Bつわり

経産婦さんたちのつわりの話を聞いたり読んだりすると、大抵は、「ひたすら○○ばかり食べていた」 とか、「とにかく吐きまくった」とか、簡単な一言で終わることが多い。それは多分、本に載っている 場合は単に紙面の都合のせいなのかもしれないし、、本当に○○一色だったのかもしれない。 ともかく、わたしはそういう話しか聞いたことがなかったので、そういうものだろうと思っていた。 しかし、わたしのつわりはにいくつかの段階があり、その時によって随分違ったのだった。

第一段階(5〜6週/1ヵ月半ば〜1ヶ月終わり)
妊娠が判明した次の日、つまりチャイニーズニューイヤーの日につわりは始まった。(妊娠が分かった 次の日からつわりが始まる妊婦は結構いる。やはり気持ちの問題が大きいのだろうか。)わたしのつわりは 至極ノーマルなもので、「吐き気がする」というものだった。
チャイニーズニューイヤーには次々と 親戚のうちをまわるのだが、居間というものは大抵エアコンがなく、扇風機が回っているだけなので、 暑い。わたしは暑いは気持ち悪いはで、「早く帰ろうよー」とそそくさと帰ってきた。
この段階では赤ちゃんはまだ小さく、へその緒もまだできていないので、お母さんが食べたものの栄養は あまり関係ない。それでも、本で「妊婦によい食べ物」などを読むと、ひじき、豆腐、納豆、海藻類 などわたしが好きな日本食が多い。そう、日本食はヘルシーである。海外にいる日本人妻たちは、 「日本食食べたい・・・でも高い・・・」というジレンマを常に抱えているものだが、妊婦は 「赤ちゃんのためよ」と言って、堂々と日本食を食べればいいのだ!今は、子供にへその緒を通じて 栄養が行くわけではないことは、取り合えず忘れて、とにかく好きな(でも高価な)日本食を、 思う様食べればいいのだ。つわりブラボー!わたしはよく、 嫌なことを楽に考えるためにポジティブな言葉を使って考える作戦をとるので、この状態を、「つわり 天国」と名づけた。
わたしは俄然うれしくなって、 上記の好物や、豆乳、鶏レバーなどを毎日せっせと飲んだり食べたりした。この時点では、常に吐き気が あったが、 食べてからしばらくの間は大丈夫、という状態であった。妊娠してからダメになったにおいや食べ物と いうのもなかった。だから、「わたしはなんでも食べられる妊婦なんだー、よかった。」と思っていた。
しかし、こういう食生活を続けて約2週間、だんだんと吐き気も強くなってきた。すると、こういう あっさりした日本食では物足りなく、濃い味の物が無性に食べたくなった。そういうものを食べたら、 さぞ胸がすっきりするのでは、と日増しに憧れが募っていった。そう思い始めたらもう大好物の 豆腐を見るのも嫌になり、食べられる物を絶対に捨てないわたしが、冷蔵庫にあった豆腐や豆乳、ひじき などをすべて捨ててしまった。普段なら考えられないことだが、この時はもう嫌といったら嫌、もう 見たくないっ、という心境だったのだ。
濃い味の物・・・そう、大好物の餃子なんていいなあ。そう思ったら居ても立ってもいられなくなり、 夫に「餃子食べに行こうっ、餃子」と詰めより、餃子を食べに行った。
店でわたしは一気に8個の餃子を食べ、その時点では至極満足していた。しかし、地獄は夜にやってきた。
臭いのだ。とにかく臭い。もちろん餃子を食べたら誰だって臭いだろうが、それは周りの人が思うことで あって、餃子が好きで食べた本人は、別にニンニクのにおいも気にならないだろう。わたしも普段はそうで ある。でも、この時は、胃の中でニンニクが発酵して、ものすご〜く嫌な臭いを発し、胃からその臭いが たちのぼってくるようだったのだ。それは、ニンニクではない、何か青臭い、植物的な臭いで、吐き気を 助長した。 歯を磨いても磨いても、臭いは胃からやって来るのでどうしようもなかった。わたしはこの臭いに 悩まされながら、もう当分ニンニクなんか食べるもんか、と誓った。

第二段階(7〜11週/2ヶ月初め〜3ヶ月終わり)
次の日から、より強い吐き気との戦いの日々が始まった。料理をする時にたちのぼってくるにおいでオエーッ。 犬のにおいでオエーッ(不思議なことに、犬の糞尿はもちろん臭いけれど、吐き気を催さなかった。 でも、犬やドッグフードのにおいでオエーッとなった)。ハンドソープの臭いでオエーッ。
こういうにおいがより強い吐き気を催すのだが、何にもしなくても強い吐き気があるのだから、 ほとんど寝たきりの生活になっていった。
つわりのことをよく英語で「morning sickeness」*1と言うのだが、 わたしの場合、朝は楽だった。起きてすぐに一本のVitagen(ヤクルトのような乳酸菌飲料。ちなみに、 第三段階に入ると、Vitagenよりヤクルトの方がおいしく感じられて、ヤクルトを愛飲するようになった)を ぐーっと飲むと、すーっと楽になったので、犬の餌をやり、自分の朝食を作って食べ、洗濯や庭の掃除、 犬の糞尿の始末や植物への水やりなどを一気に済ませる。そして、メールチェックなどをしたら、後は ずっとベッドに横になって本を読んでいた。
普段は英語の本を読むこともあるが、この時はそれがしんどく感じたので、日本語の読みやすい本ばかり 読んでいた。本を読むのに疲れると音楽を聞いたが、そのままウトウトと眠れるように、クラシックを 聴いたり(わたしはボーカルの入っている曲だと眠れないし、眠ったとしても、声を張り上げているような ところでハッと起きてしまう)、音楽を聞くのもしんどく感じる時は、外の鳥の声などに耳を傾けていた。
この時期よく食べたものは、三杯酢もずく、ヨーグルト、フレッシュオレンジジュース(納得の味が 見つからず、自分で絞った)、梅干おにぎりなどの酸っぱいもの。一度 なにげなく食べたら、次の日に割りとすっきりして楽だったので、よく食べるようになった。 しかし、こういう物ばかりを食べ続けて3日ほど経った頃、初めて嘔吐があった。それは、酸っぱい物の おかげで少し楽になったので、うれしくて久しぶりに掃除をしたらそうなったので、原因は何か 分からない。或いは、つわり中は吐くものだから、特に原因はないのかもしれない。しかし、吐くという 行為は恐ろしくエネルギーを使い、喉も痛くなるし、涙もダラダラこぼれ、とても嫌な行為である。 できればもう吐きたくない。そう思ったわたしは酸っぱい物を控えめにし、もう決して掃除もしなかった。
「体調がよかったから、調子に乗って掃除したら、吐いちゃった。」
と夫に言ったら、
「調子に乗らないで。」
(多分、「無理しないで。」と言いたかったのだろう。)とも言われたことだし。
後は、ハンバーグやチキンライス(マレーシアのチキンライスじゃなくて、日本の「ケチャップご飯」です) 、スパゲティナポリタンやカレーライスと言った、味が濃くて子供が好きなような分かりやすいおいしさの ものが食べたくなった。自分の中に子供が出来て、まるで自分が子供に戻ったような気がした。
この時期は、夕方頃が一番体調が悪く、夕飯をほとんど作れなかった。家で食べるときは、ご飯を炊いて、 冷凍食品を用意して、サラダを作る、ぐらいしかしなくて、「夕飯を作る」というよりは「用意する」と 言った方が適切であった。または、夫に帰りに何か買ってきてもらった。大抵はバーガーキングでセットを 買ってきてもらった。つわり中、フライドポテトなら大丈夫、という人は結構いるみたいだけど、 わたしもおいしく食べられた。それに、普段は、コーラを飲むのが嫌で、セットの方が安くても、 ハンバーガーとポテトと別の飲み物(ホットティーなど)を頼むほどのわたしが、コーラをとてもおいしく 感じた。シュワッ、とするので胸がすっきりするのだ。ただ、ハンバーガーは玉ねぎ抜きにしてもらった。 ニンニク、しょうが、生の玉ねぎやねぎなどは、食べた後にものすごく嫌な臭いが胃からたちのぼって来る ので、この時期は一切食べなかった。
この時期は自分の唾液も変な味がして、食べ物が苦く感じることもあった。「結局は何を食べても、今は この吐き気から逃れることは出来ないのだ。」と思い、後半は結構精神的に参った。まだ、赤ちゃんのために 栄養をとらなければいけない、という時期でもなかったので、食べられるものを食べた。野菜を調理 することができないので、レタス、トマトなど、すぐにサラダに出来るものだけを買って、後は缶詰の コーン、冷凍の枝豆、そら豆(茹でるだけ)、ベジタブルミックス(これも茹でてちょっと何かと 和えるだけ)、これがわたしのとっている野菜のすべてであった。頑張って食べたつもりだが、最後の 方は、フラフラだった。栄養不足のせいかどうかは分からないけれど。

第三段階(12〜15週/4ヶ月初め〜4ヶ月終わり)
4ヶ月目に入ると、「やっと4ヶ月目だ!もうつわりがなくなるはずだ!」と少し気持ちが明るくなった せいか、随分よくなった。つわりの始まりが「気のせいなんじゃ・・」という始まり方だったので、 気の持ちようで、つわりともすっきりおさらば出来るのでは、 と期待したわたしは、「もうつわりなんてないよ〜〜ん」と自分に暗示をかける作戦に出てみた。
しかし、4ヶ月に入った週から、なんとか夕飯を作れるようになったものの、つわりがなくなったとは 言えなかった。気持ち悪くなったり、嘔吐があったりした。そして、この時期は新たに、「頭痛」という 症状がわたしを襲い始めた。わたしは、「暗示作戦は失敗か・・・」と落胆し、それならもうつわりの 好きにさせてやろうじゃないか、終わるときには終わるだろう、と開き直り、相変わらず自堕落な 生活を続けた。
この頃は、豆腐なども、以前通りおいしく食べられるようになっていたが、相変わらずニンニク、しょうが、 生の玉ねぎ、ねぎはダメだった。それから、少しでも食べ過ぎると気持ち悪くなるので、いつもの7割ぐらい しか食べられなかった。
やっと「つわりがなくなった」と言えるようになったのは、5ヶ月目に入る2〜3日前のことだった。 もっと劇的に、「朝起きたらすっかりよくなっていた!」ということが起こると思っていたのに、 わたしの場合は、本当に少しずつ少しずつよくなっていった、という感じだった。
こうして、3ヶ月以上に及ぶつわり生活はやっと幕を閉じたのであった。

*


「妊娠中はよく変なものを無性に食べたくなる」と言う。そして、「その食べたくなる物は、子供の時に よく食べていたもの」らしい。わたしは食べたいものがいろいろ変わっていったが、つわりのどの段階に おいてもずっと 食べ続けたものは何か考えたら、ひとつだけあった。「のり(板のり)」である。そういえば、子供の 時、わたしがあまりにものりばかり食べたがるので、母が、
「そんなにのりばかり食べてると、お腹が真っ黒になっちゃいますよ!」(←腹黒い人間になると いうことか?)
とよく言っていたのを思い出した。

*1日本語の「つわり」という言葉は、「寝つわり(やたら眠くなること)」 などの言葉があることからも分かるように、「妊娠中の不快な症状」すべてを指す、広い範囲を カバーする単語です。それに対して、「morning sickeness」は主に朝気持ち悪くなることを指すので、 つわり=morning sickenessではありません。

つわり中何を食べたらいいか分からない人へのアドバイス
「これが食べたい!」とはっきり分かるならいいけれど、気持ち悪くて何を食べても吐いてしまうのは 本当につらいですよね。結局は人によって食べられるものが違うので、試行錯誤で見つけるしかありません が、
@酸っぱいもの
A子供の頃好きでよく食べていたもの
などを試してみると、見つかるかもしれません。


Oct 15, 2004

「マレーシアで妊娠・出産」トップに戻る
NEXT