I命名
まだちびちびちゃんの性別も分からず、つわりもある初期の頃、わたしは割と真剣にどんな名前を
つけようか考え始めた。
わたしの子供は日本国籍とマレーシア国籍を両方持つことになる*1
ので、どちらの国でも「外人っぽい」と思われないような名前にしたかった。だから、日本名としても英語名
としてもいけるような名前にしようと思っていた(例えば「ケン」のような)。「日本名は○○、
英語名は××」というように別々の名前を持っている人もいるが、わたしは一つに決めた方が面倒くさく
ないし、アイデンティティも確立しやすいのでは、と思っていた。
そのようなことを夫と話していたら、夫は、
「この子はチャイニーズでもあるんだから、中国語名もつけようよ。」
などと言い出した。わたしは中国語名などいらないと思っていた。別に子供に流れるチャイニーズの血を
軽視しているわけではない。そうではなくて、中国語名を結局使わなくなる人が多いからである。
夫の名前は、幸いマレーシアの他民族の人にとっても、外国人にとっても非常に聞き取り易い名前なので、
そのまま使っている。しかし、やはり中国系の名前は、他民族の人に分かりにくいことがあるので、
「わたしはジェニファー」とか「俺はレイモンド」というように、英語名を自分で勝手に決めて
名乗っている人がものすごく
多いのである。夫の妹もそうで、今では母親ですら本名で呼ばない。
更に、中国語名は、北京語読み、広東語読みなど方言によって違うのでややこしい。
もっと言えば、大体、夫は中国語の読み書きができないのである。
・・・あーあ、めんどくさいなあ。
そう思いつつ、音は日本語と英語で違和感がないような名前、それを漢字表記した時に中国語で
読んでも変ではない名前、という方針でいくことにした。
でも、日本語としていい名前を中国語読みするととても変、ということは往々にしてある。
日本人と台湾人の両親を持つ金城武は、うまい具合に日本語読みしても中国語読みしてもOKな名前だが、
中国語読みすると、「金・城武(「金」が苗字で「城武」が名前)」に聞こえるらしい。こんな感じで、
両方OKというふうにするには非常に難しいのだが、ともかく、わたしは日本語の名前から考えることに
した。それを中国語でどう読むかは、義母に聞き、なんとか折り合いのつく名前にするのだ。
ということで、
@日本名としても英語名としても通用する名前の「音」を考える
Aそれの漢字の候補を考える
Bその中から、中国語読みしてもおかしくないものを選ぶ
という、なんとも面倒な手順を踏むことになった。非常に時間がかかりそうな仕事だと分かっていたので、
早々と考え始めたのである。
日本名と中国語名をつけるにあたって、ちょっと気になっていることがあった。
姓名判断である。名前というのは、本当にその人の人生に影響を与えるのだろうか。これは、比較実験が
できないのでなんとも言いようがないけれど、やはり子供につけようと思った名前を鑑定したら、
「健康は蝕まれ、苦労の連続でしょう。」などと言われた日には、いくら気にしないと言っても、不憫で
ある。
わたしはまず初めに、「そもそも姓名判断というものは当たるのか」というところから検分し始めた。
それに、
いろいろな流派がある(計算の仕方などが違う)ということも知っていたので、そのサイトで採用している
流派がよく当たるのか、ということも知りたかった。
いろいろネット検索して、一番詳しく、便利そうなサイト、
1から始める姓名判断と名づけから取り合えず
検分し始めた。
このサイトの姓名判断では、総格、天格、人格、地格、外格という5つの運を大吉、吉・・・というふうに
示し、さらに詳しく運勢も記されていた。
手始めに、自分の名前を鑑定してみた。というのは、いつか前に母が電話で、
「ちゃんと姓名判断をして、あなたに運のいい名前をつけたのよ。」
と言ったのだ。本当かどうか見てやろうじゃないか・・・ヒッヒッヒ・・・というちょっと意地悪な気持ちで
鑑定してみた。すると、なんと、5つの運がすべて吉か大吉なのである。運勢を読んでみても、なんだか
思い当たることばかり。更には、「結婚後、幸福をつかみやすいようです」というのは大当たりである。
いや、でもこれだけだったら、偶然ということもあり得る。わたしは他の人の姓名判断を勝手にしてみる
ことにした。
その人が精神的に幸福かどうかは客観的に示すデータがないので、分かりにくい。でも、社会的成功などは、
それだけでは幸せかどうかは分からないが、とりあえず運がいいことだけは確かだろう。そう思って、
社会的に成功している友人、知人の姓名判断をしようと思ったのだが、誰も頭に浮かんでこない。土地柄
なのかもしれないが、わたしの郷里には、普通に公務員や会社員になっている人ばかりである。
うーーん。その時わたしはひらめいた。わたしが今まで教えた生徒の中で、「なんて聡明で性格もいい子
なんだろう、きっと素晴らしい人生を送るに違いない。」と思った生徒が男女合わせて3人ほどいる。
わたしはその子たちの名前を勝手に鑑定してみた。
しかし、意外なことに、みんな凶がある運勢であった。ある男の子は、めちゃくちゃいい男なのにすごく
誠実で、絶対浮気できないような性格だったのに、「浮気して責任をとるようになります」などと
書いてある。うーーん。わたしが彼らをよく知っていたのは中学生までだから、やはりそれからのことは
分からないのかもしれない。生徒の姓名判断などしてもしょうがないのかもしれない。
サンプルがなくて困ってしまったわたしは、ハッと思いついて、夫の名前を鑑定してみることにした。
別に「社会的に成功したサンプル」ではないのだが、夫のことは、他人よりはよく分かるので、
当たっているかどうかは分かるだろう。
すると、なんと夫も、5つの運がすべて吉か大吉であった。「自分にぴったりの相手に、遠い異国の地で
出会えた時点で、もうわたしたちはすごいラッキーカップルだったのね・・・」とバカップル的発想で
感動し、夫の運勢を読んでみた。すると、「めまぐるしい程に回転する頭脳、時代の推移を的確に読み取る目」
などと書いてあるので、ふむふむ、当たっているじゃないか、などと妻バカぶりを発揮しつつ読み進めた。
すると、「あなたの家系は、一代で財をなし没落してゆく運命を繰り返しています。浮沈の激しい家系
です。」
と書いてあるではないか。笑ってしまった。当たってるのだ。夫の祖父は、家が営んでいた貴金属屋を、一代で
つぶしたのである。夫は、父親から受け継いだ家業などなく、自分でビジネスを始めた。まだ全然財を
成したりはしていないけれど。
プププッと笑いながら読んで、とんでもないことに気が付いた。もし夫がこの鑑定通り、一代で財を成した
なら、その後わたしたちの子供の誰かが、それを食いつぶして没落させるかもしれないではないか!!
わたしは別に、子供に大金持ちになって欲しいとは思わないけれど(自分のやりたい人生を生きられれば
それでいい)、成人してからわたしや夫に金を無心しにくるような子供になったら、大いに困る。
わたしは、このことを重大に受け止め、その後も、「お金には苦労するでしょう」「お金の管理が下手です」
などと書いてある名前の候補は、即刻削除することになるのである。
さて、他の名づけサイトにも行ってみたが、わたしの名前を鑑定してみると凶があり、更には「波乱万丈の
人生を送り、畳の上では死ねないでしょう。」などと書いてある。
凶が出たこともあり、「海外に住んでいるんだから、畳の上で死ねなくて当然っ」と憤ったわたしは、
結局、上記の始めに見つけたサイトが一番当たっており、しかも詳しくて使い勝手もいいことから、
もうそこだけを参考にしよう、と決めた。
子供につけようと思っている「日本名としても英語名としても通用する音」というのは割と限られているので
、妊娠する前から、もういくつかの候補は考えていた。でも、それに漢字を当てはめて姓名判断してみると、
ことごとく運の悪い名前になってしまう。行き詰まったわたしは、「命名ウィザード」というのを使って
みた。それは、わたしの苗字をいれれば、平仮名で名前の一覧表が出てくる。平仮名の名前をクリックすると
、漢字の候補がずらっと出てくる。その中でも、わたしの苗字と合わせて、5つの運すべてがいい名前、
ひとつでも吉がある名前、などが色分けされている。さらにその漢字で書かれている名前をクリックすると、
運勢が読める。なんと便利!クリックひとつでいろいろ分かり、自分で計算する必要が全くない。
わたしは喜んで、平仮名の名前の一覧表を見始めた。「日本名としても英語名としても通用する音」を持つ
名前でわたしが気付いてないのがまだあるかもしれない。
しかし、それを読み始めてすぐ、笑い出してしまった。こんな名前、誰がつける?というのがいっぱい
あるのだ。
わたしは、つい江國香織氏のマネをして、こんなことをつぶやいていた。
「名づけサイトは、動詞の宝庫だった。いきむ。おがむ。およぐ。おろす。おちる。あそぶ。からむ。
つまむ。さけぶ。はしる。はこぶ。たれる。どよむ。すかす。ならぶ。ほうる。まがる。まぜる。
ゆるむ。わらわ・わざと・わらう。わらう。」*2
などと楽しんでいたが、6ヶ月目に性別が分かってから、改めて真剣に考えることになった。
*
さて、ちびちびちゃんの性別が男の子だと分かってから、名前の候補を書き出した。女の子の名前で、
日本語でも英語でも通用する音を持つ名前、というのは結構たくさんあるのだが、男の子はそれほど
なかった。さらに、「ケン」「ジョージ」のようなありがちな名前ではなくて、ちょっと変わった
名前がいいな、と思ったわたしたち夫婦は、「ゆあん」がいいね、とすぐに意見が一致した。
英語の名前にもちゃんと意味がある。英語の名前に詳しい友達を持つKちゃんに相談したら、
いろいろ調べてくれた。英語のEwanという名前が持ついくつかの意味の中に、「神様の贈り物」
というのがあった。それを知った途端、やっぱりこれしかない、と思った。
日本名としては、わたしは名前を呼ぶ度に優しい気持ちになるような名前がいいな、と思っていたので、
その条件にもぴったりだった。
あと、ほかに込めた願いや、漢字は内緒。
ということでちびちびちゃんの名前はゆあんになった。
当然英語では、日本語のゆあんという音とはちょっと(かなり?)違う発音である。わたしは、英語で
"What's his name?"と聞かれた時のために、発音練習をするはめになった。
それで思い出したんだけど、昔読んだエイミィ・タンの小説で、お母さんの代でアメリカに渡ったという
中国系アメリカ人の少女が、「なんでお母さんは、自分にうまく発音できないような英語の名前を
つけたのだろう」と言っていたが、わたしの息子も将来そんなことを思ったりして・・・。冷や汗。
Oct 15, 2004
*1日本の法律によると、成人してから一つの国籍を選ばなければ
いけないことになっています。
*2「冷静と情熱のあいだRosso(角川文庫)」p113をご参照ください。
元は感動的な文章なのに、パロッて遊んじゃって申し訳ありません。
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