の色と瞳の色を心がけている。
そして、今日の色はかぼちゃを意識したオレンジの髪の毛と、暗闇をイメージした漆黒の瞳だ。
「お前もある意味優勝者、だな」
「キーさんはいつもと一緒だね」
キーさんはにやりと笑った。
「俺様は、いつもどおりで問題なし」
「意味、分からないよ」
俺とキーさんが話し込んでいるうちに、いつの間にかシャルさんの出番は終わり、観客席は静けさを取り戻していた。
それに気が付いてか、キーさんが俺にひらひらと手を振りながら、その場から離れていこうとする。結果は見ないのだろうか。そう思って、俺はキーさんの名前を呼んだ。それだけで、言いたいことは分かったのだろう。キーさんは口元だけを歪めた。
「優勝者は決まりだろ。見る必要なし」
成る程、キーさんらしい。
俺は苦笑を浮かべて、キーさんに手をふりかえした。
「それでは、まずは審査員特別賞から――」
同時に、壇上で声が上がる。俺は再び壇上に目を向けた。
「審査員特別賞は、ファーレさんに送られます」
<プラチナ>
審査員の言葉に、ファーレンハイトがプラチナとソニアの手をしっかりと握ったまま舌打ちをした。審査員特別賞では、副賞の休暇がもらえない。それが悔しいのだろう。
「ファーレさん、おめでとうございます。それでは、特別審査員のラスナ漁業組合長から一言述べていただきます」
長身の――といっても、プラチナよりは数センチばかし低いのだが――青年が、司会者の言葉に前へ出てマイクを持った。そのまま、ファーレンハイトの目線に合わせるようにしゃがみ込む。
その行動が、子ども扱いされているように思えたのだろう。ファーレンハイトの目が僅かにつりあがるが、ラスナ漁業組合長は、構わず笑みを浮かべた。
「本当の親子のようで、とても微笑ましかったです」
途端に、ファーレンハイトの顔が喜色に染まった。
「オレ達、親子に見える?」
「ええ」
まるで、鼻歌すら歌わんばかりの上機嫌だ。プラチナは思わず笑みをこぼした。
親子に見える、というのはファーレンハイトのツボをついた言葉だ。彼は、自分の子供とプラチナの子供を結婚させて、親戚関係を築き上げる事を最大の夢としているのだから。
「プラチナも嬉しいよな?」
満面の笑みを浮かべたまま見上げてくる愛しい主君に、プラチナは優しい笑みを送る。
「ええ。すでに家族も同然なので、今更、という気もいたしますが」
「だったら、ソニアと早く結婚しちゃえばいいのにさ」
「そうですね。ですが、私とソニアは既に夫婦も同然ですから」
ファーレンハイトと繋いでいない方の手でソニアをそっと抱き寄せて、プラチナは余裕の笑みを浮かべた。
</プラチナ>
壇上で、マイクを通して堂々とのろけることが出来るのは凄い。俺には、到底出来ない事だ。……やるつもりも無いけれど。
感心しているうちに、大会の結果発表はどんどん進んでいく。やがて、優勝者発表の場面になったと同時に、観客席から大きな歓声があがった。
「はい、とうとう皆様お待ちかねの、優勝者の発表です。幸福のかぼちゃの馬車は誰を選ぶのかっ!」
だらららららっと太鼓の音が辺りに響いて、だんっと止まる。
「それは、貴方です!」
びしっと指差された先には、当然シャルさんの姿があって、結果なんて分かりきっていたはずなのに、観客達は再び大きな歓声をあげた。シャルさんは、応えるように両手を上げる。
「おめでとうございます!優勝者のシャルズさんは学院の生徒さんではありませんので、副賞として新しい通り名を差し上げます」
司会者の言葉に、壇上で両手を挙げていたシャルさんの表情が固まった。
「新しい通り名は『学院のメイド・プリンセス』です!」
おー、プリンセス〜!!
観客席が沸きあがり、プリンセスコールがどこからともなく始まる。シャルさんは、固まったまま観客席を凝視し、やがて唇をぐっとかみ締めた。
遠すぎて、シャルさんが何を言っているのかわからないけれど、唇の動きから察するに、
――あの野郎……。いつか、リベンジだ……
その気持ち、分からないでもない。
けれど、結局、キーさんの一人勝ち……かな。
俺は、苦笑を浮かべた。
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