1997年7月より1998年3月までに、私がメトロで担当した主な仕事は以下の3つです。 1)フレームワーク・プランの作成(1997年12月11日議会制定): フレームワーク・プランの第一下書きが5月末に一般に公開された後、数多くの見直し提案が、住民、自治体、産業団体、企業、NPOなどからメトロに寄せられました。メトロ職員は全ての提案を検討し取捨選択した後に下書きの見直しを行いましたが、私は第1章:土地利用、第4章:水供給管理、第6章:ワシントン州クラーク郡との調整、第7章:環境教育、第9章:実施計画、の執筆および見直しを担当しました。作業には、メトロ他局、議員、知事との調整や、外部との協議など政治的な活動が不可欠であり、当地域での政治的関係の理解に大きな努力を要求されました。5回の住民ワークショップ(オープン・ハウス)も終わり、住民ヒアリングや諮問委員会での審議も終了し、1997年12月11日の議会にて制定されました。1998年1月からは各自治体の総合計画に関する整合性の指導が進んでいます。 2)市街地再開発容量の定量的見積もり: 都市成長境界線の見直しに伴う拡大幅の検討の一貫として、既存の境界線内部の開発可能容量を定量的に見積もる作業です。言い替えれば、予測される成長のどれだけを既存の都市部に収め、どれだけを農地や森林の転用によってまかなうかを検討する作業です。目標は境界線の拡大を最低限の抑制することです。これまでの手法では許認可および土地データの扱いに問題があり、現在の境界線内部の開発可能容量を少なく見積もっていたことが発覚したため、「メトロ再開発チーム」を発足させて、本年末を目処に再見積もりを行っています。私は、留学で得た統計分析の技術を買われて当チームの中心メンバーの一人となっていました。方程式の因子設定がほぼ見当がついたので、1998年からはポートランド州立大学博士過程の学生のインターンを雇って、モデル地区に対して方程式をコンピュータ上で走らせています。残念ながら、現在の進捗状況は定かではありません。 これまでの都市の再開発容量の定量見積もりは、理論面の研究が散見される程度で、観察に基く実践への応用例は世界中を見ても前例がありません。当チームでは学会発表を目標に新手法の開発を行っており、これまでの試験によってその骨格はほぼ定まりました。この試みは、世界最高レベルの地理情報システムが整備されたメトロでも困難な挑戦ですが、仮に成功すれば定量的都市計画の進歩に大いに役立つことは確実です。一つの地方自治体がそこまで視野に入れていることは驚嘆に値すると思います。 3)実行基準の作成: フレームワーク・プランを「絵に描いた餅」に終わらせず、その実施を保証する仕組みとしてメトロは実行基準を作成しており、私はその素案の作成と関係者全体の取りまとめを任されています。実行基準は、メトロ、郡、市が達成せねばならない目標を数値で表わし、その達成度を定期的に2年毎に評価し、予測どおりに進んでいない場合には実施方法を見直すことを定めたものです。例えば、「2年後までにA市は安価な住宅を○×戸建設する」と定め、目標に達しなかった場合には、建設促進の具体的方針を提出させたり、補助金カットなどの罰則を適用する、というものです。 まちづくりには完璧な科学はありえず、政治的な側面とのバランスが重要です。例えば、住宅供給の遅れは住宅政策だけの問題ではなく他の問題とも複雑に絡み合っていますし、A市とB市を比較し調整せねばならないこともあります。安価な住宅とは何か、という定義の問題もあります。従って、実行基準の作成に当たっては、科学的かつ政治的に受け入れられる目標値、罰則、実施方針変更規定などを作成せねばならず、今後の諮問委員会や議会の審議には大変な紆余曲折が生じるのは確実です。 残念ながら、この作業は既に高度に政治問題化し、実質的な作業は1998年秋まで中断することになってしまいました。一部の環境グループは、実行基準を骨抜きにさせず公正で意味のあるものにせねばならないと主張し続けてきましたが、予算の膨張を恐れた議員からは他の作業を優先させるために作業縮小を求められ、メトロの監督強化を危惧する自治体で構成される政策諮問委員会からはメトロ議会の支持が得られない作業はすべきではないとされたためです。職員の政治的な無力を認識させられる結果となってしまいました。
参考)フレゴネシ・カルソープ&アソシエイツで担当した仕事: 私は1998年1月の事務所設立から同年7月まで、フレゴネシ・カルソープ&アソシエイツという民間事務所に勤務しました。同事務所は、メトロ成長管理局長であったJohn Fregoneseと、New Urbanismの旗手として日本でも有名なPeter Calthorpeのパートナーシップで設立された、新しいまちづくりコンサルタント事務所です。当時私が担当した主なプロジェクトをまとめておきます。 ソルトレークシティ都市圏総合計画:次回冬季オリンピックの開かれるユタ州都の長期的な広域計画の作成です。メトロ地域2040と類似したプロセスを期待されており、地域の人々の協力で住民の価値観に関する意見調査と、地理情報システムのデータの整備を完了させた上で、2回の関係者ワークショップを行いました。 ゲートウェイ地区計画:計画中の路面電車空港線の乗換ターミナルを中心とした、ポートランド市の新しい核となる地区の計画です。私はポートランド市開発委員会(PDC)への提案入札文書を準備し、幸いプロジェクトの受注につながりました。過去に市の都市計画局が作成した計画は実施に至らなかったため、PDCの関心は計画の「実施」にあります。今後、3回の住民オープンハウスを行ないつつ、計画を作成していきます。 サニーサイド地区計画:メトロ地域内クラカマス郡の幹線道路周辺地区の計画です。私はクラカマス郡への提案入札文書を準備し、幸いプロジェクトの受注につながりました。当該地区は近年急速な住宅開発に見舞われ道路渋滞が深刻化しています。そこで、土地利用と交通計画をうまく融合させた地区計画を、4回ほどの住民ワークショップを行ないながら作成していきます。
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