Eチャークエティアオ事件

※これは、2004年4月23日の日記に加筆・修正したものです。

妊娠5ヶ月のある夕方、夕飯の用意をしなきゃ、と思って立ち上がったものの、なんとなく体がだるい。 いつもは、冷蔵庫をのぞき、 食べたいものを考えると、パッとメニューが決まる。しかし、今日は冷蔵庫の中にトマト半分、 大根3cmとかすごく中途半端なものしか残っていない。そこで食べたいものを考えてみると、 ふと「チャ―クエティアオ」が浮かんできた。
←こんなの。
チャ―クエティアオとは、クエティアオという米でできた平たいきし麺状の麺を、もやしや赤貝などと 一緒に炒めたスパイシーな食べ物。代表的な屋台フードである。4ヶ月の終わりまで、つわりでにんにくや 生姜がダメだったわたしは、 つわりがよくなってから、異様にローカルフードが食べたいことがあるのだ。
そう思い始めたら、もうなんだかチャ―クエティアオで頭がいっぱいになった。わたしは普段すごく 真面目に料理していて、めったに外食しない。夫が家で食べるのが好きだし、わたしも料理するのが 好きだから別にいいのだけど、今日はちょっと疲れ気味だし、たまには外食したって罰は当たらないだろう。 そう思って夫に電話したら、「いいよー、後で迎えに行く」と言った。

家の近くにチャ―クエティアオが食べられる屋台があるのだが、「混んでいる」ことと、「雨で道がドロドロ なので、車が汚れる」ことを理由に夫が嫌がり、夫の会社のそばのレストランで食べられるから、 そこに行こうと言われた。屋台ではRM3ぐらいのチャ―クエティアオが、レストランでは高いとRM15を 越えたりするのだが、わたしはとにかくおいしいチャ―クエティアオが食べられればそれでいいので、 おとなしく夫について行った。
夫がたまに昼食を食べに来ると言うそのレストランに着いてメニューを見たら、チャ―クエティアオが 見当たらないので、嫌な予感がした。ウェイターに聞いてみると、夜は出してないと言う。
今考えると、その時点でわたしは「じゃあ出よう」と言うべきだったのだ。しかし、夫が「サンハー ミー(Fresh Prawn Noodle)」ならあるよ」と言った。聞き覚えのない名前なので、「何それ?」と 聞くと、「あんかけの麺」と言う。「Cantonese Noodle(広東麺)みたいなやつ?」と聞くと、 「そう」と言った。
実は、広東麺もこの前からわたしの「食べたい物リスト」に載っていた。広東麺は、クエティアオ にとろりとした中華風のあんがからめてある麺。その名前を聞いた時に、うん、広東麺もいいかな・・・ と思ってしまったのだ。
しかし、わたしはもっと自分の欲望によく耳を傾けるべきだったのだ。広東麺食べたい度を50%とすると、 チャ―クエティアオ食べたい度は正に100%、メーターがびんびんにふれて壊れるほどだったのである。
しかしわたしは、「このレストランを出て、またどこか行くのも面倒だなあ・・・雨も降ってるし ・・・」と思い、サンハーミーを頼んでしまったのだ。
しかし、出てきたのはわたしが思ったものとは違っていた。確かにあんかけの麺ではあるが、麺が クエティアオではなく、黄色い中華麺をパリパリに焼いた物。「かた焼きそばのあんかけ」と言えば、 多分みなさんの想像に近いだろう。
食べれば食べるほど、「これは違う」という思いでいっぱいになった。お腹は一杯になったのに、 ちっとも満足感がないまま、レストランを後にした。
帰りの車の中、別に夫を責める気持ちも、レストランに不満をぶちまけたい気持ちもなかったが、 ただひたすら落ち込み、悲しかった。「チャークエティアオ食べたかった」、「あんなに高いのに 全然おいしいと思わなかった」、「おいしいと思わなかった物がわたしの胃袋を満たしている」などと 考えるうちに、わたしはなんと、しくしくと泣き出してしまった。
今考えると、食べたい物が食べられないだけで泣くなんてアホちゃうか、と思うけれど、その時の わたしにはどうしようもなかった。妊婦に理屈は通じないのである。食べたいったら食べたいのである。
泣き出したわたしに気付いた夫はびっくりし、
「そんなにチャークエティアオ食べたかったの?今から買いに行こうか?」
と言ってくれたが、わたしは、
「食べたいけれど、お腹がいっぱいだもん」
とまた涙を流した。

わたしはがっくりと首をうなだれて、うつむき加減で帰宅した。漫画で言うと、顔に縦線が入り、 「どよーん」という文字が添えられているような様子である。夫は、
「『チャークエティアオに悩むマユミ』。ビデオに撮って日本の友達に見せたいなー。みんなびっくりする よ、「なんてインターナショナルな!」って。」
などと言って笑わせようとしてくれた。3匹の犬も尻尾フリフリして迎えてくれた。きりんは、
←こーんな満面の笑みを浮かべて わたしに向かって突進し、ひざの上ではむはむと犬用ガムを無心に噛み始めた。それを見ていたら、
「こいつは、『○○が食べたい』なんて一言も言わず、毎日同じようなドッグフードを食べて、 こーんなに幸せそうなんだなー。」
と思い、少し気持ちがほぐれてきた。

でも、夜寝る前、やっぱり頭が「チャークエティアオチャークエティアオチャークエティアオ」 でいっぱいだったけど。

そして次の日。
夫は、昼食にチャークエティアオを食べに連れて行ってくれた。でも、どこにでもある食べ物 なのに、いざ食べようと思ったらなかなか食べられないものである。というのは、屋台というのは、 営業時間がバラバラで、行ってみたらもう材料がなくて店を閉めていた、ということもあるし、道のすぐそこに 屋台が見えているのに、車社会のマレーシアでは、反対車線沿いにあるとぐるーっとまわっていかなくては いけなくて、なかなかたどり着けなかったりするからである。
そんなふうになかなかたどり着けなくてイライラしたわたしは、
「日本なら、『○○が食べたい!』と思えば、パッと行ってさっと買って来れるのにさ。」
とブツブツ言っていた。その時、ハッと思った。
日本で「チャークエティアオ食べたい病」にならなくてなくてよかった。そしたら地獄だー。冷や汗。

ということで、家を出て約1時間後、無事にチャークエティアオを食べることができた。

教訓。妊婦が欲望に対して妥協すれば、後で泣きを見る。急がば回れ。(なんのこっちゃ。)

ちなみに、この後も「ローカルフード食べたい病」がしばらく続き、5〜6回外食をした時点で、嫌に なった。というのは、ローカルフードは食べた時はおいしいんだけれど、油っこくて、夜になってから 胃がもたれたり、気持ち悪くなったりしたからだ。ということで、それからは「おうちでご飯」至上主義に なった。

Oct 15, 2004

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