1996年秋学期履修科目

<都市計画史>

米国の事例に重点を置きながら、主に18世紀以降の近代都市計画の歴史を学ぶ本科目は、バークレーの都市計画学科で全生徒に必修となっている唯一の科目です。担当のマイケル・ティーツ教授(退官)は、都市経済および地域開発を専門としつつも、都市計画全ての分野に幅広い造詣を持っている方です。歴史の学習はとかく羅列的になりがちですが、本コースでは常に都市、プランニング手法、職業としてのプランナー、の3つの視点によって問題を扱ったため、個別の知識と同時に全体の流れをしっかりと理解することができました。

期末の小論文では、米国都市計画プロセスにおける市民参加の法制度化について、サンフランシスコ市を例にとって研究しました。現在の米国の都市計画プロセスでは、市民参加の法制度化が高度に進んでおり、それなくしてはプロジェクトの進行はままなりません。しかし、そのプロセスの歴史は比較的浅く、その基礎が築かれたのは、1970年代前半の環境運動の高まりと、自治体の都市計画機能強化以降のことです。それ以前のプロセスは経済面へ大変偏向したもので、市民参加の素地はほとんど見られませんでした。この一連の流れには、バブル崩壊以降の日本の状況に類似した部分が多く見受けられ、今後の日本の都市開発プロセスの潮流を予見するのに大きな手がかりとなります。

本科目を履修したことで、米国の都市計画プロセスに関するこれまでの自分の理解は、現状の仕組を表面的になぞったものであったと感じました。日本では、米国の都市計画は先進的だと賞賛され、その仕組だけを安易に真似しようとする傾向が見られます。しかし、両国の文化的、社会的な背景を無視して、都合の良い部分だけを取り入れるのは、かえって望ましくない結果を引き起こす危険性を含んでいます。

<設計・開発演習>

プランナー、設計者、デベロッパー、コミュニティ・リーダー、マーケット・アナリストなど、様々なバックグラウンドの学生でチームを編成して、総合的に開発プロジェクトを提案する演習科目です。提案内容は、コンセプト・メイク、マーケットスタディ、敷地および建築設計、財政収支試算、許認可申請方針作成と一通りの開発プロセスを含み、それ故にチームのコラボレーションが最重要視されました。2名の担当の講師は、経済コンサルタントのマイケル・スミス・ハイマー氏と、サンフランシスコを拠点に活動中の建築家トビー・モリス氏でした。

本コースでは以下の2つのプロジェクトに取り組みました。

プロジェクト1:低所得者向け住宅開発

サンフランシスコ都心部の2,300 m2の敷地に、低所得者向け住宅を提案するプロジェクトで、クライアントは米国最大手の低所得者向け住宅デベロッパー(非営利)のブリッジでした。グループ内での自分の主な役割は、コンセプト・メイク、敷地調査および敷地計画でした。
本プロジェクトでは、財政収支が開発プログラムを設定する一番の要因となりました。行政からの低所得者向け住宅開発用の特別免税・減税および補助金の獲得のためには、高いアメニティや低い家賃水準といった様々な審査条件をクリアせねばなりません。しかし、その多くはコスト増または収入減につながるため、収支を赤字にしない開発プログラムを設定することは実に困難で、設計者とデベロッパーの協力が不可欠であることを痛感させられました。

プロジェクト2:ミックスド・ユース開発

計画地のあるエメリビル市は、サンフランシスコ市からベイ・ブリッジを渡った対岸にあり、近年は商業・オフィス開発が大変活発に進んでいる市として有名です。本プロジェクトは、幹線道路沿いの2.3haの敷地にミックスド・ユース開発を提案するもので、クライアントにはエメリビル市再開発局を迎えました。グループ内での自分の主な役割は、オフィス・マーケット調査、コンセプト・メイクおよび敷地計画でした。
本プロジェクトのポイントは、マーケット調査の不完全性を補完するコンセプトの重要性でした。当該エリアのマーケットは著しく変化しており、先行きが不透明な中で、如何に説得力のある開発プログラムを設定できるかが鍵となりました。それ故、オフィス、商業、住宅、産業の各マーケットをミクロ・マクロの両方の視点から分析し、結果として情報産業向けインキュベータオフィス、地区サービス商業、沿道型商業を効果的に混在させた開発を提案いたしました。自分のグループは、創造的にマーケットを切り開いていくアプローチを取り、計画および設計コンセプトをアピールしたため、数字合わせに終始した他グループと比較して明らかに高い評価を頂きました。

本科目からは、開発に取り組む主体毎の視点の違い、およびそのコラボレーションの重要性を学びました。コラボレーションの基礎となるのは、知識および技術に裏付けされた各主体の創造性です。

<まちづくりへの市民参加>

米国のまちづくりに市民参加がどのように織り込まれているかを学ぶ科目で、理論面よりも実践的手法に重点が置かれました。市民および専門家の双方の視点からのリーディングに加えて、各生徒はクラス外で個別にプロジェクトに取り組むことを要求されました。また、クラスでは、数多くのシミュレーションを行いました。3名の担当教授の内、主任のマーシャ・マクナリー講師は市民参加プロセスのコーディネートに多大な実績を持ち、アーバン・エコロジーという非営利団体(NPO)を主宰しています。ランドスケープ・アーキテクトであるランディ・ヘスター教授は、米国のコミュニティ・デザインの第一人者で、日本やアジアでも多くのプロジェクトに携わった経験があります。また、ロバート・オギルビー講師は、ニューヨーク市でボランティアグループのリーダーを務めた経験を生かし、社会学の視点から指導に当たられました。市民参加という大変難しい問題を扱う上で、教授陣の異なった視点からの意見は大変効果的でした。

米国の市民参加手法は、かつてはコミュニティを基礎とした草の根的なものが主流でしたが、現在ではそれが都市計画プロセスの中に高度に制度化されています。しかし、今日でもその実践は試行錯誤の繰り返しで、なかなか教科書的な方法は確立されていません。その状況の中で、教授陣の経験および各学生のプロジェクトを交換しあうことで、状況に応じて適切な手法を作成する能力を高めることが本科目の目標でした。それ故に、米国のケースが中心であったにもかかわらず、日本の場合にも応用できる手法を数多く体得することができたと思います。

<都市および不動産開発>

主にデベロッパーの視点から都市および不動産開発を学ぶ本科目は、ビジネス・スクールのMBAコースに属します。MBA、法律、エンジニアリング、建築など多様なバックグラウンドを持つ学生が履修したため、大変多様で活発な意見の交換が行われました。2名の教授は開発ビジネスを活発に行っている実務家の夫妻でした。かつてラウス社の代表でもあったスティーブン・チェンバリン氏は、ビジネスおよび財務収支に造詣が深く、スーザン・チェンバリン女史は建築家として活躍された実績があります。両者とも大変創造力に満ちた方で、数字に表わせない価値をデベロッパーの視点に取り込むことの大切さを常に強調していられました。

講義は開発ビジネスの全ての分野を網羅しました。また、学期中に以下の5つの課題を行いました。

本科目からは、デベロッパーの資質の違いは、プロジェクトの価値創造に現われることを学びました。そして、リスクの高い不動産ビジネスにおいて長期的な成功を収めるには、多少のコスト増を伴っても、価値の高いプロジェクトを開発することが不可欠であることも理解出来ました。今後、不動産開発は投機的な視点からではなく、チームとしてのコラボレーションを通じて、プロジェクトの質を高めて行くことがますます重要になります。

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