ヨシオカ コズエ(仮名) 教員(続き)
【前へ】
わたしは職員室に戻ると、自分の机からバッグを取ると、玄関へと駆け出した。そんなわたしを見つけて指導教師の先生が、何か叫んでいたが、気分が悪いのでと叫びながら、校庭を突っ切り、校門を飛び出した。
そして、ポケットからあのメモを取り出して見直した。さっきは動転していて気がつかなかったが、これは、わたしの携帯の番号だった。わたしは、肩のバッグを開けて中を確認した。
確かに携帯や小物が間違いなく入っていた。ホッと一息つくと、わたしは、バッグを閉じかけた。その時、あることに気がついた。このバッグは祖母が大学の合格祝いに買ってくれたもので、かなり使い込んでいたはずなのに、今、手にしているバッグは真新しかった。もう一度見直すと、全てが真新しかった。
わたしは、気味が悪かったが、その携帯で、メモの番号にかけてみた。
発信音が鳴り、しばらくすると相手が出た。
「はい、よしおかですけど。」
よしおか?
「どなた。イタズラなら切るわよ。」
「あなたはだれ?」
「誰って、吉岡ですけど。そういうあなたはだれなの?」
何処かで聞き覚えのある声だった。
「わたしは、よしおかこずえよ。そういうあなたは誰なの?」
「まあ、おんなじ名前なのね。わたしもよしおかこずえよ。あ、明美ね。イタズラはよしてよ。」
明美というのはわたしの友人で、確かにこんなイタズラをしそうだった。
「わたしは、よしおかこずえよ。あなたは、本当に誰なの。」
「失礼ね。もう切るわよ。」
「ちょっと待って。切らないで。」
だが、相手は電話を切ってしまった。わたしの名を名乗り、わたしの携帯を持つ女性が誰なのか。わたしは知りたかったが、相手がどこにいるのかわからないのではどうしようもなかった。
疲れきったわたしは、アパートに帰ることにした。
アパートに戻り、部屋のドアのノブに手をかけると、簡単に開いた。登校する時に確かにかぎを掛けたのに。不思議に思いながらも、部屋の中に入った。玄関にはわたしがいまはいている靴と同じ物が、見知らぬ女性用の靴と並んで脱いであった。そして、部屋の中を見るとそこにはテレビを見入るわたしがいた。そのうえ、バスルームがあき、そこから、バスタオルを身体に巻き、濡れた髪を拭きながらでてきたのも、わたしだった。わたしが、ふたり?
あまりの出来事に声も出ずに、わたしは、呆然とその場に立ちすくんでしまった。
バスルームから出てきたわたしは、立ちすくむわたしに気がついて振り向いた。その時、身体に巻いていたバスタオルがはだけて落ちてしまった。彼女はそれを気にもしない素振りで、わたしに声をかけた。
「ハア〜〜イ。」
その身体は紛れもなく鏡に映ったときの私の身体にそっくりだった。わたしは、落ちたバスタオルを拾うと彼女の身体を隠した。
「あら、恥ずかしくないでしょう。自分の身体なんですもの。」
その言葉にわたしの身体は恥ずかしさで身体中が火照り、興奮のあまり頭に血が上り気絶してしまった。
どれくらいの時間がたったのだろう。気がつくとベッドの上に寝かされていた。そして、横たわっているわたしを覗き込む二つの顔が合った。一つは、あの青木優子さんで、もう一つは、わたしの顔だった。わたしは、なかなか覚めない悪夢にまた、気を失ってしまった。
わたしを簡単に良く気絶する女だと思っているでしょう。でもね、自分そっくりな人が二人も自分の部屋にいるなんて普通ある?さっきから変な体験ばかり続けてしていたら精神も柔になるわよ。
今度は誰かがわたしを無理矢理に起した。目を開けるとそこには、心配そうに?覗き込むわたしと青木さんの顔があった。
「ひい、あなたは誰。青木さんどうしてこの人と一緒にいるの。さっき居たもう一人のわたしはどこ?」
「福助君(仮名)。どうしたの。変な言葉遣いをして。落ち着きなさい。」
「福助君?」
わたしは、そのわたしのそっくりさんのことばが気になった。胸に手をやると、大きく形のいい自慢の胸はぺったんこになり、恐る恐る差し伸べたあそこには、くにょっとしたソーセージ(みえみえ)みたいなモノがあった。わたしは、叫びそうになったが、声は出ず、またまた気を失ってしまいそうになった。そんなわたしを助けてくれたのは、優子さんだった。
倒れかけるわたしの方をしっかりと抱いて、わたしそっくりの女に向かっていった。
「福助君。いいかげんそのマスクを取りなさい。先生がおかしくなってしまうわよ。」
わたしの偽者は、頭に手をやると、髪を掴んで引き抜いた。ように見えたのは、精巧に出来たかつらだった。そして、肩のあたりの皮を少し捲ると、その皮の下からチャックが出てきた。そのジッパーをつまむと、ジ〜〜〜っと引き上げていった。ぴっちりと顔に張り付いていた皮がたるみ。ジッパーが頭の天辺まで来ると、顔の皮は簡単にはがれた。その下から現れたのは、大人しくて、影の薄い福助君(仮名)だった。
「ど、どうして?」
彼はさっきまでの態度とは打って変わって、大人しく口篭もってしまった。
「わたしが、代わりに説明します。かれは、好きな人になりたいという願望があるのです。だから、先生になりたくてこんなことをしたのです。」
優子さんは、彼の代わりにわたしに説明をしてくれた。
「ねえ、先生。このまま。ちょっとの間、彼と入替ってみません事。」
「え、わたしが福助君になるってこと?今、わたしは福助君なの。」
「ええ、それに先生が男の子になりたかったことは知ってますのよ。」
「そ、それは、友達にしか話したことないはず・・・まさか?」
「さあどうでしょう。ねえ、先生こんな機会はめったになくてよ。」
「でも、福助君のご両親やご兄弟には・・・」
「大丈夫。彼は一人っ子で、両親は、海外出張中で、当分は帰りませんわ。」
「そうなの。」
わたしの心は揺れ動いていた。こんな経験は2度とないだろう。そして、このチャンスを逃すと再びやってこないだろうわたしは頷いた。
こうして、わたしは福助(仮名)の男の子として学校生活を楽しむ事にした。福助君の変装テクニックは完璧で、わたしの外見は完璧に男の子だった。彼も、わたしをうまく演じていた。わたしは、段々とこの生活にはまっていった。
ある日の放課後、コズエと優子は校舎の屋上にいた。そこには二人のほかには誰もいなかった。
「優子、ありがとうよ。あのセンコーの姿はどうしてもこの計画には必要だったから、助かったよ。」
ヨシオカコズエは、青木優子に礼を言った。だが、今は、彼女は福助のはずだ。とすると、計画とは何のことだろう。
「いいや、俺のほうもお前に助けられたからおあいこさ。百の顔を持つ少年と言われた俺が飛んだしくじりさ。この、青木優子に逃げられるなんて、お前が、保健室で捕まえてくれて助かったよ。」
その声は、いつの間にか声変わりをしたばかりの少年の声に変わっていた。
「そして、優子に化けたお前が、先生を呼んできて・・・」
「お前が、先生に化けた。ふふふふふ。」
「ところで、本物の優子は今はどこだ。」
「あらいやだ。本物の優子はわたしよ。いまは。」
「あ、ごめんなさい。前の優子さんは今はどこに居るの?」
「暗示をかけて、男の子として生活しているわ。」
「つまり、以前のあなたとしてね。」
「うふふふふ・・・」
優子は返事の変わりに含み笑いをした。そして、二人は、声高らかに笑い出した。
二人の笑い声は、風に消されて誰の耳にも聞こえなかった。そして、二人の会話も・・・・