雨月奇譚〜『続』の章〜
山で川で思い思いに遊び
皆で楽しみながら食事の準備をして
皆で騒ぎながら食事をし
燃え盛る炎を囲んで歌い踊り
俺や志保のとっておきの怪談を聞いて肝試しをやって
そして今日が終わりまた明日が来て遊ぶ・・・
そういう計画だった。
そんなキャンプになるはずだった。
少なくとも今さっきまではそうだった。
だが、それは前触れもなく消え去っていた・・・
あかり「どうしよう、浩之ちゃん?!皆が、雅史ちゃんが!」
浩 之「一体どうしたんだ?!」
駆け寄って雅史の様子を見る。
息はあるし、別に血が出ている訳でも無かった。
あかり「ねぇ、浩之ちゃん、浩之ちゃん!」
浩 之「おい、落ち着けあかり!雅史はどうしたんだ?皆は?」
セリオ「佐藤さんは殴られた為、気絶しているんでしょう」
浩 之「それ、どういう事だ?」
取り乱しているあかりを落ち着かせ、セリオから事情を聞いた。
俺が席を外して間もなく、事件は起こったらしい。
突然立ち上がった琴音ちゃんがいきなり姿を消したのを始めに、
マルチが焚き火に近づき、鍋をひっくり返した。
止めようとして雅史が立ち上がったところに葵ちゃんが水月に正拳を叩き込み、
「もっと強い奴と戦いたい」とか言って山を降りていったそうだ。
そして気が付いたら他の人達もいなかったらしい。
浩 之「何か冗談みたいな話だな・・・」
セリオ「私は嘘はつけない様になってます」
あかり「浩之ちゃん、本当だよ。皆変になっちゃったの」
浩 之「しかし一体、何が原因なんだ?
病気とかじゃなさそうだし、何か変な物でも食ったのかな?
セリオ、念の為に聞いておくが取ってきた山菜の中に毒の有るヤツとか無かったよな?」
セリオ「はい、芹香様と私で選別しましたので間違いありません」
あかり「他の材料もちゃんとした店で買った物だよ」
浩 之「うーん、それじゃ別の原因だな。
・・・・待てよ?そう言えば志保が・・・・」
>
> 志 保「ヤッホー!ヒロ、ちゃんと食べてる?
> お吸い物おいしいでしょう。実はこの中にねぇ・・・・って何してんの?」
>
> 志 保「ちょっと、アタシの説明を聞きなさいよーーーー!!」
>
浩 之「あ、あいつまた何かやらかしたのか?!
セリオ、ちょっとあのお吸い物調べてみてくれないか?」
あかり「でも、鍋ごとマルチちゃんがこぼしちゃったよ?」
浩 之「困ったな・・・・そうだ!
俺が着替えに行く時、つぎ直すように言ってただろ。あれ、残ってるか?」
あかり「あ、あるよ。ちょっと待ってね」
あかりの持って来たお吸い物をセリオに調べてもらった結果、入れた覚えの無い物が
3種類程入っているのが分かった。
○セイカクハンテンダケ
精神毒を持つ毒キノコで、食べると性格が反転する。
○セイカクキョウチョウダケ
セイカクハンテンダケの亜種で、食した者の性格の一部を強調する。
セイカクハンテンダケに比べ、カサが小さく、裏が黒い。
○ガンボウゾウフクダケ
食した者の抑圧された願望を開放する。
セイカクハンテンダケとは別系統であるが、形態が酷似している。
セリオ「3種とも極限られた地域にしか生息しない珍しいキノコです。
大変美味なのですが、即効性の精神毒を持つ為、食用とされてません」
浩 之「何かお約束の様な気がしないでもないが・・・
まあいい。それって、ヤバイ毒なのか?解毒薬とかは有るのか?」
セリオ「一時的に精神に異常をきたしますが通常は短時間で回復します。
効果が数日間に及んだり、暫くの間後遺症が残る事も極稀にありますがまず心配はないです。
未だ作用機構が解明されていない為、残念ながら解毒薬はありません」
浩 之「それじゃあ、打つ手無しなのかよ」
セリオ「いえ、これらの毒は被毒者の意識がある間にのみ作用しますので、
麻酔や睡眠薬で眠らせる等して効果が切れるのを待てばよいと思います」
浩 之「なるほど。眠らせれば大丈夫なんだな。よし任せとけ!」
あかり「浩之ちゃん、まだ安心できないよぉ〜。
皆、おかしくなっちゃってるんだよ?
それに、もう暗くなってきちゃったから道に迷っちゃうかも」
浩 之「そ、そうだな。急いで捜さないと。
ところでお前等もあの時食べたんじゃないのか?」
あかり「私は浩之ちゃんが食べた後で食べようと思っていたから」
セリオ「私はロボットですから」
浩 之「あれ?でもマルチも変になってるんだろう?」
セリオ「詳しくは分かりませんが、恐らく飲食物の輸送が正しく行われず、
作用機構やAIに異常をきたしたのではないでしょうか」
浩 之「う〜ん、良く分からないがとりあえずマルチも変なんだな。
よし、時間が惜しい。行くぞ、あかり!セリオ!」
あかり「ま、待ってよ。浩之ちゃ〜ん」
走り出す浩之の後を慌てて追うあかりとセリオ。
慌てていても手にはしっかりと懐中電灯が握られているところはさすがだ。
浩 之(騒動にならなきゃいいけどな・・・)
皆から忘れ去られた可愛そうな少年が一人・・・
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浩 之「ふぅ、結構降りてきたな」
あかり「あっ、浩之ちゃん。あそこにいるの、保科さんじゃないかな?」
浩 之「ホントだ。おーい、委員長!」
俺の声に前を歩いていた委員長は立ち止まり、ゆっくりとこっちを振り向いた。
精神に異常をきたすとか言ってたが、麻薬や覚醒剤みたいなものか?
智 子「藤田君?」
俺の事が分かる様だ。夢現(ゆめうつつ)って訳じゃなさそうだ。
智 子「良かった〜、気が付いたら暗い山道にウチ一人なんやもん」
俺の所に駆け寄って来る委員長。
どうやら、精神毒とやらにはヤラレていないらしい。
あかり「保科さん、大丈・・・」
智 子「ウチ、一人でメッチャ心細かったんよ。
何やワケ分からんし、不安で仕方なかったんや。
そしたら藤田君が助けに来てくれた・・・」
あかりを無視し、潤んだ瞳で俺を見つめる委員長に違和感を覚えた。
浩 之「委員長、ホントに大丈夫か?」
あかり「保科さん・・・?」
智 子「嬉しい!ウチの事心配してくれたんやね!」
委員長は俺に抱き付き、首に手を回すと目を閉じ、唇を近づけてきた。
いつもの委員長じゃない?!
しかし、据え善食わぬは・・・
慌てて止めに入るあかり。(ちっ)
あかり「ちょ、ちょっと保科さん!」
智 子「何や、アンタ達もおったんか」
本当に気付かなかった様で、心底残念そうな委員長。
智 子「そや、藤田君。向こうの丘に行かへん?
星が綺麗よ。ウリらの町じゃこんな綺麗な星空、絶対見れへんもん。
星空の下で語り合う二人なんてめっちゃロマンチックやん!
触れ合う手、見つめ合う瞳。
そして二人の影が一つに・・・って、藤田君のスケベッ!!」
浩 之「な、何だ、やけにハイテンションじゃないか?
普通の状態じゃないな。セリオ、これは一体どういう事だ?」
セリオ「『シンデレラ・コンプレックス』ですね。
年頃の女性によく見られる、恋のロマンスに対する強い願望の表れです。
どうやら『ガンボウゾウフクダケ』の効果が強く表れている様ですね。」
浩 之「こ、これがあの茸の精神毒ってやつなのか?
半信半擬だったんだが、実際に委員長も変になってるしな。
確か、眠らせれば良かったんだよな・・・
よし!委員長、これを見ろ!」
智 子「ん、何やのん?」
俺はさっとポケットから紐付きの5円玉を取り出した。
にわかに走る緊張。
智子&あかり「はっ、まさか?!」
浩 之「あなたはだんだん眠くな〜る、あなたはだんだん眠くな〜る・・・」
あのお決まりの万国共通のフレーズをリズムにのせて詠唱する俺に、その場の全員が石と化した。
しかし、もはや俺は昔TVで見た催眠術師、松岡圭祐になりきっていた。
5分後・・・・・
浩 之「・・・・・・・」
智 子「・・・眠くならんようやね」
浩 之「・・・・てぃ!」
智 子「ぅっ?!・・・・・・・!!」
俺は電光石火の早業で後ろポケットからハンカチと小瓶を取りだし、中身をハンカチに
染み込ませると委員長の口と鼻に押し当てた。
訳が分からず、激しく抵抗する委員長も、30秒もすると急に力が抜けて倒れ込んだ。
俺の漏らした安堵の息を合図に、あかりを襲っていた石化の魔力が解けた。
あかり「ひ、浩之ちゃん・・・今、何をしたの・・・?」
浩 之「ああ。三塩化炭素をちょっとな」
あかり「さ、三塩化炭素って、あの・・・・」
セリオ「クロロホルムの事ですね」
浩 之「そうとも言うな。誰でも1本くらい携帯してるだろ?」
あかり「し、してないよぉ〜〜〜〜〜〜」
浩 之「ともかく、当面の危機は去った。これから・・・」
セリオ「後方から誰かが近づいて来ます」
浩 之「何、もう次の刺客が来たのか?!」
あかり「刺客って・・・」
振り返ると確かにこちらに近づいて来る。
数は・・・・2つ。
あかり「あの、すみませ〜ん、この近くで女の子を見ませんでしたか〜?」
トム・クルーズばりのアクションで物陰に隠れ、警戒していた俺の努力を無にする様に
あかりが人影に話かける。
???「その声、あなた神岸さん?」
あかりに応える声は間違えようが無い。
近づいてきたのは来栖川先輩とその妹の綾香だった。
浩 之「良かった、先輩無事だったか。それに綾香も。
念の為聞くが、二人とも変になってるってことはないよな?」
綾 香「は?何の事?」
浩 之「う〜ん、本人には自覚が無いのかもしれないな。
そうだ、先輩。聞きたい事があるんだけど・・・」
芹 香「・・・・・・・・」
浩 之「えっ、『違います』?何が?」
綾 香「さっきから何トンチンカンなコト言ってるのよ。
その子は綾香、私の妹!芹香は私よ」
浩 之「・・・え?」
綾香と思ってた方「だ・か・ら、私が来栖川芹香なの。
浩之さんに間違われるなんて私ショック・・・!
私達、全然雰囲気違うから分かるでしょう?」
浩 之「いや、確かに雰囲気違うのは知ってるけど、二人とも俺の知ってる二人と
全然雰囲気が違ってて・・・・あ、分かった!
二人で俺の事からかってるんだろ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジ?」
綾香と思ってた方「マジ。ね、綾香」
芹香と思ってた方(コクコク)
浩 之「嘘〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?!」
芹香(確定?)「う〜ん、何か錯乱しているようね。気持ちが落ち着くお呪いをしてあげようかな。
ねぇ神岸さん。浩之さん、何かあったの?」
あかり「えっと、あなたが芹香先輩であなたが綾香さんなのね?
・・・・・セリオさん、どういうことなの?(ボソッ)」
対応に困ったあかりがセリオに助けを求めた。
セリオ「お二人がおっしゃっている事は本当です。
お二人とも『セイカクハンテンダケ』の毒にやられている様ですね。
元々性格が正反対だったので反転した結果、人格が入れ替わった様に思えるんでしょう」
浩 之「なんてこった!じゃあ二人とも性格が変わちゃったのか!(ボソボソ)」
芹香(確定)「こら!オ姉サンにナイショで何三人で話してるの?
仲間外れにしたら怒っちゃうゾ☆」
浩 之「う〜ん、本来の綾香以上に軽いノリだな。
でも、こんな明るいオネエサンな先輩もいいなぁ。えへらへら」
あかり「浩之ちゃん、デレデレしちゃ駄目だよぉ。
芹香先輩も綾香さんもこのままじゃかわいそうだよぉ〜」
浩 之「そうだった、元に戻してやらないと。
でももう例の薬品は無くなったしなぁ。あかり、お前持ってないか?」
あかり「だから、普通持ってないよぉ(笑)」
浩 之「よし、なら今度こそ俺の催眠術で・・・・」
あかり「それはもういいよぉ〜!」(バシッ)
どこから出したのか、あかりがハリセンでツッコミを入れる。
浩 之「そうだ、それだ!今のタイミングを忘れるなよ。
後は、口調をもっと乱暴にな。関西弁ならモア・ベターだ!」
あかり「うん、分かったよ、浩之ちゃん」
芹 香「あなた達、何漫才やってるのよ・・・」
浩 之「奥の手が効かないし、困ったなぁ。どうやって眠らせようか?」
セリオ「気絶させるという手段もありますが」
浩 之「気が進まないが仕方無いか・・・あかり、ちょっと来い」
あかり「何、浩之ちゃん?」
浩 之「てい」(トン)
あかり「あうっ」
側に来たあかりの首筋に手刀を当てると、あかりは軽く呻いて倒れこんだ。
浩 之「うん、こんなモンかな?」
綾香(確定)「・・・・・・・・」
浩 之「え、手際がいいですねって?いやぁ、初めてやってみたんだがな。
TVとかでよくやってるだろ?あれを真似してみただけだよ・・・はっ!(スッ)」
綾 香(サッ)
浩之&綾香「・・・・・・・」
浩 之(ブンッ、ブンッ)
綾 香(サッ、サッ)
浩之&綾香「・・・・・・・」
その後暫く無言の攻防が続いたが、俺の手刀は全て綾香に紙一重でかわされた。
浩 之(さすがはエクストリーム・チャンピオン。正攻法では俺に勝ち目はない・・・・よし!!)
「あっ、先輩!危ない!!」
綾 香「?!」
突然あげた俺の声に、何事かと綾香が振り向いた。
その一瞬の隙を逃さずに手刀を叩き込む俺。
浩 之(貰った!!・・・・何?!)
しかし、綾香は予想していたと言わんばかりに安々と俺の攻撃を受け止める。
俺はカウンターを受ける事を覚悟し、身を固くした。
・・・が予想していた反撃は来ず、驚いた事に綾香が膝を付いて倒れ込む。
その向こういたのは構えをとったセリオだった。
セリオ「余計なことだったかもしれませんが、苦戦されてるようだったので」
浩 之「い、いや。助かったよ・・・」
(くいくい)
浩 之「?あれ、今俺を呼んだの先輩?」
芹 香「・・・・・・」
浩 之「御迷惑をお掛けしました、って?・・・って先輩、元に戻ったのか?」
芹 香「・・・・・・・・・・・・」
浩 之「毒や薬に対する耐性を持ってるから未知の毒でも効果を軽減できるって訳?
なるほど、何か先輩なら納得できるな。もう完全にいいのか?」
芹 香(コクン)
浩 之「ああ、よかった!実際、俺達だけじゃ不安だったんだよな」
雅 史「お〜〜〜〜い、浩之〜〜〜〜〜〜!!」
俺達の来た方向から雅史が駆け寄って来た。
浩 之(そうだ、雅史もいたんだ・・・すっかり忘れてたぜ)
「あ、雅史無事だったか!心配したぜ」
雅 史「何が何だかさっぱり分からないよ。一体みんなどうしたの?」
浩 之「実は、『かくかくしかじか』 ってな訳なんだ」
雅 史「『かくかくしかじか』?それじゃ何の事だか分かんないよ」
浩 之「何?!日本古来伝統の表現技法を無視するつもりか?!
これで説明されたら分からなくても分かれ!!」
雅 史「そんな無茶な・・・・」
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雅 史「なるほど、そういう訳だったのか。大変な事になったね」
浩 之「まぁな。で、お前は葵ちゃんの看病(ボディブロー)のお陰で毒にはやられなかった、と」
雅 史「ちょっと違うけど、そうとも言えない事もないか。
それより、他の女の子達も早く助けてあげないと」
浩 之「ああ、分かっている。さっき言った様に、俺達は他の子達の捜索にあたる。
先輩は上のキャンプ場で出来る範囲内で毒の治療を行ってくれ。
雅史はキャンプ場まで先輩を送るのと、気絶、もとい眠った子達を上まで運んでくれ。
それから、俺達が見つけた子もいいタイミングで現れて連れていってくれ」
雅 史「『いいタイミング』ってのが難しいね。それに、僕一人じゃ一人ずつしか運べないよ?」
芹 香「・・・・・・・・・」
浩 之「綾香ならもうすぐ目を覚ましますだって?どうして分かるんだ?」
芹 香「・・・・・・・・・・・・」
浩 之「へぇ〜、綾香も毒に耐性を持ってるのか。何か特別な訓練でもしているのかな?」
芹 香(ポッ)
雅 史「それでも保科さんとあかりちゃんで2往復しないといけないね」
浩 之「あかり?しまった!」
急げ、浩之!
残り6人の女の子を救出するんだ!
あかり「・・・・・ぐすっ」
浩 之「だから、悪かったって! 何でも奢るからさ、いい加減許してくれよ〜〜〜」
あかり「浩之ちゃん、酷いよ・・・」
雨月奇譚〜『結』の章〜近日公開