「序章」


 
 「魔女が魔女になる為には、色々な経験を積まなければなりません。
  母さんも、母さんの母さんも、そのまた母さんも皆、
  伝統的な旅に出て、魔法の力と正しい心を養ってきたのですよ。」 
   
  シンシアの母、サリヌが言いました。

 「もう分かってるよ母さんたら、任しといて!ちょっとくらいの遠出なんて
  シンシアはもう大人なんだから平気よ!」
   
  シンシアが得意げに言います。

  シンシアは魔法一族の中でも飛びぬけて愛らしい少女です。
  強い力を放つ大きな瞳、栗色の艶々の髪の毛、華奢な体つき、
  透き通るような肌、ピンク色の頬、すらりと伸びた足、美しい声質、
  シンシアの容姿は見るもの全てを魅了する程のものです。

  でもシンシアの母、サリヌはそれをとても気にしていました。
  サリヌを始めとする魔女一族は、それまで容姿に恵まれてこない
  事が幸いして、幾度も魔物達の手から免れて来たからです。
  魔物達は美少女を狙います。
  その隙をついて、魔女は魔物を退治するのです。
  それなのに美女を助けなければならない魔女が美女と同じ位、
  若しくはそれ以上の容姿を持ってしまっては、
  攻撃できる隙がなくなってしまうからです。
  シンシアにとってのこの旅がどれほど危険な事なのか、
  伝統的な旅を終えたサリヌでさえ、想像のつかない事だったからでした。

  そんなサリヌの心配はよそに、シンシアは胸を躍らせながら
  旅の支度をしていました。
  明日の朝、旅に出るのです。
   
 「えっと、お金もあるし、帽子もあるし、マントもあるし、
  地図も持ったし、筆記用具も……うん。ちゃんとあるわ!」

  シンシアは荷物チェックを終えると、微笑み、ベッドに向かいます。

  ふかふかの布団に包まれて、シンシアは明日から始まる旅の事を
  考えていました。
  母さんから聞いていた、恐ろしい魔物達のことを……。
   
  シンシアは聞いていませんでした。
  その魔物達がどのような目的で、美少女だけを襲うのかという事を。
  どのような手口で美少女達を辱めるのかという事を……。
   
  シンシアは眠りにつきました。
   
   
  旅立ちの朝、村の魔法使い全員がシンシアの旅立ちを見送りに
  来てくれていました。
  白い髭を生やした村の長老は、シンシアに魔法のステッキを受け渡します。
   
 「いいですか、シンシア。お前は我々魔法使いの一族の中でも
  飛びぬけて魔法の力が強い。それは皆が認めている事だ。
  だが侮ってはいけない。確かに皆が乗り越えられた旅ではあるが、
  その中には少数だが魔物に捕まり、帰って来れない魔法使いが
  いた事も事実なのだ。何があっても正しい心をもち続け、
  決して淫らな誘惑に負けないように」
  
  シンシアは大きく頷くと、両手で大きなステッキを受け取ります。
  ステッキは思ったよりも重いものでした。
  銀色の棒でてっぺんに宝石が散りばめてあります。
  とても高価なものに見えました。
   
  見送りに来た魔法使い達は皆、シンシアを心から心配していました。
  皆サリヌと同じ不安を抱いていたのです。
  このような美しい娘が、あの魔物達を退治する事ができるのだろうか。
  魔物達に真っ先に狙われてしまうのではないか……と。

  シンシアはそんな彼らを笑顔で見回し、大きく深呼吸をします。

  「いってきます!」

  シンシアはしっかりとした足どりで、旅立っていきました。

  
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