暗号の使用 | 暗号の輸出 | 暗号の輸入 | |
米国 | ○ | △ | ○ |
英国 | ○ | △※ | ○ |
フランス | ×→△ | ×→△※ | △※ |
ドイツ | ○ | △※ | ○ |
日本 | ○ | △ | ○ |
○:制限なし △:許認可等の制限あり ×:禁止 ※:EU域外の国に係る場合のみ制限あり
(1)施策の趣旨
暗号技術は、主に軍事や外交の分野において発展してきたという歴史的経緯があるため、日本を含め、特に、欧米諸国においては国家安全保障的な観点から、その輸出に一定の規制を及ぼしている国が少なくない。例えば、EU諸国においては、ECR(EU Council Regulation)やTheDecision等のEUにおける取り決めをベースとした規制態様となっており、具体的には、EU域外への暗号機器の輸出に限り規制されていることが多い。また、新COCOMであるWassennaar Arrangementにおいては、暗号機器は、汎用品リストの3段階の規制ジャンル(Basic/Sensitive/Very Sensitive)中のSensitiveリストに区分されている。これは、スーパーコンピュータと同じ区分であり、輸出の際の通報が義務付けられるものである。 暗号機器の国内使用については、制限していない国がほとんどであるが、なかには、フランスのように民間の暗号技術の使用について制限を設けている国もみられる。
(2)諸外国における施策の動向
米国においては、主として国家安全保障上の目的から、暗号機器の輸出について規制が行われている。暗号機器に係る輸出規制の法的根拠は、武器輸出管理法(Arms Export Control Act of 1976:AECA)及び輸出管理法(Export Administration Act of 1979:EAA)である。武器輸出管理法に基づく輸出規制は、軍事用途と目される品目について行われるものであり、具体的には、国務省管轄下の国際武器通商規則(International Traffic in Arms Regulations:ITAR)の基準の下に、武器リスト(The United States Munitions List:USML)掲載品目について行われている。一方、輸出管理法に基づく輸出規制は、軍事・民生両用途に使用可能な品目について行われるものであり、具体的には、商務省管轄下の輸出管理規則(Export Administration Regulations:EAR)の基準の下に、商業統制リスト(Commerce Control List:CCL)掲載品目について行われている。以前は、一定の強度以上の暗号機器(強い暗号)については、武器リストに掲載され、国務省の管轄の下に原則として輸出が禁止されており、他方、一定の強度以下の暗号機器(弱い暗号)については、商業統制リストに掲載され、商務省の一般ないし包括許可を受けることを条件として輸出が可能であった。ところが、1996年12月、商務省は、暗号機器の輸出規制を2年間かけて緩和していくことを内容とする輸出管理規則の改正を発表した。この規則改正の概要は次の表のとおりであり、キーリカバリーシステムの構築と密接に関連した内容となっている。
弱い暗号 (鍵長40ビット(※1)未満) |
強い暗号(鍵長40ビット以上56ビット未満) | ||
改正前 | 改正後 | ||
管轄する政府機関※2 | 商務省 | 国務省 | 商務省 |
輸出規制の法的根拠 | |||
規制の態様 | 包括許可により輸出可(一旦許可を取得すれば、以後申請不要) | 財務用又はパスワードの暗号化目的以外は原則輸出禁止(わずかの例外があるが、米国政府は公表していない。) | キー・リカバリー・システム(KRS)の開発計画を示すことを条件に暫定許可。6ヶ月毎に最長2年間まで更新可。 |
また、暗号機器の使用及び輸入については、法制度上何ら制限していないが、1994年に連邦政府から示されたClipper1の構想からも窺われるように、「暗号化されたデータに対する政府によるアクセスを確保したい」という考え方(Government Access to Key:GAK)が強いといわれている。
英国においても、一定のアナログ技術を採用したものを除き、暗号機器の輸出について認可が必要とされているが、それは、ECR及びThe Decisionに則った規制態様となっているため、認可が必要とされるのは、EU域外へ向けた暗号機器の輸出に限られている。英国における輸出規制の法的根拠は、Import, Export and Customs Powers (Defence) Actであり、規制自体は、Export of Goods (Control) Orderに記載されており、通商産業省(Department of Trade and Industry)の管轄下にある。 一方、暗号機器の使用及び輸入についての制限はない。
フランスにおいては、従来より、軍事目的以外の暗号使用は、本人認証又は改ざん防止目的の使用を除いて原則として禁止されており、首相の認可を受けた場合に限り、個別的に暗号の使用が認められていた。しかし、1996年7月の電気通信法の改正により、民間の暗号使用に係る規制が緩和された。改正後の規制の概要は、次のとおりである。
○ 暗号機器の使用
暗号機器の使用は、次の各号に掲げる場合に限り許される。
○ 暗号機器の供給・輸出・EU域外からの輸入
○ 秘密鍵管理機関について
秘密鍵管理機関の承認に関する手続その他の事項については、国事院の定める規則によることとされているが、この規則は、現在検討中である。
ドイツにおいても、ECR及びThe Decisionに則った態様により、EU域外への暗号機器の輸出が規制されている。ドイツにおける輸出規制の法的根拠は、1995年2月に制定されたSechsunddreißigste Verurdnung zur Anderung der Außenwirtschaftsverordnungであり、The Federal Office of Exportの管轄とされている。一方、暗号機器の使用及び輸入についての制限はない。ただし、ネオ・ナチの活動の制限、あるいは児童ポルノへの対策という観点から、暗号の使用を禁ずるという動きもみられる。
日本においても、暗号機器に係る輸出規制が行われており、具体的には、「外国為替及び外国貿易管理法」及びその下位法令である「輸出貿易管理令」に基づき、「暗号装置又はその部分品」等を輸出しようとする者は、通商産業大臣の許可を受けなければならないこととされている。一方、暗号機器の使用及び輸入については、法律上何ら制限されていない。この点につき、日本は、欧米諸国に比較して、暗号技術の有用性に対する認識が一般化していないといわれることが少なくなく、暗号機器の国内市場についても、欧米諸国との比較においては、ニーズ自体がさほど大きくないため、未だ十分に形成されているとは言い難い。しかし、暗号技術に係る研究開発については、多くの電機メーカーなどにおいて積極的に行われており、その技術水準も、米国その他の諸外国との比較においても、相当なレベルに達しているとみられている。また、暗号機器についても、暗号技術そのものを独立して製品化するというよりインターネット接続サービスに組み込まれたりファイルの暗号化プログラムとして提供されることが多いため、一般ユーザーをして特に意識させる形になっていないとはいえ、その普及に向けた動きは活発である。
キー・リカバリーとは「鍵の復元」を意味し、合衆国政府当局がその暗号を解読する必要が生じた場合、何らかの方法でその合い鍵を手に入れられるような仕組みの事である。それまで合衆国政府が主張してきたキーエスクロウ(鍵の預託)とは異なるが、本質的には同じ物と判断できる。
1993年4月 |
Clipper1 |
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1995年8月 |
Clipper2 |
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1996年5月 |
Clipper3 |
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1996年10月 |
暗号製品輸出規制の緩和声明 |
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1996年12月 |
管轄の変更 |
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