「倫理及び専門家行動規定」の内容

晴れてAICPの認定試験に合格しても、日々の仕事で「倫理及び専門家行動規定」を守らなければ会員資格を剥奪されてしまいます。そんな規定の内容を読むことで、まちづくりプランナーの仕事の在り方を考えてみましょう。なお、以下では私が考える規定のポイントだけを拙訳で引用しましたが、御興味のある方は英語で全文をどうぞ。

前文

この規定はAICPの会員に要求される倫理的行動の指針である。また、この規定は、専門家のまちづくりプランナーの活動原則を一般市民に知らせることも目的としている。これらの原則の適用に関して、まちづくりプランナーと一般市民の間で系統的に議論すること自体が、この規定を日常的に利用するために不可欠である。

これらの原則は、一般的な社会価値と、公共の利益に関わるまちづくりプランナー特有の責任の両方から導かれている。社会の基本的な価値はしばしば相反するように、この規定に含まれる原則もぶつかりあう場面がある。例えば、情報開示と守秘義務とはぶつかり合うかもしれない。計画やプログラムはさまざまな利害をバランスさせることで作られる。そして、倫理的な判断には、個々の状況に応じた事実と背景、そしてこの規定全体に基づいて、様々な利害を注意深くバランスさせねばならない。

この規定が会員の専門家だけではなく、一般市民に向けても発信されていることに注目して下さい。また、まちづくりにおいてはさまざまな利害を倫理的にバランスさせねばならないことも、述べられています。

A. まちづくりプランナーの公共に対する責任

まちづくりプランナーの再重要義務は、公共の利益に奉仕することである。公共の利益の定義は継続的な議論を通じて形作られていくものだが、まちづくりプランナーは公共の利益という概念の良心的な実現に尽くさねばならない。それには、以下のような義務が伴う。

1) まちづくりプランナーは、現在の行動がもたらす長期的な結果に特別な注意を払わねばならない。

2) まちづくりプランナーは、複数の意志決定の相互関連に特別の注意を払わねばならない。

3) まちづくりプランナーは、市民および政府の意志決定者(注:議員など)に対し、まちづくりに関わる全ての、明瞭で、正確な情報を提供するよう努めねばならない。

4) まちづくりプランナーは、計画やプログラムの作成において意味のある影響を与えられる機会を市民に与えるよう努めねばならない。

5) まちづくりプランナーは、社会的弱者のためにまちづくりを行う特別な責任があり、あらゆる人々に選択と機会が拡大されるよう努めねばならない。

6) まちづくりプランナーは、自然環境を守るよう努めねばならない。

7) まちづくりプランナーは、環境のデザインを高め、歴史的都市資産を保存するよう努めねばならない。

ここに述べられているように、まちづくりプランナーという職業の存在目的は、「公共の利益への奉仕」です。このことは、まちづくりプランナーは事実上の公務員であることを意味します。実際、アメリカではまちづくりプランナーの殆どが連邦・州・郡・市などの行政機関で働いていますし、民間セクターのまちづくりプランナーも行政機関へのコンサルティングを主な仕事とする場合が多いです。勿論、民間の開発業者やNPOなどにコンサルティングを行うこともしばしばありますが、その場合は施主の利益と公共の利益が食い違うことも多くなり、以下B.の規定への配慮が重要になります。

B. まちづくりプランナーの施主(クライアント)と雇用主に対する責任

まちづくりプランナーは、施主あるいは雇用主の利益のために勤勉に、創造的に、独立的に、能力ある仕事をせねばならない。そのような仕事は、個人として公共の利益のために行う誠意あるサービスと合致すべきである。

2) まちづくりプランナーは、仕事の目的や性質に関する施主あるいは雇用主の決定を受け入れねばならない。ただし、求められた行動が非合法であったり、公共の利益に対するまちづくりプランナーの最重要義務に矛盾する場合を除く。

8) まちづくりプランナーは、専門能力を超えた仕事を引き受けたり続けてはならない。

9) まちづくりプランナーは、施主や雇用主から守秘するよう求められた情報を公開してはならない。ただし、法律で求められた場合、明確な法律違反を予防する場合、そして甚大な公共の被害を予防する場合を除く。

2)および9)の太文字部分では、まちづくりプランナーは施主や雇用主の要求よりも公共の利益を尊重すべきであり、両者が矛盾する場合には施主や雇用主の要求に従わないでよいと述べられています。この規定が現実にどの程度守られているかはさておき、目指すべきまちづくりプランナーの倫理観は本来こうあるべきだと思います。また、能力を超えた仕事に関しては、ある程度の背伸びは必要だと思いますが、失敗によって甚大な迷惑・被害を多くの住民にかけない配慮は不可欠です。

C. まちづくりプランナーの職業および同僚に対する責任

まちづくりプランナーは、知識と技術を向上させたり、コミュニティの問題解決と仕事を関連づけたり、まちづくりに関する市民の理解を増進することで、職業としてのまちづくりプランナーの発展に尽くすべきである。

4) まちづくりプランナーは、まちづくりに関する知識・知恵の発展に貢献する経験や研究を他と共有せねばならない。

アイデアは安売りしないのが営利目的のビジネスの原則ですが、まちづくりという仕事はその公共性により、知識や経験を他の人とできる限り共有すべきです。実際、全てのまちづくりは状況や背景が異なりますから、丸写しでアイデアをコピーしてもうまくいきません。そして、あるアイデアを他所でうまく応用するためには、市民や現地のまちづくりプランナーの知恵や発想が不可欠です。

結論:私の考える「まちづくり」における役割分担

他国比で言えば、アメリカは「まちづくり」と「まちづくりプランナーという職業」が最も高度に確立されている国です。一方、日本では、「公的な意志決定」で「公共の利益」を増進するという発想からのまちづくりは、まだ発展途上と言わざるを得ません。そのため、建築、エンジニアリング、不動産開発など、まちづくりの各部分に優れた専門家は沢山いますが、高度な総合力と倫理性をもって、公共の利益に関わる公的な意志決定を支援できるまちづくりプランナーは、未だに職業として確立されているとは言えません。

しかし、日本でも市民の手によって社会の本質的転換が進んだ将来には、まちづくりは地域毎の特性に合わせた形で生活の一部として定着していくと思われます。住民は自分の生活の質を高める方法の一つとして、公共の利益を追求するようになり、相反する個人の希望を適切にバランスさせるための支援を「総合的な知識・知恵・技術」と「高い倫理性」を合わせ持った専門家、すなわち「まちづくりプランナー」に求めるようになっていくと思います。結局、まちづくりの主役は住民一人一人であって、専門家はその支援役に過ぎません。私はそのような支援を自分の一生の職業にしていきたいと思っています。

なお、私が「都市計画」ではなく「まちづくり」、「都市計画士」ではなく「まちづくりプランナー」という言葉を使うのは、この主役・支援役の関係を明確にしたいからです。「都市計画」とか「都市計画士」という言葉には、主役である住民を遠ざけてしまうような堅く、冷たく、恐ろしい語感があると思います。

「終」

メールはこちらへ

まちづくりって何だろう?に戻る

このページはの提供です。
無料のページがもらえます。