ヨシオカ コズエ(仮名) 教員


 私は教職過程の単位取得の為、2週間だけ母校の教壇に立ちました。その時が
怪人福助との出会いでした。

彼は他の男子生徒と比べると少し大人しいようでしたが、勉強も出来ました。
でも、 まさか、あんな事をする生徒だったなんて・・・

 ある日の放課後、私が帰ろうとしていた時の事です。

「先生、青木優子さんが貧血で倒れてしまったんですけど、保険室に先生がいないんです。」

そう心細げに私に伝えてきたのはクラス委員をしていた女子生徒でした。

「あら困ったわね、それじゃ看ててあげなくちゃ駄目だわね。いいわ、保健室に行きましょ。」

私はその女子生徒と一緒に保健室への廊下を歩きながら急に不自然な疑問に教われました。・・この女子生徒、名前、、なんていったかしら・・今思うとその時に引き返すべきだったんです。

ガラガラガラッ

「青木さん、先生来て下さったわよ。良かったわね。」

む、むむん、んーんーんっ・・

その女子生徒の声にも、よほど容体が悪いのか青木優子は、声にならない呻き声のようなものしか返す事が出来ず、上掛けをかけられた全身がベッドの上でわずかに動いただけでした。

「どうしたの?そんなに具合が悪いなら、ここじゃなくってお医者様に、、、え!、、はぅ」

容体を確かめようと上掛けをはぐった私は声を失いました。青木優子の両手は背中にねじり上げた格好で縛り上げられ、足首とひざも一つにくくられて縛られていたんですから。

彼女がなにか言いたくても、口の中に大きなゴムボールのような物が押し込まれ、それを吐き出せないようにボールの両端から伸びた細い紐が、首の後ろでくくられていました。


「いったいなんなの、ふざけるにもほどがあるわ・・・」

そう思って女子生徒の方に振り返った私はそこで初めて気がつきました。思いっきり叱ってやろうかと彼女を見た瞬間、背筋が凍りついたのです。保健室の戸口を背にして立って、楽しそうにこちらを眺めているあの女子生徒の顔は、今ベッドの上で無残に縛り上げられている青木優子さん そのものだったんですから。

「もうすぐお家に帰れるんだから少しおとなしくしててね」

む、むむん、んーんーんっ・・

 必死に叫ぼうとする私の口に押付けられたハンカチ、、鼻と口いっぱいに広がる刺激臭を吸込む度に急に私はどうしようもない睡魔に教われました。・・こんなに急に眠くなるなんて・・・思う間もなく私は深い闇に落ちて行きました。

 すでにこんな年齢から怪人福助の才能は開花していたのです。

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わたしが、気がついたのは、保険室のベッドの上でした。両手両足を縛られ、口には猿轡を噛まされ、下着だけで、意識不明になっているわたしを、部屋に戻ってきた保険医の先生が発見してくれたのです。

 そして、縛られたわたしの胸には、一枚の紙が留められていたそうです。
それが、先ほどの「感想はこちら」と書かれた紙でした。そのうえ、その先生は不思議な事をおっしゃいました。

「わたし、外での用が済んで戻ってくる時、よしおか先生にお会いしましたのに。
どうして、先生はここに居られるのです。それに、あの時お会いした先生はいったい?」
 
「先生、その時誰か一緒でしたか?」

「はい、確か先生のクラスの青木さんだったかしら。楽しそうに先生と帰ってましたよ。腕なんか組んでね。まるで・・」

「まるで?」

「そう、仲の良い姉妹。いえ、恋人同士かしら。」

 わたしには何がなんだかわからなくなってしまいました。縛られていたはずの彼女と一緒に帰ったわたし。その時のわたしは?それに彼女のその態度は?

 わたしは、言いようのない頭痛に襲われました。それに気づいた保険医の先生に頭痛薬と水を貰って呑もうとした時、わたしは、手を滑らせてコップの水をこぼしてしまいました。それは、わたしが横になっていたシーツをぬらしてしまいました。
 
「す、すみません。」
 
「いえいいのよ。まだ、意識がはっきりしてないのね。それよりもシーツを変えなければ。」

そう言うと、保険医の先生は、奥に新しいシーツをとりにいきました。水は、シーツばかりでなく、あの紙も濡らしてしまったのです。そして、濡れた紙には何やら数字が浮かび上がっていました。
 
それは、なんと携帯の番号のようです。わたしは、それを近くにあった紙に控え、濡れた紙と番号を控えた紙をポケットに隠しました。そして、戻ってきた先生に、もう大丈夫だからと告げると、そそくさに学校を去りました。

 この携帯の番号の意味する事。

わたしは、その時まだ気づいてはいませんでした。そして

この番号がわたしを後戻りできない世界へといざなう事を・・・・


 
【続く】
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